70-97『ホラーな話』

何かと話題のホラー。
「マカロニホラーかい?全く、キミらしい。」
「うるせぇ。」
ホラーが苦手な妹は当然避難。こうしたホラーは部屋を薄暗くして見るに限る。
佐々木はおやつに、ディップを持ってきている。最近は蜂蜜につけて食べるのが好きらしい。『チーズも捨てがたい』との本人の弁だ。

血と臓物が飛び散るマカロニホラー。婦女子の裸体にかかる血が艶かしい。

「ねぇ、キョン。」
「ん?」
佐々木が俺に寄り掛かる。
「こうした血糊って、インクなのかしら?」
「さぁな。」
インクなら後が大変そうだが。
「インクだとしたら、さらりとし過ぎだと思うが。もっと粘っこいもんじゃねぇか?ゼラチンとか。」
「ふむ。意外とハチミツだったり?」
かも知れんな。タイムリーに、そこにハチミツがある。お前が試しに身体に塗ってみろ。
「くっくっ。お肌には良さそうだが、遠慮しておくよ。」
ディップにハチミツをつける佐々木。どうでもいいが、よくホラー見ながら食えるな。
「キミも食べたまえ。」
佐々木が、ディップを渡してきた。
物語が佳境に入る。女の子が追い詰められ、血塗れになるグロテスクなシーン。
シーンに集中していると、ハチミツが手に零れてしまった。
そこに、佐々木の口唇が寄る。ぬめり、とした感触と共に感じる佐々木の体温。
「……どうしたんだい?画面に集中したまえよ。」
こ、こいつ……!
佐々木は俺のTシャツを捲り、画面の女の子が刺された腹にハチミツを垂らした。
「お、おい!」
そこに寄る、佐々木の口唇……。な、何か変な気分になっちまう……。
「画面に集中したまえ、と言ったはずだよ?」
とは言えど、気もそぞろだ。佐々木の指先についたハチミツが、胸をなぞる。
「……声から察するに、一番良いシーンだろう?」
ゾンビに食べられる女の子。こうしたエグいシーンもマカロニホラーの魅力ではある。
胸を千切られ、臓物を引き摺り出され……

佐々木が俺を引き倒した。佐々木の口唇が胸を這う。まるで俺自身が画面にいるような錯覚……

血の泥沼に沈む女の子が、ゾンビに食べられる。ぐちゃぐちゃの内臓を弄られ、溢れる血……

ああ、やべぇ……すっげぇ気持ち良さそう……

俺は佐々木の一部に手を伸ばした。既に熱く湿ったそこは、どこまでも画面の感触に近く……

――――危険だな――――我ながら――――

そんな事を思いながら、深く、深く佐々木に沈んでいった……。


「……ったく、もうホラーは見ないからな。」
結局、殆ど内容なんて覚えてもいない。佐々木は、くっくっと含み笑いをしている。
「いいじゃないか、ヒロインとゾンビ、両方を味わえて。」
「言うな、アホ!それに食い物粗末にすんな!」
匂いがするので、窓を開ける。妹に感付かれたらどうしてくれる!
「くっくっ。さて、次は何を見る?」
こ、コノヤロウ……!となりゃ……お前にとってホラーより怖いものを見せてやる。

「お前の大好きな、ラブロマンスだ。」

俺の言葉に佐々木の顔がひきつった。
「あ、アクションにしないかい?」
「聞こえんな。」
こいつはラブロマンスが『痒くなる』と言って、大の苦手だからなぁ。いい気味だ。

「さて、カップル御用達の作品を借りるか。妹やミヨキチも誘うかね。さ、行くぞ佐々木。」
「いやぁあぁぁぁぁあ!」

ホラーより恐ろしきは、人の怨み、とな。

END

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最終更新:2013年04月07日 03:32
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