「やぁキョン。」
突然俺は後ろから声をかけられた。
なんだ佐々木か。
「この前はずいぶんと迷惑をかけてしまったね。
本当に申し訳なく思っているよ。」
確かにあれは大変だったな。迷惑もこうむったが、それは佐々木のせいではないさ。
「そういってもらうとこちらも気が楽になるよ。
どうだいキョン?もしも時間が有るのなら、一緒に歩かないかい?」
お前の方からそんなことを言い出すなんて珍しいな。
悪戯を考えた子供のような顔をしてそんなことを訊いてくる。
分かった。一緒に歩かせてもらおう。
時間?勿論十分に有るさ。
「そうかい……くく……相変わらずだね君は。」
馬鹿にされている気がそこはかとなくするが……
高校生にだって休息は健全な学生生活を謳歌するためにも必要なのさ。
「その辺りが変わっていないといっているんだよ。キョン?」
まぁ良いだろう?細かい事は気にせず。
それとも、誘ったのは俺をからかうためか?
「そんなことはないさ。ただたまには一緒にお茶でも飲んでみようともってね。
さっき歩かないかと言ったがね、この先においしいコーヒーを出す店が新しく出来たんだ。
そこに君を誘ってみようと思ったんだよ。」
なるほどな。それは一度飲んでみたいものだな。
佐々木は行ってみたのか?
「残念ながらまだそのお店のコーヒーを味わう事はできていないんだ。
なかなか敷居の高い感じのお店でね。白状しよう。
一人で入るのは少し気後れがしてしまってね。
それで君をこうやって誘ってみているのだよ。」
少し恥ずかしそうに、そう言って佐々木は笑った。
そういうわけなら、
何か裏があるんじゃないかと思う必要がなくなって心置きなく飲む事が出来るよ。
「では行こうか」
そういって俺達は歩き始めた。
そのまま15分ほど俺達はそれぞれの学校の話をしながら、
歩き続けた。
ちょうど信号が赤になったので横断歩道の前で俺達は立ち止まっていた。
この道路は最近まで2車線しかなかったのだが、
最近になって4車線になった道路で結構交通量がある。
そんなことを考えながら、
さっきから俺のほうを向いて話している佐々木の方を向いた。
その時俺はあることに気がついた。
俺達のほんの少し先を走っている黒のセダンのドライバーが舟を漕いでいる事に――
そう思ったとき、そのドライバーがハンドル操作を誤ったのだろう。
そのセダンは俺達の方へと突っ込んできた。
「佐々木――!!」
俺はとっさに佐々木を突き飛ばした。
だが、その反動で俺は逆に動けなくなってしまい、
次の瞬間俺の視界は迫るセダンでいっぱいになった――
初め私には何が起こったのか分からなかった。
いつもの様に彼に話していたら突然彼に突き飛ばされてしまった。
そして、突き飛ばされ倒れてしまった後、
ドン!!ガン!!と言う音に前を向くと、
黒い乗用車が近くの店の壁面にフロントをぶつけて止まっていた。
だが、そんなことよりも、私を突き飛ばした彼がありえないほど遠くにいた。
なぜ彼はあんなところに突然いるのだろうか?
私は目の前で起こった事が分からず、
ただ呆然としてしまっていた。
(そうだ……彼のところに行かなきゃ)
ようやく少し理解が追いついてきてそう思い彼へと近づいていった。
遠くで見ていると気がつかなかったが、
近づいていってみると、
彼の下に血だまりが広がっているのが分かった。
私はその非現実的な光景にどこか呆然と彼の元へ歩いていった。
「おい!キョン!!大丈夫か!!??」
ようやく彼の元へたどり着きそうになった時に、
視界の端から二人の少年が駆け出してきた。
「キョン!キョン!!聞こえるか!!!聞こえたらこの手を握れ!!!!」
少年の一人が彼の名前を叫びながら、
手を握っている。
「くそ!!駄目だ出血が多すぎる!!!脈も弱い。国木田!周囲の安全確保を頼む。」
そう言った後少年の一人は私の方を指差して119番に連絡をするように言った。
(119番……何番に連絡すれば良いんだ……!!)
