70-156『サバイバル』

喫茶店で佐々木と話をしていて、無人島のサバイバルの話になった。そこに何を持っていくか。そういうテーマだが……
「長門。」
即答だ。佐々木はリンゴジュースを飲みながら溜め息をつく。
「キミねぇ。長門さんはドラえもんじゃないんだよ?自力で生きないと。」
「となれば、ナイフか?嫌な思い出の象徴ではあるが。」
「護身か。確かに必要だね。」
コーヒーを飲みながら一息つく。
「僕は他に持っていくなら、ビニール袋かな?」
「ビニール袋?」
「ああ。飲み水があるとは限らないからね。」
佐々木が図を書く。穴を掘り、太陽の放射熱と地熱を利用し、水滴を集めるのだという。
「成る程。理に叶う。なら、それで飲み水は確保したとして、次に必要なのは火か。ライターも必要だ。」
「ああ、そうだね。摩擦熱で熾火するのは流石に。虫眼鏡でもいいね。」
こうした『身も蓋もない議題』を、真剣に話し合う。
佐々木が『変な女』と呼ばれる所以であり、俺が佐々木と話していて楽しいところだ。
「変な話していいか?」
「なんだい?」
「中河から貰った、なんとも言えん画像でな…………」
佐々木が携帯を覗く。

キャラクターが、池からターミネーターばりに全裸で登場するシーン。
佐々木は爆笑を堪えている。筋肉隆々の角刈りの『女性』が、シュワルツェネッガーばりの登場、しかも名前が『鯖井 春』。
「ダダッダッダッダッ」
「……くっ……ふっ!や、やめたまえ……!」
携帯を次の画面に切り替えさせた。
内容が内容だけに省略するが……佐々木は足をバタバタさせてもがいている。
「酷い……酷すぎる……!なにが『この中で、幾多の猛者が果てていった。お前のがこの中で生き残る事が出来たら、立派に役に立つものになるだろう』だい……!」
「『さぁ来い!挑みかかれ!』」
「やめたまえっ……!」
笑いを我慢しすぎ、涙を浮かべながら佐々木が携帯を見る。無論。次の画像は更に酷かった。
最後のオチで、背後に戦闘機が飛ぶシーンを見た時が佐々木の限界だった。店内で大爆笑。二人揃って、陽気なカップルというヤツだ。


「向こう半年分は笑ったな。」
「くっくっくっくっ。」
時々、こんな具合に茶々を入れて。
「週末にキャンプに行く話から、何でまたこんなシュールな画像だい。」
「脱線させるのは主に俺だが。」
インドア派二人なだけに、アウトドアなんか似合わないんだがな。
「さて、本当にさっき言っていたものを用意するかい?」
「だなぁ。」
もう少し議題を深めよう。

「…ダダッダッダッダッ」
「やめろ。」
「アーオ!ンダッ!ダッ!」
「よく聞けば、マイケルかよ!」

議題を深めた結果、欲しいものはいくつもあり、それを『持って行く』よりは環境を活かす『知識と技術』が大事だという結論になった。
「週末のキャンプ、楽しみにしているよ。」
「ああ。いくつか実際に試すか。食べられる野草とか。」
「鈴蘭食べたら死ねるよ。あと、イヌホウズキもなかなか効く。」
「おいッ!」

そして週末。楽しいキャンプだ。駅で佐々木と合流したあと気配がしたので後ろを見ると……
そこにいたのは、長門。
「素人判断は、とても危険……。あなたたち二人でサバイバルさせると、致死的な事態に陥る可能性が3%あり、私という個体はそれを望まない。」
……そ、その手一杯の荷物は……
「私もついて行く。許可を。」

こうして、楽しいはずのキャンプは…長門監修のサバイバルに成り果てた。

「……長門さん。サバイバルの話を知っているって、監視していたのかい?」
「回答は、ツキヨダケを食べたら返す。」

女の戦いがあったらしいが、それは俺の知る由のない話だ。

やれやれ、余計疲れちまいそうだ……

END

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最終更新:2013年04月29日 12:38
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