『キョンたんの蔵書』
ある日長門が言った。
「…買いたい本がある。放課後私と一緒に本屋に来て欲しい」
「良いぞ。ちょうど参考書を買いたいと思っていたところだ」
その時、長門の無表情な顔がわずかに綻んだような気がした。
その日、数学の参考書を買うついでに、気に入った本をノリで買った。「絵の描き方」についての本で結構良かった。
数日後、いつものように佐々木が俺の家に家庭教師にやってきた時のこと。
勉強が一段落した時、俺の本棚の中の場違いな蔵書に気がついた。
「おや……ちょっといいかい」と言いながら本棚にあったあの時買った本を取り出して、やけに興味深げに眺め始めた。
「君がこんな本を持っているとは不思議だな。『絵の描き方』か」
「この前何となく気まぐれで買ってみたけど、かなり面白かったぞ」
「ふーん……この本しばらく借りても良いかい?」
「ああ、もちろん」
断る理由などなかった。
その晩、佐々木は俺の家で晩飯を食べた。というよりほとんど佐々木が作ったのだが。
夜も遅かったので、俺は佐々木を自転車の後部座席に乗せて自宅まで送っていった。
何の変哲も無い平凡な日常だった。
「キョン、明日は一緒に参考書を買いに行こう」
「そうだな、ちょうど物理の参考書が欲しいと思っていたところだな」
「じゃ、また明日」
別れ際の佐々木の笑顔に、不覚にもドギマギした。
次の日、俺は参考書を買うついでに、「海外の民話」の本を買った。長門にプレゼントしたら泣いて喜ぶだろうか?長門はそこまで表情に出さないだろうけど。
そして、半月後、SOS団の面々が俺の家に上がり込んだ。我が団長殿はいつも通り騒々しい。
長門は俺が買った「海外の民話」の本をしげしげと眺めていた。読みたいのかな?
「長門。良かったら貸してやるぞ」
「…ありがとう」
長門の無表情な顔がわずかに綻んだ。
数日後の休日、長門がその本を返しに来た。
「…買いたい本がある。今日私と一緒に本屋に来て欲しい」
「良いぞ。ちょうど参考書を買いたいと思っていたところだ」
その時、また長門の無表情な顔がわずかに綻んだような気がした。正直好きだな、その顔
さらに数日後、俺の家に家庭教師に来た佐々木は俺が買った本を借りていった。
(エンドレスに続く)
最終更新:2008年02月28日 22:13