66-324 遠い空の下へ

 過ぎた日の記憶の中に、眩しい笑顔を探していた。
 魂に響く言葉で、俺なんかに大きな夢を語ってくれたあいつの笑顔。
 それは、こうやって時が過ぎても、記憶の彼方に色褪せないでいて欲しい、という願いだったかもしれないから。

 あいつは強がりな背中を見せて、涙なんか見せなかった。さよならすらも言わなかった。

 性格はまるで違う。けれど、ハルヒとおかしいくらいに似ていた。
 あいつは「ハルヒに憧れたから」だと言った。でも、それだけじゃない。あいつはあいつなんだ。
 あいつらは心が似てたから、だからハルヒに似ていたんだ。そうやって誘蛾灯のように俺はこいつらに惹かれた。
 なのにあいつの心に気付けなかった。

 俺の記憶よ。
 俺は気付かずに手を離してしまった。「あいつが離したから」だって、「あいつは出来た奴だから」って、甘えた事を言って。
 小さな手が震えていたのに、俺はちっとも気付けなかった。本当はただの女の子だって事にすら気付けなかった。
 せめて記憶だけでいい。鮮やかなままでいてくれ。あいつの願いだけは忘れたくないから。

 かけがえのない時間を一緒に過ごしたって、後になってようやく解った。
 だから心に刻み付けて、遠い空の下にいるあいつに呼びかけたい。俺の事をほんのちょっとでいいから覚えていて欲しいと。
 そんな身勝手な言葉を……………。







 って痛ぇ!?

「何しやがる佐々木!?」
「誰が遠い空の下だね誰が!?」
 振り向くと、佐々木がハードカバーを手にして仁王立ちしていた。

「うわコラこれはまだ書きあがってなくてだな………ははは何の事だ!?」
「はっきり『ハルヒ』だの何だの書いてれば丸解りだよ!」
「痛ぇ!?」

「大体だね、これは昔の楽曲の……ええとREQUIEM? 丸写しじゃないか。それに人を当てはめるんじゃないよ」
「ちょっとした落書きだよ。別にいいじゃねえか……」
「先にやることがあるだろう? 大体なんだねREQUIEM、鎮魂歌とは縁起が悪い」
「いいじゃん良い曲なんだぜコレ」
 オーケー解った。睨むな。

 トホホ。あの非日常を駆け抜けた日々が懐かしいぜ。
 いまや俺はしがない物書きの一人。自室に缶詰で、佐々木編集様にせっつかれるのが日課になっている。
 まったくどうやってオチをつけたものかね。

「それはキミが考えるものだろう?」
「少しは優しくしろよ」
 ぽんぽん叩いてネタがハミ出したらどうするつもりだ。
「優しく、かい? くく、それは原稿が終わったらたっぷりとしてあげよう。そう、たっぷりと、ね」

 そっと俺の片頬に手を寄せると、蠱惑的な仕草で微笑む。
 うおう。まったく、あの性別を超越した佐々木様はどこいったんだ?

「ふふ。それはもちろん僕の中に居るよ」
「ホントかよ」
「ちょっと素直になっただけさ」
 十四歳の頃のように無邪気に笑う。

「でなきゃ、キミは私を女と見てくれなかったでしょう?」

筆者注:編集者佐々木シリーズとは全くの無関係です。

■Bパート
「しかしどんな曲なんだねコレ」
「ああ。直情径行の筋肉バカ系軍人が、昔ルームメイトだった秀才系の友人の訃報を聞いてな。
 そいつには理解できないような小難しい話をするタイプだったが、なのに妙に馬があってバカやりながら一緒に過ごしてた。
 けどいつしか疎遠になって………」

「不器用な男が、弔いの為にガラでもない四苦八苦をするって話のテーマソングさ。
 だから、青春の思い出のよすが、亡き友へのREQUIEMってな」
「そうか」
 佐々木は感慨深げに言った。

「良い話だが、ケリを付けられる側に例えられるとなんとも言えない気分になるね……」
「あの時さっさと素直にならなかったお前が悪い」
「くく、……まったくだね」

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最終更新:2012年04月03日 10:05
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