塾の帰りに佐々木を自転車の後ろに乗せて送っていくという事が日課だったあの頃を思い出す。
高校生活も2年目を向かえ、およそ一年ぶりの邂逅を果たした佐々木を家まで送っていく最中に。
「こうしてキョンの後ろに乗っていると、中学生の頃に帰れたような気持ちになってくるよ」
ああ、俺もさ。あの頃は塾に行くたびにお前を送っていったからな。この感覚は体が覚えちまっている。
「くっくっ、体が感覚を覚えていてもキョンは僕のことを丸一年忘れていたわけだが」
それに関しては弁解する気になれないな。第一俺はお前のことを忘れていたわけじゃあない。佐々木の家に電話をかけるのも気恥ずかしくてただ時が過ぎ去っただけだ。
「ではそういうことにしておこう。僕もキミにコンタクトを取ることをしなかったわけだからね」
お互い様というわけだ。
自転車を漕いでいても、後ろに佐々木がいるだけで時が巻き戻された気持ちになってくる。
サラリーマンの帰省とかそういうんじゃあなく、本当に中学生になった錯覚さえ覚えてくる。俺も佐々木も対して変わっちゃいないってことかね。
「くつくつ。それはどういう意味だい?」
深い意味はないさ。ただ佐々木のその独特なしゃべりかたも内容は多少違えど他は同じだ。独特の笑いも、自転車の後ろに乗るときに俺の服を引っ張るクセも、だ。
「僕も進歩していないということかな。しかし一つだけ反論させてもらおう。性格やクセは変わっていなくとも身体的数値は多少の変化を見せているんだ」
太ったってことか?
「キョンは相変わらずだね。そういったことではないよ。わかりやすく言えば、体格がより女性らしくなったということかな」
女性らしくなったということは、髪形か?俺には毛先に軽くパーマをあてた程度の変化はわからんが。
しかし1年前にあれだけ一緒にいた俺が気付かない変化だ、対して変わってはいないんじゃあないのか?
シャツを掴む佐々木の力が強くなったのを背中で感じた。後ろを見ると佐々木は少しムッとした表情で俺を見て言う。
「キミはさらりと失礼なことを言うね」
すると佐々木は後ろから俺に抱き着いてきて、
「これで鈍感なキョンでもわかるだろう?」
と言ってきた。が、残念ながら俺にはサッパリわからない。
「すまんがまったくわからん。疲れやすい体質にでもなったのか?」
「……自転車を止めてくれ」
気分を害したのか、停止命令を下してきた。怒って、歩いて帰るとでも言い出すのかと心配したが、どうもそうではないようである。
自転車を止めると佐々木は俺に目を瞑るように指示してきた。
「手を貸してもらおうか」
言われるがままに手を佐々木にゆだねる。佐々木は俺の手首を掴み、何かに押し当てた。柔らかい何かに。
「これでも変化していないと言うのかい?」
触感じゃあわからん。そもそもこれは胸か?
「胸かと聞くのはそれこそ今日一番の失礼な発言だ」
目を開けると佐々木が俺を背もたれにするように寄りかかっていた。佐々木も俺を背にして寄りかかっているので、首を半回転させて見上げるように俺を見ている。
「お前が女性らしくなったという事がムネの成長と同義であることはわかった。ならこんな往来で男にいつまでもムネを触らせててもいいのか?」
「キョンが気付かないからでた強行手段だ。やむを得ないと思うことにするよ」
「ならば掴んだ手首を離してくれ」
佐々木はしぶしぶ、と言った感じで手を離してくれた。
「しかし、成長したと言うのもいいが、女性のむねはどこからが成長したって言えるのかね。佐々木の成長具合は俺にはサッパリわからん。
朝起きたら急に朝比奈さんくらいまで大きくなっていたなら俺でもわかろうものが」
「まだ認めてはくれないのか。ならもう一度触ってみるかい?自転車を止めたまえ」
夕日が沈むまでエンドレスに繰り返すのでここで省略されました。
最終更新:2007年08月25日 15:59