キョン「ん。なんか今日は白檀の香りがするな」
あれは中学時代の下校時だったろうか。
いやそんな時間のはずはないな。それは俺の隣を定位置と決めて掛かっているらしい、あの佐々木の香りだったのだから。
隣席から身を乗り出し、俺の机に肘をかけた見慣れた格好から
どことなく嗅ぎ覚えのある香りがした。
白檀。ビャクダン科の半寄生常緑高木。インドから東南アジアにかけて産し、約二〇種がある。
心材は淡黄色で堅く芳香があり、仏像や扇の材として珍重される。
細片は香にし、また白檀油を得る。
よく言う「栴檀(せんだん)は双葉より芳(かんば)し」の栴檀とは、白檀の事なのだと前にコイツから聞いた事があった。
まあぶっちゃけお線香の香りを想像して頂きたい。
佐々木「ああ、すまない。最近愛用していた香水を切らしてしまってね…よければ少し離れてくれるかな、キョン」
キョン「俺は好きだぞ、こういう匂い」
佐々木「おやおや、そんなに僕の香りが気に入ったのかい?」
キョン「…それよりもお前普段香水つけてたのか、なんか意外だな」
佐々木「くっくっく。これでも生物学上は女性なのでね。香りというものには気を遣うのさ」
佐々木「それより先に言う事があるんじゃないかね?」
キョン「ああ。おはよう佐々木」
佐々木「ああ、おはよう」
いつもの偽悪的とも言える微笑が、緩んだ気がした。ゆるりとした、それは淡い少女の微笑み。
ああ、栴檀(せんだん)は双葉より芳(かんば)し、とは良く言ったものだね。
こいつがいつか「女」になった時、傍らには……いや。
……雨のせいだな。なんだこのこっぱずかしい感想は。
北高の窓から見上げた空。しとどふる雨。窓が、そんな梅雨の日の思い出をひとかけらだけ閃かせたような気がした。
~最後に、佐々木さん視点でご覧頂こう
キョン「ん。なんか今日は白檀の香りがするな」
佐々木「ああ、すまない。最近愛用していた香水を切らしてしまってね…よければ少し離れてくれるかな、キョン」
佐々木(普通のお線香ならともかく蚊取り線香の匂いを嗅がせるわけにはいかないのでね……)