「最近、勉強が大変で疲れるなー。マジで憂鬱だ」
6月初めの頃の昼休み。俺は溜息をつく。
中学三年生の俺は、退屈をもて余していた二年生までと違い、高校受験のために塾に通い、それなりに熱心に勉強していた。
「やる気が出ないんだよな。何かが消失したような気分で」
「席替えがあったからな。それだろ」
須藤が言う。
俺達は男子三人組で飯を食う。近くで、女子三人組が楽しそうに談笑しながら飯を食っている。
「新しい席にまだ慣れてないのかな?」
古い席の時は楽しかったのは事実かも。
「誰かさんと別になったからなー。何にせよ、欲求不満で変な暴走しないように気をつけてくれ」
暴走って…俺ってそんなにキレやすいと思われているのかな?
近くで女子達が俺の話題を話しているのがわかる。
――「男って急にオオカミになったりするわよね」
――「あるある」
――「キョンくんもやばいんじゃないの?」
――「でも、キョンくんの場合、ササッキーと違ってあんたなら大丈夫だわ」
「「キョン(くん)は変な女が好きだから」」
???国木田と女子の発言がハモった
「おい、国木田。なんで俺の女の好みの話が出て来る?」
今から思えば、国木田視点で俺はめがっさ動揺しているように見えたのかもしれない。
「キョンは僕達でなく佐々木さんと一緒にご飯を食べたいのだよね」
幼なじみに彼女ができたのを嫉妬して嫌味を言う女の子のような口調。
国木田は男…だよな?
――「ササッキーは本当はキョンくんと二人でご飯食べたいのでしょう。わかっているわよ」
「別に俺は佐々木に惚れているわけじゃない。ただいつも勉強を教えてもらっているから、何か恩返ししなければならないかなー、と思っているだけで…」
――「思い切ってキョンくんをデートに誘ってみたら?」
女子は声がデカいな。妙な事を言うと、変に期待してしまうじゃないか。
「デートにでも誘うか?喜ぶと思うぞ」
恩返しでデートに誘うって、どこの腹黒陰謀家だよ。俺をどんな目で見ている?憤慨ものだ。
「デートとか言うが、そんなの誘っても佐々木は喜ばないだろうし、第一奢る金がない。自転車で塾に行ってバス代浮かしているくらいなんだから」
毎年のお年玉は親の意向で定期預金されていて使えない。毎月の小遣いだけでは、数ヶ月に一度音楽のCDでも買えばマジでカツカツだ。
――「世界は、キョンが私と一緒に塾に行く世界と、別々に塾に行く世界に分裂したのかも。なんてね」
――「何言ってるのササッキー。これからじゃないの」
佐々木達の会話が自然と聞こえる。
「その、塾に自転車で行くのが悪いんじゃないのかな?佐々木さんと一緒のバス通勤に戻したらどう?」
一緒に飯を食うもう一人の友人である、国木田がそう付け加える。
さっきから、席替えで離れた席になり、塾のバスに乗らなくなって、佐々木と疎遠になっているから俺の気分が優れない、と決め付けているみたいだ。
だが、バスと自転車、佐々木への恩返し……
……………
……そうか。なんでこんな簡単な事に気が付かなかったのだろうか。俺って馬鹿だ。
でも、断られるかな?
「佐々木話がある」
「何だね急に?女の子と談笑しながら昼食を食するのが願望ということかな?僕で良かったら付き合うのもやぶさかじゃない」
「それもお願いしたいが、今は別の話だ」
何故か佐々木の脇二人がそそくさと席を外す
「佐々木さえ良かったら、今日から塾まで自転車で送ってやるが、どうだろうか?いつも勉強みてもらっている細やかなお礼のつもりなんだが」
一瞬驚愕して、その後少し頬を赤らめる佐々木を見ていると、俺の方も恥ずかしくなる。
「バス代が浮いて助かる。喜んで好意に甘える事にする」
なお、佐々木が自転車のお礼として俺に奢ってくれたのは、また別の話。
言っておくが、デートなんていう色っぽい話じゃねーぞ。
(おしまい)
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最終更新:2009年10月15日 00:22