「よう親友」
「やあ親友」
夏休みに入ってしばらく、図書館で見覚えるのある姿を見かけた。
まあ、要するに俺の自称親友、そして今は俺から見ても親友と呼べるちょっと変わった思考形態の女子高生、佐々木だ。
こんなところでお前と会うとはな。
「くく、そうかな? むしろ僕こそ何故キミがこんなところに居るのかと失礼な感想を抱いているくらいなのだが」
「そりゃそうだ」
とはいえ俺だってこんなところに顔を出すことくらいあるさ。
むしろその物言いなら、これまでここでお前と顔を合わさなかったのが不思議なくらいだ。
「ふ、くく、そうか。そうなのかな」
この辺で図書館に行こうってんならここしかないだろ。
「くく、そりゃそうだね」
「ときに佐々木、お前はここで勉強か?」
「うん? ああ、まあ勉強と言えば勉強かな。実は少し気になる分野が出来たものだから他の資料探しのついでにね」
「相変わらずだな」
昔からそうだったが、学ぶという事にこいつは貪欲だ。
目に見える形の学問的な努力のみならず、種々の胡乱な知識や持論からは純粋な知的好奇心と言う奴も相当なものなのだと窺える。
あの春先に語ってくれた「夢」とやらの為でもあるだろうし、そもそもそんな風に生まれついてもいるのだろう。
その点は見習いたいね。
「ウチにはあまり関連資料が無いものだからね。かといって資金を投下するほど急ぎの問題でもないんだ」
「ほほう」
お前の家なんか本がチョモランマしてる様しか浮かばんがな。
まあ行った事なんかないんだが。
「おや、これはもしや僕は遠まわしに我が家への来訪を希望されているのかな?」
「むしろその物言いがやんわりとした拒絶にも聞こえるぜ」
「考えすぎさ。キミにしては詮索するような物言いだね」
「ところでさっきから本を入れ替えているのは何故なんだ佐々木」
「キミも観察力に長けてきたようだね。そうだ、そんなキミに薦めたい本があるのだが」
「そりゃ、いいなっ……っと」
「あ、こら!?」
妙にシンプルな声を上げる佐々木から、さっと取り上げたその本のタイトルは……
「……なんだ…………?」
「ああ、うん。いわゆる知的好奇心だよキョン」
恋愛物なのはまだ解らんでもない。しかし寝取られ萌えとは? 寝取られ萌えに目覚める為の手引、寝取る為の実践テクだのとなんだこれは。
「いや、そうだな、此処は一つ、そうした属性開花や技能がこの先で物入りかなと思ってね」
「お前は一体どこに向かうつもりなんだ」
「さあ、僕にも解らない」
珍しくあさっての方向を向いた後、思い出したように、いつもの目が横目でこちらを見た。
何事もなかったような顔をするのは考えてみりゃこいつの得意技だったな。
「そうだね、解らないから知りたいんだよ、キョン」
「いい話でまとめたつもりか」
「くっくっく」
)終わり
「とまあ、ここまでが演技だったらキミはどうする?」
「一体何の話をしているんだ佐々木」
「くくっ」
「くっくっく、ところで、まったく話は変わるんだがねキョン」
「変わってくれるなら有難いね佐々木」
すると、にやっとあいつの口端が釣りあがる。
「いつか話したが覚えているかい? 僕はね、大学に入ったら思い切り遊んでやろうと決めているのさ。無論全くもって関係のない話なんだがね」
)終われ
最終更新:2012年09月09日 00:05