30-371「佐々木さんの、『カルマ』熱唱の巻」

佐々木さんの、『カルマ』熱唱の巻

  ♪ガラス玉一つ落とされた 追いかけても一つ落っこちた

佐々木の声がカラオケルームにやわらかく流れる。
元々ややハスキーな佐々木の声は、女性ボーカルよりも、
ハイトーンの男性ボーカルの方を上手く歌える。
それは中学時代から変わらないようだ。

  ♪必ず僕らは出会うだろう 同じ鼓動の音を目印にして
    ここにいるよ いつだって呼んでるから

中学の元同級生連中、主に中河らの涙ぐまいし努力のおかげで、
うちわの同窓会が開かれた。まあ1年ちょっと会わなかった程度だし、
佐々木や国木田のように顔を合わせてるメンツも多いので、さほど新鮮味はないのだが、
懐かしい顔ぶれと笑いあうのはそれなりに楽しい。
建前上、酒も飲めない高校生の同窓会なわけで、二次会はカラオケルームに、
少人数で分散して入ることになった。俺は何故か国木田と、親しかったもう一人、
そして佐々木とその友人3人という、あまり代わり映えしない顔ぶれでこの部屋に押し込まれた。
何故か全員頬がやや赤いのは内緒だ。うむ。お酒は二十歳になってからだ。ひっく。

  ♪一つ分の陽だまりに 二つはちょっと入れない
    ガラス玉一つ落とされた 落ちたとき何か弾けだした

普段、カラオケなどとは縁がないような印象の佐々木だが、なかなかどうして、堂々と歌っている。
何故かこっちをやけに強い瞳で睨んでいるように見えるのは、きっと酔いのせいに違いない。
いや飲んでないぞ。健全な高校生ですから。
これも佐々木の受け売りだが、ドイツ語ではビールは「液体のパン」というらしい。
うむ、パン食べただけだ。それもコップ一杯だけだから。

  ♪ここにいるよ 確かに触れるよ
    一人分の陽だまりに 僕らはいる

「そういやキョン、お前佐々木さんはまだつづいてんのか?」
ほろ酔い気分、というにはやや赤い顔で、しかし酔っ払ったというにはやや真剣な表情で、
かつての級友が語りかけてくる。国木田、そこわくわくした表情で予備のマイク向けない。
あと女子が興味しんしんでこちらのやりとりを注目してる気がするんだが、まあこりゃ意識過剰だな。
続くも何も、最初からそーゆー関係じゃないっての。何勘違いしてんだ。佐々木に聞こえたら気ぃ悪くするぞ。
佐々木の声にかぶるように、ひそひそと返答する。
ちょうど佐々木の声量が、何故か大きくなったので、多分聞こえなかっただろう。

  ♪忘れないで いつだって呼んでるから
    同じガラス玉の内側の方から

急に寒気がした。何か女子の方から、隙間風吹いてないか? なあ国木田。
膝に置いたジャケットをはおりながら国木田に聞くと、何故か冷たい視線で睨まれる。
ああすまん、選曲の邪魔したな。

だいたいだな、佐々木は中学3年の時から、俺にはもったいないくらいの出来た親友なんだ。
惚れただの腫れただの、お前らはそうやってすぐからかうけどな、佐々木がそーゆー噂で
傷ついたらどうするんだよ。

何だろう。本格的にアルコールが回ってきたのか、どうも舌を上手くコントロールできない。
リモコンに説教し始めたぞ俺。
本当にあいつは、勉強から、他の様々なことから、いつも色々と教えてくれて、
透明な、でも底の見えない不思議な笑顔でいつも微笑む、とびきりの親友なんだからな。
あいつからは、いつももらってばかりなんだ。せめてあいつの足を引っ張らないくらいしか、
俺は友人としてはできないんだよ。お前らも少しは気をつかってやれってんだ。
本当に、佐々木はとびっきりのいい奴なんだからな。
なんだろう。佐々木の曲が終わる前に、妙に眠くなってきた。ああ、テーブルが近い。
「ギリギリ赤点回避というところかな、でもせめて「いい奴」じゃなくて「いい女」くらい
言ってあげなよ、キョン」
国木田の声を聞いたような気がしつつ、どうやら俺は寝てしまったらしい。
最後に、佐々木の歌がようやく最後のフレーズを歌い終わるのを、
聞くともなく聞いていたような気がする。

  ♪そうさ必ず僕らは出会うだろう
    沈めた理由に十字架を立てるとき
    約束は果たされる 
    僕らは一つになる


いかん、せっかくの二次会だというのに、途中で眠り込んでしまった。
佐々木に起こされて、手を引かれてあわてて出て行くと、
会計を済ませた残りの連中が、生暖かい視線で出迎えてくれやがった。
すまん、ちょっと酔ったらしい。
頭を下げたが、何故か国木田と、さらにもう一発、軽く蹴るマネをされた。
いや、途中で寝たのは悪かったけど……おうち。
何故か女子2人には、背中にもみじビンタをくらう。しかもちょっと本気だ。
蹴りまねより遥かに痛い。
おい、そこまでするか。
「お酒で口割らせてもあの程度だもんねー」
「佐々木さんの歌、ちゃんと聞いてなかったでしょう、かわいそうな佐々木さん」
だからしょうがないだろう、不可抗力という奴だ。
アルコール分解酵素をもたらしてくれなかった、俺の先祖に言ってくれ。
「まあ、あのロケーションで、佐々木さんも勇気振り絞って歌ってたんだから、
キョンはもうちょっとそこらへん汲んであげなよ。僕らだって色々手伝ったわけだし。
 まあ僕の目からすると、キョンにしては大分頑張ったと思うけどね」
意味がわからんぞ国木田。
何言ってるかわかるか佐々木?
まだ俺の手をひいてくれていた佐々木に尋ねると、
歌と酔いとで軽く上気した頬で、佐々木はいつもより、ちょっとだけ意地悪そうな笑みを浮かべ、
俺の唇に人差し指をそっと当てた。
「禁則事項だよ、キョン」
そうささやいていつものように佐々木は笑う。
佐々木、それは朝比奈さんの台詞だから、取らんでやってくれ。
「こういう時に、他の人の名前を出すあたりがねえ」
「まあキョンだしね」
皆がやれやれと肩をすくめる。おまえら、全員俺以上に酔ってるだろ。

                    おしまい

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最終更新:2008年02月28日 22:14
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