とっさの事にどうしようもなく思考が空回りする。
そうしている間にも、私に指示を与えた少年はベルトを使い、
腕の出血を抑えたあと、気道を確保して、内臓に損傷がないか触診をしたり、
適切な処置を取っている。
ようやく私が119番通報をしようとしたとき、
もう救急車やパトカーのサイレンが聞こえ始めていた。
どうやら誰かが通報をしてくれたらしい――
3時間後私は病院の待合室にいた。
彼の手術はまだ行われている。
彼の両親や彼を助けてくれた彼の友人らしい人も一緒にいる。
「佐々木さん……きっとキョンは大丈夫だよ。」
助けてくれた少年の一人が私に声をかけてきた。
どこかで見た事がある気がする。
「あ、ひょっとして覚えてないかな?国木田だよ。」
そうだ。国木田くんだ。
中学の頃彼と一緒のクラスだった時に同じクラスだった。
「久方ぶりだね……」
私は精神的に参ってしまっていたのでそれしか言う事が出来なかった。
私はそんなことよりも、彼の事が気になって仕方がなかった。
そんな私の事を分かってくれたのか、
国木田君は何も言わずに一度私に微笑むと、
もう一人の友達のところへと歩いていった。
その少年もどうやら彼のことをすごく心配しているようだった。
8時間後ようやく手術中のランプが消えた。
どうやら手術が終わったらしい。
医者が出てきて一命をとりとめたことを私達に伝えると、
空気が緩むのが分かった。
しかし医者によると予断を許さない状態らしい。
一命は取り留めたものの脳に後遺症が残ったり、
このまま目覚めない可能性もあるそうだ。
私はベッドに横になっている彼の姿を見て、
そういった医者の事を思い出していた。
私の何ができるだろうか……?
実際事故の現場にいても全く何もできなかった私に。
私には世界を変える力があるらしい。
今まで私はそんなものは入らないと思っていた。
しかし、今私は彼が助かるならどんな事でも受け入れるつもりでいた。
(どうか……どうか……彼を助けてください……!!)
そう祈ったとき、
私は自分自身の閉鎖空間の中にいた。
私自身は来た事がなかったが、
話には何度も聞いていたので動揺する事はなかった。
そして何よりもそこには彼がいた。
しかし、地面に倒れて動かないでいる。
恐怖に駆られながら私は彼の元に駆け寄り彼をゆすった。
「ん……」
そういって彼は目を覚ました。
どうやらただ単に眠っていてらしい。
(良かった……)
そう思って彼に話しかけた。
「佐々木か……どうしたんだ……ここは……閉鎖空間か……?」
そう彼は言った
「分からない。気がついたらここに僕はいた」
私は彼を助けて欲しいと思ったらここに居た。
詳しくその事を話すと、彼はあっけらかんとこういった。
「じゃあ、ここを出たらもう助かってるのかもな。」
私は彼のそのあっけらかんとした口調に思わず呆然としてしまった。
くっくく……
思わずそんな笑いがのどの置くから出てきてしまう。
全く彼らしい。
「ありがとな佐々木。わざわざ俺のために力を使ってくれて。」
『彼以外になんて使うつもりはない』
とでもいえたらこの気持ちは解決したのかもしれないが、
先ほどの彼の言葉に影響されてか、
私は意地っ張りな自分を出してしまった。
「保健室のお返しだよ。僕と君はこれで貸し借り無しだ。」
「保健室……?」
彼はしばらく悩んでいたようだが、
ややあって、とにかくありがとうといった。
彼は覚えていないのかもしれないな。
少し残念だが仕方ない。
そしてこの夢の空間ももう終わりのようだ。
この空間での事は彼はきっと覚えていないだろう。
なんとなくそんな気がした――
私は病院の廊下で目を覚ました。
彼は一般の病室に移ったようだ。
何とか面会も出来そうだ。
私は彼の面会に行く事にした。
彼は病室のベットの上で眠っている。
なんとなく彼はすぐ目を覚ます気がした。
彼に肩に手をかけようとしたその時、
病室の扉が勢いよく開かれた――
「キョン――!!」
涼宮さんたちだった。
どうやらようやく連絡が行ったらしい。
全く間が悪いな……少しそう思ったが、私は後を涼宮さんたちに任せて出て行こうと思った。
彼が目覚めたときにいるのは、
廊下で眠っている二人の少年でも、
私でもなく彼女達だと思ったから。
最後に彼女達に「もうすぐ目覚めると思うよ。」
とだけは言って戸に手をかけた。
「どういう意味よ!?」
涼宮さんたちが聞いてきたが、私にもそういう感覚がすると言うだけで、
具体的な理由はないのだから説明のしようもない。
ちょうどその時彼が目を覚ます気配がした。
大慌てで戸をあけて出ようとする。
長門さんに手をつかまれた。
「大規模な情報フレアが観測された。
その発信源は貴方。貴方は彼を治すように情報を改変した。
私は貴方に感謝している」
彼女はそういって私の方を見た。
彼女が手を離してくれないから、彼が目を覚ましてしまった。
「キョン!!何度心配をかけるつもり!?罰として……罰として……」
「佐々木……怪我はないか?」
彼は涼宮さんの話すのを差し置いて、第一声でそういった。
自分の怪我じゃなく私なんかの怪我を聞いてきたのだ。
本当に嬉しさで涙が出そうになってきた。
(もう……ばか……そんなのだから……もう……)
長門さんが手を離してくれたので、
大丈夫とだけ伝えて、部屋を出た。
目から落ちる涙を隠すために――
(ありがとう……心配してくれて。大好きだよ。キョン。君の役に立てたのかな?)
最終更新:2007年07月21日 08:25