さて、男性諸氏よ。質問がある。
ある朝、自分の息子がきれいさっぱりなくなってたらどうだ。
この場合の息子とは一親等ではなく自分の体二親等付属する分身だ。
男のシンボルである。それがなくなっているのだ。
これは恐怖以外のなにものではない。
人によっては喜ぶ奴もいるかもしれない。性同一性障害なんてのもあるしな。
しかし俺は健常な男だ。どノーマルだ。
モロッコに行ってもないのに性転換される覚えはない。
こんなことをする奴はあいつしかいない。
ハルヒだ。
『流様が見ている』
「おっき………!キョン………ん」
なんだか甲高い声が頭の上に降り注ぐ。もう少し寝かせてくれ。
昨日は本当にいろいろ大変だったんだ。そして今日の危険値も絶賛上昇中なのは確実なんだ。
少しは兄の苦労も察しておくれ。
「キョ………てー」タッタッタ
ふう、飽きたみたいだな。
朝の惰眠はなにものにもまさる。勝利を噛みしめながらまた、寝ようとしたら
「キョン子ちゃーーーん!」
ハッ! ドサッ!
ベッドから転がり落ちて緊急回避した。
妹よ。フライングボディプレスはないんじゃないかな?
そんな起こし方では逆に永眠しかねないぞ。もっと優しい起こし方にしてくれ。
「にゃははははー。起きたよー」
聞いちゃいねー。
はあ、とにかく起きるか。
ベッドから転がり落ちた体制から立ち上がった。
「?」
変だ。自分の部屋に違和感を感じる。
なんだか全てが大きく感じる。なぜだ?
頭と肩も重いし。まだ寝ぼけているようだ。顔を洗って目を覚まそう。
洗面台まで来た俺の目の前には見たことのない長髪の美少女がいる。
おかしい。俺は同居イベントなんてフラグを立てた覚えはないぞ。
それに今俺は洗面台の前に立っているんだ。だから洗面台の鏡には俺が映っているはずなのに見知らぬ美少
女が俺と同じ寝間着を着てこっちを見つめている。
寝間着のサイズが合っていないからいわゆるダボダボパジャマ状態だ。
なんか萌えるなと思ったら少女の頬が赤くなった。
とりあえず右手をあげて挨拶だ。
「よう」
同時に少女も左手をあげた。
「…………」
ラジオ体操第二ー。
ちゃんちゃららー
「うるさいわよー。暴れてないで早くしなさい!」
しまった。やりすぎた。
うん、トイレ行こうトイレ。
・
・
・
・
・
・
・
「…………………………………………………………………………………………」
せーの
「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁーーーーー!!!!!」
「さっきからうるさいわよー!」
落ち着け俺!
もう一度確認するんだ。
おっぱい、ボイーン!
マイサン、ナイーン(涙
ぐ、これはどういうことだ。俺の身に何が起きた。
俺は過去最大の混乱の中にいる。いったいどうすればいいんだ?
「早くしなさーい。遅刻するわよー」
まずい。お袋が呼んでる。
息子がいきなり娘になったなんてどう説明する。いや、説明したって理解づきないぞ。
そもそも俺も何が何だか分からん。
混乱していると。
「キョン子ちゃん、早くー」
妹がヒョコッと顔を出し俺の手を引いて居間に連れられた。
キョン子ちゃん?俺のことか?
「やっときた。早く食べなさい」
お袋も妹も普通にしている。どういうことだ?
さっきから俺の頭の上にクエスチョンマークが量産されている。
グーー
ああ、もう!腹が減っているのは確かだ。目の前の朝食をかたづけよう。
朝食を終えて自室に戻った俺は違和感の原因が分かった。
背が縮んだからまわりが大きく見えるのだ。
そして本来ブレザーが架かっているハンガーには北高のセーラー服が架かっていた。
俺にあれを着ろと言うのか?しかし、探してもブレザーは出てこない。
私服で学校に行くわけにはいくまい。
やむなく俺はセーラー服に袖を通した。
「いってきます」
足がスースーする。なんだか心許ないな。
家を出ようとしたところ
「ちょっと待ちなさい。髪止めしてないでしょ」
お袋に呼び止められた。
「後ろ向きなさい」
言われるままにする。
髪をいじられてなんだか背中がこそばゆい。
「よし!いってらっしゃい」
通学途中なんだかチラチラ視線を感じる。恥ずかしいな。
やっぱり変なのだろうか?
