38-608「そんな朝」

「最悪だ…」

切るのを忘れたケータイのアラームによって貴重な休日の朝を無駄に早起きしてしまった俺はつい悪態をつく。
さっきからもう一回寝ようとしているが、どうにも目がさえてしまったらしく寝付けない。
隣の佐々木を見るとあれだけ馬鹿でかいアラームが鳴ってたはずなのに、何事もなかったように寝息を立てている。
随分と見慣れたはずなのだが、普段男口調で話すこいつのこうも女らしく無防備な寝顔を見ると毎度毎度胸が高鳴って困る。
起こさないようにそっとベッドから抜け出して、だらしなく脱いだまま床に散らばっていたTシャツとスウェットを着る。
タバコでも吸うか、そう思って壁にかけてあるカバンをガサゴソ探る。
なかなか見つからない。
ようやく探し当てたとき、ベッドから寝返りでもうったような衣擦れの音が聞こえた。
ありゃ、起こしちまったか?
見ると相変わらず気持ち良さそうに寝ている。布団が少しずり落ちて、白い肌が少しだけ寒そうに露わになっていた。
俺はタバコの箱を一瞬だけ眺め、そのままカバンに戻し、布団を掛けなおしておいた。
ついでに、床に落ちていた佐々木の服をたたんでベッドの脇に置く。
出掛けるまでまだ時間はあるな、ちょっとゆっくりできそうだ。
顔を洗ってヒゲを剃る。最近伸びるのが早くなってきた。毎朝剃るのめんどくさいんだがな。
鏡をまじまじとみる。流石にデートの日に剃り残しあったらかっこがつかねぇ。
ヒゲは完璧に剃れていたが、首ンとこにでかでかと赤黒い痕があった。
あいつめ…やれやれ、今日は襟の無い服が着れん。しわになってないやつがあれば良いが。
ふと、二つ仲良く並んだ歯ブラシが目に入る。
最近あいつの持ち物がどんどん増えてきてるな。

朝飯でも作ろうか、と冷蔵庫を開ける。
普段ロクなもんが入っちゃいないが、昨日2人で買い物に行ってきたから大抵のものが揃っていた。
ホントにウチの冷蔵庫か?
卵をかき混ぜながら佐々木に声を掛ける。
「おーい、朝だぞ。そろそろ起きろ」
むぅー、とか、うぅーとか言いながらモゾモゾとベッドの上で佐々木が動く。
ホントに朝弱いな、こいつは。やれやれだ。
「ほら、起きろよ」
「やぁだ」
ようやくまともな言葉を言ったかと思えばコレだ。
「お前なぁ、小学生か」
「昨日キョンがずっと寝かしてくれなかったから仕方ないじゃないか。それなのに起こすなんて…僕は愛しの彼がこんなにサディストとは知らなかったよ」
枕に顔を伏せながら言うもんだから、何言ってんだか聞き取りづらくて仕方が無い。
とりあえずパンをトースターにセット。フライパンも良い感じに熱くなってきた。
「サディスト?こうやってお前のために朝飯作ってやってるのにか?」
「朝御飯なんて置いといて、僕の添い寝でもしたまえよ」
布団から手だけ出して、手をヒラヒラさせてきた。なんだ、オイデオイデでもしてるつもりなのか、それ?
「別に俺は構わんが、そうすると映画、朝一で観れなくなっちまうぞ」
「あぁーそうだった…」
「ほら、そこに服置いてあるからそれ着て顔でも洗って来い」
「わかったよ…」
卵をフライパンに流し込む。いい音だ。
「うおっ」
後ろから思わぬ衝撃があって思わず変な声がでた。
「あのなぁ、料理してるときに後ろから抱きつくなよ。あぶねぇだろ」
「そういっても嬉しいクセに」
そういう問題か?
後ろの佐々木を引き剥がし、振り返って向き合う。
随分と眠たげな顔な顔してんなぁ。笑いこらえるの大変だぞ。
「おはよう、キョン」
「おう、おはよう」
そのまま佐々木はTシャツを引きずりながら洗面所に行った。
俺は卵焼きを皿に盛り付けた後、窓のカーテンを開けた。
一瞬、目がくらんだ。雲ひとつ無い晴天。
映画観た後は散歩でもするかな、手でも繋ぎながら。

fin

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最終更新:2009年02月17日 13:39
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