キョン「どうした佐々木、やけに沈んだ顔して」
佐々木「ああ、キョンか。この記事を見たかい。また一つ巨星が堕ちたよ」
キョン「ルチアーノ・パヴァロッティ死去か。五輪の開幕で歌ってたおっさんだよな、確か」
佐々木「彼はね、20世紀で最も有名なテナーと言っても過言ではない人だったんだよ。
心ない人は、「三大テナー」をミーハー扱いで軽蔑したりするけど、
カレーラス、ドミンゴ、そしてパヴァロッティが、傑出したテナーだったことは疑いえないよ。
71歳という年齢は、決して夭折とは言えないけど、寂寥感はぬぐいきれないね」
キョン「しかしお前、オペラとか聴くのか。まあイメージに合ってるような気もするが」
佐々木「そうでもないよ。僕もその方面の造形はあまり深くないんだ。
声質でいけば、ドミンゴの甘やかな声の方が好みかな、という程度さ」
キョン「ふうん。まあ、ぜんぜん分からんわけだが」
佐々木「くっくっ。別にここでオペラ談義をするつもりはないよ。そこまでの知識もないしね。
それに、僕が彼を評価しているのは、むしろ、全く違った種類の音楽家たちと関わり、
音楽を楽しんでいた姿勢そのものさ。
知っているかい、彼は、クイーンや、ジェイムス・ブラウンなどとも競演しているんだよ」
キョン「あのゲロゲロいってたじいさんか。オペラとはあまり合わなそうだが」
佐々木「うん……。ちょっと見た限りだけど、正直あまり合っているとは言いがたかったね。
でもね、クラシック音楽という「お固い」、しかも、極めるのに一生かかっても足りないような、
そんな厳しい世界での第一人者が、自分たちの世界に留まらずに、
積極的に他の音楽の世界に飛び出して、それを楽しんでいる、というところが、
とても凄いことであり、素晴らしいことなんじゃないかと思うんだ。
正直、自分の殻に篭りがちな僕としては、うらやましいというのに尽きるね。
あれは、ラテン系の気質というものなのだろうかね。
あらゆることを楽しみ、振る舞い全てが自信ありげに見えるというあの陽気さは」
キョン「それもあるかもな。だけどな佐々木。誰だって、新しい場所に飛び込むときは、
不安もあると思うぜ。既に一定の評価もらってて、それを失うかもしれない奴ならなおさらだろ。
外見はどんだけ自信ありげに見えたって、腹の中に不安抱えてない奴なんていないさ。
俺達だって、受験やら、高校入学やらはそんなもんだっただろ」
佐々木「まあ、言わんとしていることは分かるけど、
君は入学試験の時も、卒業の時も平然と退屈そうにしていたと記憶しているんだが、
内心はやはり違ったのかね?」
キョン「さあ、どうだったっけな。入学後にあまりに非常識なことばっか続いたんで、もう忘れちまったよ。
ま、ようは何かやりたいことがあるなら、思い切ってやっちまった方がラクだってことさ。
多分、実行するよりも、悩んでる方がよっぽど大変だし、心労も多いぜ?
それに、いつなんどき、思わぬ邪魔が入って日常が自分のものじゃなくなるかもしれんしな……」
佐々木「最後の方、やけに実感が篭ってるね」
キョン「はは……。俺もまさかSFに出てくるような銀河規模のヤツに「くそったれ」とか言う破目になるなんて、
想像もしてなかったぜ。まあ、それでも何とか生きてるしな。「案ずるより産むが易し」ってヤツだよ、きっと」
佐々木「そうだね。パヴァロッティほど、人生を楽しんで生きたような人だって、
葛藤や悩みは必ずあっただろうしね。「それでもそれを楽しみに変える」ことが大切なんだろうね。
うん。少し元気が出たようだよ。ありがとうキョン。
僕も、思い切って挑戦してみようか。それが、一凡人なりに、あの偉大な人を悼む方途なのかもしれないね。
……手始めに、君にも関わることなんだけど、その……」
キョン「みなまで言うな佐々木……」
佐々木「キョン……」
キョン「オペラ部を作って自分もオペラに挑戦したいんだろ。分かってるって」
佐々木「は!?」
キョン「学校が違うから大した力にはなれないが、怪しげな部をでっちあげる経験なら役に立つぜ。
? どうした佐々木?」
佐々木「キョンのバカー! そんなわけないじゃないかー!
せっかくしっとりと決められると思ったのにー!」
キョン「変なヤツだなあ」
R.I.P. King of Hi-C...
最終更新:2007年09月08日 10:47