69-518『VS長門』

「おや。奇遇だね。」
「佐々木か。」
図書館。長門の調べ物に付き合っていたら、図書館には佐々木がいた。
「…………」
長門は、例により液体ヘリウムのような目で佐々木を見ている。
「彼女とデート中だったかな?」
「長門が?そりゃ長門に失礼だろう。」
「…………」
長門が何故か俺から離れない。普段ならフラフラ本の所に行くはずなんだが。
「調べ物……」
長門が俺の手を引く。佐々木は…
「キョン、ついでだ。少し付き合いたまえ。勉強を見てやろう。」
そう言うと俺の手を掴んだ。
「「…………」」
二人の間に火花が散る。
……あとは分かるな?肩を脱臼しちまった俺は、長門に治してもらい、外の芝生にふて寝した。

「クールだと思っていたら、意外に負けず嫌いなのね。」
「それはあなた。」
キョンに散々怒られ、私は罰として長門さんの調べ物に付き合う事になった。
「調べ物って、ブラフでしょ。」
「……嫌な人。」
調べ物もせずに、彼女はドストエフスキーを読んでいる。ロシア文学なんて、長大で陰鬱な話をよく読む気になれるな。
「あなたも。」
私が手に持つ本は、コクトー。偉大な芸術家の本だ。
「私という個体に、人の言う芸術は理解出来ない。」
長門さんはそう言うと、本に視線を落とした。
「理解出来るように噛み砕くのが文章であるし、文章で情景を描かせるものについて、こうした詩も文学書も大差無いって思うわ。」
「理解不能。私には、絶対的に経験が足りない。」
ふむ。
「そうね。思想というものを他者に伝える為のツール。それが芸術であり、長門さんが好きな本であると言えば理解しやすいかしら。」
「…………」


「色々な思想を学び、相手が伝えたい意思を読み取る。それが私にとっての本ね。本で経験は積めないけど、行動の指針にはなる。」
「一理ある。しかし、私は対有機生命体のインターフェースに過ぎない。」
議論は平行線かと思いきや、彼女は意外な言葉を口にした。
「くっくっ。」
「…………?」
いや、可愛いじゃないか。彼女は、完全に頭でっかちの子どもみたいなものだ。
「いや、ごめんなさいね。なんだか私を見てるみたいで。」
自分も、キョンに会うまではこうした『頭でっかち』であり、自身に凝り固まっていただけだと思う。
長門さんは、きっとその頃の私。キョンに出会い、キョンと一緒にいる頃の私だろう。
「意味不明。私という個体は、対有機生命体のインターフェース。」
長門さんは、微妙に表情が変化していた。
「長門さん。」
「…………?」
長門さんがこちらを向く。
「ひとつ忠告しとくわ。私は幾ら語彙を上げようが、出る言葉は一つしか浮かばなかった。
どれだけ美辞麗句を並べようが、相手に響く言葉はシンプルなものよ。」
「理解不能。」
そこはゆっくり学べばいいさ。その前に、キョンが誰かのものになってないといいね。私も譲る気はないけど。

結局閉館時間まで本を読んでいた。キョンは、芝生の上で幸せそうに眠っている。
二人で溜め息とも微笑みともつかない吐息を洩らす。この罪作りな男に、何をしてやるかね。
私は長門さんに笑いかけた。

END

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最終更新:2013年04月01日 00:33
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