67-732「結果がここにあるのにかい?」

「やあ親友」
「……佐々木? だよな?」
「くく、他の誰に見えるのかな?」
 それは高校三年の冬の終わり。
 なんとか希望通りの大学合格を決めた俺の家へ久しぶりにあいつが訪れた。なんとなく昔の印象と違う気もするが
「仕方ないさキョン。実に丸二年も顔つき合わせなかったのだから」
「そりゃそうだ。久しぶりだな」
 玄関先でにこにこし、俺の顔を下から覗き込んでくる。
 また身長差が広がっちまったかな。

「くく、そうだね。ここ二年ほど出会っていなかったが故に、デジタル的に僕の変化を感じてくれたのではないかな?」
 相変わらず小難しい喋りをする奴だ。
「で、何の用だ」
「何、風の噂で聞いてね。大学合格祝いと言う奴だ」
 言って、玄関に立ったままごそごそとハンドバックを探りだしたので釣られて覗き込むと
「ほらキョン」
「ん!?」
 佐々木が電光石火の如く俺の後頭部に手を伸ばしたかと思うと、ぐぃっとばかりに口吻同士の一次接触をさせられてしまった。
 そのまま、ぬるりと口内に何かが侵入する感触が……………………
 ………………………
 ………

「……実に効いたね。さすがは元非合法組織のお墨付きだ」
 ……おいこら親友。何故俺はベッドに縛り付けられているんだ。
 長い気絶から目が覚めれば、そこは雪国、もとい拘束されていましたなんて洒落にもならんぞ。
「くく、そうだね。こちらも洒落にするつもりはない」
 言って、大の字で固定された俺の傍らに横座りしてくる。
 一体俺に何をした?

「何、ただの睡眠薬だ。キミはこういうドラマチックな演出の方が好みかと思ったのだが」
 そういうドラマチックさはいらん。
「そりゃ残念」

「それよりキョン、聞いたよ。涼宮さんの『力』の一件もようやく落ち着いたそうじゃないか」
「どこでだ」
「古泉くん発、京子くん経由だ」
 京子? ……ああ橘京子か。

「そこで問い詰めに来たと言う訳さ」
 なんだ。お前に問い詰められるような要件があったか?
「大有りだよ」

「キョン。キミはあの春の日、涼宮さんと共にいたいと願った。そうだね?」
 ……いきなり恥ずかしい事を聞くな。
「次の質問に行こう。けれどあれからも部室でダラりとすごすばかり。友情は深まりこそすれ、進展はしていない。そうだね?」
 ……それも橘経由の古泉発か?
「くく、韜晦は結構だ」

「やれやれキョン。キミは良くも悪くも怠惰だな。
 あの春の事件でもそうだ。結果、多くの情報をキミは捉えたはずなのに、その追求もロクにせず、そのまま流れに任せたと聞いている」
「俺にやるべき事が出来れば、その時の俺がやってくれるはずだ。先の事を考えたってどうしようもねえよ」
「朝比奈さん(大)の死、涼宮さんが確定させた未来についての一件、それに一考すらしなかったのかい?
 仲間思いなはずのキミらしくもないね」

「くく、第一だ。そうやって「できる」追求を後回しにした結果、藤原くんの暴走を許したくせにかい?」
 あの事件以前の俺が何かを追求しただけでなんとかなったとでも?

「なんとかなるならない以前に、あの春の事件以前、藤原くんについての追及や相談さえロクにしなかったそうだが?
 朝比奈さん誘拐事件とやらの後、キミは再発が起こらないように対策を相談したかい?」
「それは」
「言っておくが長門さんがなんとかしてくれるだろう、なんてのはアウトだ」

「雪山事件でキミは長門さんを封じ込めうる敵対存在、まあ九曜さんだが……を知ったはずだね? その対策は?
 そもそもあの春の事件でも、キミはαルートで一体何をしていた?」
 ええい古泉め余計な事をべらべらと。


「やれやれ。キョン、キミはそうやって怠惰に時を過ごした結果、おそらくは本来起こるはずのイベントをスルーしてしまったのさ。
 いつもいつも『やるべき事』が向うから来てくれると思ったのかい? そうやって時の流れに任せすぎたのだよ」
「ええい、つまり何が言いたい? 言いたいことは簡潔に言え佐々木」
「くく、僕に簡潔に言えとはご無体だな。そうだね」

「それだけの間をおいても成立しないと聞かされたら、今度は僕が暴発してしまうよって事かな。有体に言えば……そうだね」

「……バッドエンドって事さ」
 佐々木がにじり寄り、ぎしりとベッドが扇情的な音を立てる。
 そうして……………………
 …………………


「あれから半年か」
「くく、そう、半年だ」
 呟くと、佐々木はくつくつと喉奥を嬉しげに震わせた。
「我ながらはしたない真似をしたと思うよ。まあキミが責任を取る男だと解っていたからこそ出来た事だが」

「まあ根本的なところで鈍重な感性をしているとは思っているがね」
「おいこらちゃんと責任とってハルヒからブレーンバスターを喰らった痛みに身をよじらせた俺になんて事を言いやがる」
「あの日、僕の器官に文字通り身を裂くような痛みを与えたキミが言う事か?」
「はしたない事を言うんじゃない」
「結果がここにあるのにかい?」
 言って佐々木はいとおしげに腹を撫でる。
 こいつは細身だから、ちょっとでも膨らんでくると目立つな。

「……嫌いかな?」
「……入ってんのは俺とお前が作ったもんだ。嫌いな訳ないだろ」
「くく、重畳だよ。……流石は僕のキョンだ」
 ああまったく、随分と幸せなバッドエンドもあったもんだな。
「くっくっく、これはキミが動かなかったが故の結末だ。だから物語とするならばバッドエンドと言ってもいいさ。けれど、誰にでも幸福な結末など本来はありえないからね」
「要するに、なんだ」

「僕にとってはグッドエンドって事さ」
 最初からそう言え。
「キョン?」
「ん?」

「……けれどキミにとっては、どうかな?」
「俺だって、俺にとってグッドだと思わない選択肢に人生かけるほど達観はしてねえよ」
「くく、そうかい」
 やれやれ。
)終わり

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最終更新:2012年08月03日 00:17
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