71-294『SOMEDAY IN THE RAINCOAT』

大雨。青いレインコートを着た佐々木に、傘を差すキョン。
「たまたまレインコートを持っていて良かったぜ。さっきまで着ていたし、臭くないか?佐々木。」
「そんなことはないよ、キョン。」
初夏に向かう雨。湿度の高い中、佐々木は真っ赤になり、汗だくになっていた。
降り注ぐ雨が蒸発し、湯気を上げるが如く……上気した頬。
「(き、キョンの匂いがああああああ!な、なんだろ、これ!汗の匂いにまじって微かに匂う、独特の匂い……!
こ、これが噂のフェロモンというものか?!)」
思春期特有の若竹のような匂い。それが気密性たっぷりのレインコートに蒸され、歩く度に立ち上がる。
もしもキョンが帰りにレインコートを着たら、今度は自分の匂いが…………
「(落ち着け………… 心を平静にして考えるんだ…こんな時どうするか……
 2… 3 5… 7… 落ち着くんだ…『素数』を数えて落ち着くんだ…
『素数』は1と自分の数でしか割ることのできない孤独な数字……
僕に勇気を与えてくれる)」
無意味に素数を数える佐々木。漫画的な表現だと、佐々木の目はグルグルに回っている。
因みにフェロモンに匂いはない。考えるんじゃあない。感じるんだ。

「送ってくれてありがとう。感謝するよ。」
「ああ。」
佐々木宅前で佐々木がレインコートを脱ぐと……
「…………」
蒸されてこもった佐々木の匂い。どこか花を思わせる香りと、制汗剤、若干の化粧が混じった匂いが、キョンの鼻をくすぐる。
「やはり汗だくだよ。すまないね。洗って返そうか?」
佐々木の声にキョンは即答した。
「いや、必要ない。」
真っ赤になり、俯く二人。
各々が自宅に戻り何をしたか。それは秘密だが、自室から出た二人の顔は、梅雨の湿気を吹き飛ばす位に晴れやかであったという……。

END

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最終更新:2013年07月01日 01:16
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