新学期。朝比奈さんは卒業間近。あの麗しいお姿を見られなくなる、となると、いっそSOS団なんぞ抜けてしまいたい、と思うのだが………
そんなわけにもいかんだろう。俺は積極的にSOS団に関わると決めたのだ。佐々木の気持ちを無碍にしてまでな。
「よう。」
「おはよう、キョン。」
ハルヒは、近く間違いなく来るであろう別れに、どういう反応を示すのだろうか。SOS団は、誰か一人が居なくなっても、SOS団ではなくなる。それを一番知るのがこいつだろう。
受験が近いが、朝比奈さんは部室に変わらず顔を出す。………この理由については、俺だけが知っている。
何故かって?朝比奈さん(大)に、古泉と長門に言うなときつく口止めされているからだ。
「私たちは全てここの囚人。自らで作り出したものに囚われてるの。」
………つまりは、ハルヒからは逃げられない、という事なんだろうか。
春の事件にしたって、企みを見抜いたのは古泉だが、結局は『ハルヒのトンデモパワー』がなければ、俺達は全滅していたはずだ。
藤原については同情はしてやる。但し、自業自得だ。周防については、価値観の相違であり、長門に自我がなければ、長門がああなっていた『もう一人の長門や朝倉』の姿だろう。どこにウェイトを置き、どこを中心にするか。その基準の違いでしかない。
ハルヒが世界を二つに分けなければ、俺と長門が死んでいたかも知れない。無論俺は死にたくはないが、結局は可能性の相違になるだろう。
歴史にifはないというが、未来自体がifのものではないだろうか。
ハルヒを選んだ未来。そして……………そこからやってきた朝比奈さん。
藤原は、if世界の存在となり消えた。つまりは…………そこで俺の未来が確定してしまった、という事になる。
俺の自由意思に見せ掛けた、出来レース。春の事件は、そういう穿った見方も出来るわけだ。
俺には何の力もない。ただ足掻いただけだが、国木田にしろ、何かおかしかった。役立たずだと思ったが、普遍的な人間は、橘位で、後は超人の群れだったと思う。
………………物分かりの良いフリをし、超人のように振る舞っていた、ハルヒとは別のベクトルの馬鹿が感じた違和感。あいつは『仮想狂気』と言っていたか。
部室では、なにも変わらない日常が待っていた。古泉とボードゲームをし、長門が本を読み、朝比奈さんがお茶を入れ、ハルヒがネットサーフィンをする。
その日常が、あいつの言葉を通すと、凄まじい違和感を持って俺に襲い掛かってきた。
俺が覚えていることは、ドアに向かって走ったこと。さっきまでいた場所に戻らなきゃならなかったから。
「落ち着きなさい、キョンくん。」
いつの間にか現れた、朝比奈さん(大)は、疲れた笑顔で俺に言った。
「私たちは受け入れるほかにないの。いつでも好きなときにチェックアウト出来るけど、ここから立ち去ることはできないのです。」
END
最終更新:2013年02月03日 18:17