SASASAさらば我が恋、の巻
そう、あれは忘れもしない、えーと、多分冬休みあけしばらくの頃だったと思う。
辛いばかりの授業をなんとかやりすごし、いつものように涼宮にアイツが
引っ張られて行くのを横目に眺めながら、俺は素早く帰り支度を終えて校門を目指した。世の中の不公平と見る目のなさにグチをこぼしつつ。
そこで、校門の脇に一人たたずむ、清楚で可憐なあの人とであったのだ。
これが運命でなくてなんであろうか。
彼女は、近在では有名な進学校の制服をしなやかに着こなし、我が校の生徒たちが次々とそちらを眺めつつ通り過ぎる中を、
気まずげになるでもなく、意識するふうでもなく、
ただただ自然にすっと立ち、澄んだ大きな瞳で、下校する人の中から、
誰かを探しているようだった。
その穏やかで、かつ全てを見通していそうな視線が俺のソレと一瞬絡む。
こ、これはもしかして、ラブのTYATYATYAチャンス?
アナタは俺の運命の人ですね?!
意を決して、彼女の方に大またで近づくと、俺は高鳴る胸を押さえ、
とっておきの声で彼女に話しかけた。
「お、おおお嬢さん、どなたかお探しですきゃ」
ちょっと噛んだ。ええいめげるな俺。
「よろしければ、俺が呼んできますよ」
「い、いえ、おかまいなく。僕は知人を待ってるだけですから。ありがとうございます」
僕っ娘KTKR!!
まさかリアルで一人称が「僕」の、しかもこんなに綺麗な人を見るなんて。こ、この出会い
を逃しては幾千万の胸騒ぎ!
ちょっとヒかれたくらいで諦められるような相手じゃない。
「お、お気になさららずに、俺こう見えても顔が広いですから。
校内の生徒の殆どは知ってますよ。ささ、名前を挙げてもらえれば、
例え既に下校中でも5分で引っ張ってきますって!」
また微妙に巻いたような気がしたがキニシナイ!
「え、ええと、そうですか。すみません。でしたら、お願いしてもよろしいでしょうか。
2年生で、キョン、ああじゃなくて……」
またか、また貴様かキョン、お前ばかりが何故もてるんだ!
「……僕は、中学が一緒だった佐々木と言います。ちょっと彼の忘れ物を届けに」
そうですよね。ただの忘れ物ですよね。あいつがこんな綺麗な人にモテルなんて、
ありえないですよね。待っててください佐々木さん。
すぐにキョンの奴を呼んできて、それから俺と喫茶店でも行きましょう。
まずはメルアドの交換から!
猛ダッシュで校舎に向かって駆け出す。どうせあいつなら、またSOS団の部室だ。
下駄箱を通りぬけようとした、ちょうど下駄箱の陰で死角になってたところから、
国木田がひょいと頭を出してきた。うぉお。
「危ねえな国木田。もう少しでぶつかる所じゃないか」
「それはこっちのセリフだよ。何を大慌てで走ってるのさ。
そんな1秒を争うような有意義な生活してないだろ君」
「ほっといてくれ。違うんだよ。今校門の所に凄い美人がいてな。
俺はキョンの奴をひっつかまえて、彼女のメルアドからお付き合いをはじめなきゃならんのだ」
「言ってることが支離滅裂だよ谷口。いつにも増して。
……キョンに会いに来た美人がいるのかい? 他校の?」
国木田が考え深げな表情になるが、そんなのを見てる暇はない。
上履きに履き替えてダッシュだ。
「あ、ちょっと谷口。キョンならさっき……」