くそ!なんでこんな目に遭うんだ。なんだか腹が立ってきた。
長門か古泉ならなにか知っているだろう。北高に行ってあいつらに話しを聞かなければ。
俺は坂を駆け上がろうとしたところ
「よーっす!おはようキョン子」
谷口に声を掛けられた。やはりこいつも俺が女になったのになんの反応も示さず
「今日もお前は可愛いな」と言ってきた。
ゾワワワワーッと全身に鳥肌が立った。
やめろ。お前にそんなこと言われても気持ち悪いだけだ。
「俺は本来のことを言ったまでさ」
だからやめろって。歯を輝かせてもお前じゃ無駄だ。
様にならん。
「相変わらずのツンぶりだなー。いつになったらデレるんだ?」
なんで俺がデレなきゃいかんのだ。そういうのはハルヒ担当だろ。
「またハルヒか。お前らおかしいぞ女同士で」
う!谷口から負のオーラが出始めた。
ええい!今の谷口は危険だ。いや、前から危険だったが今や俺の身が危うい。
とにかく逃げるぞ。俺は脱兎の如く走りだした。
「ああ!待ってくれキョン子ーー」
教室にはすでにハルヒがいた。いつものごとくハルヒの前に座る
「おはようキョン子」
やっぱりお前もかハルヒ。
しかしハルヒがこの異常に気付いていないのは不幸中の幸いか。
「おはよう」
挨拶だけは返してこれからのことを考える。
長門と古泉と話し合わねば。
「あんたってポニー好きよねー」
ハルヒが俺の髪をいじりながら言ってきた。
「………まあ、否定はしないが」
「あたしにもポニー勧めたもんねー。でもやっぱりあんたの方が似合ってるわよ」
なんか複雑だ。自分がポニーが似合うようになるとはな。
ハルヒはホームルームが始まるやで俺の髪をいじっていた。
昼休み
俺はすぐに文芸部室に行った。そこにはハルヒ以外のSOS団員が揃っていた。
「来ましたね」
なんでこいつらはもう既にいるんだ。俺だって授業が終わったらすぐにすっ飛んできたのに。
それよりも
「お前らはわかるのか」
まずは確認だ。
古泉は朝比奈さんに目配せして、朝比奈さんがうなずいた。
朝比奈さんが手鏡を俺の前に差し出した。
鏡の中にはポニーテールの美少女がいる。間違いなく俺だ。
「あなたが男性から女性に変わったということですね。もちろん理解に及んでいます」
他の奴らは普通にしていたぞ。
「おそらく僕達以外は気付くことは出来ないでしょう。夏の時と同じです。」
「原因はやっぱり……」
「涼宮さんでしょう」
なんであいつは次から次へと問題を起こす。
俺を女にして何がしたい。
「涼宮さんだけが原因ではありませんよ。佐々木さんも原因です。昨日のことを思い出してください」
・
・
・
「僕はキョンが好きだ」
休日のいつものSOS団不思議探索の途中現われた佐々木は話しがあると言うのでハルヒは探索を中止し、
みんなを駅前の喫茶店に集めた。
そこで佐々木は爆弾を落とした。
ちなみに今日は佐々木は一人だ。無機物宇宙人やいけすかない未来人や誘拐超能力者はいない。
「な、なんですって?」
「聞こえなかった?私はキョンが好きだと言ったの。」
佐々木のいきなりの告白にハルヒは驚愕している。ポカーンと口を開けている。顎でも外れたか。
古泉は青ざめている。冷や汗なんかも垂らしているな。
朝比奈さんはおろおろしている。俺とハルヒと佐々木の間に視線を行ったり来たりだ。
長門は佐々木を見つめ続けている。無表情ではない、俺でも読み取れない感情を表している。
佐々木はいたって冷静だ。告白したと言うのに顔を赤らめることもない。
俺は仮にも、いやいや、大多数に可愛いと評される女の子から告白されたんだから普通は嬉しいと思うはず
なんだが、今ここから逃げ出したい気分だ。
なんだ、この空気は生きた心地がしない。
「そ、そんなのダメよSOS団員はね、恋愛禁止なのよ。風紀乱すような真似は見逃せないわ!」
「そうなのかい?」
なんでそこで俺に聞く。そんなこと俺は初耳だぞ。
それに佐々木よ、お前は恋愛感情なんて精神病とか言ってなかったか。
「言ってたよ。確かに精神病だ。なんせ寝ても覚めてもキミのことばかり思ってしまう。キミのことが頭か
ら離れないんだ。これはもはや病気と言う以外ないだろう」
臆面もなく言い切った。
「病気なら治さないといけない。この症状は成就させるにしても失恋させるにしても感情の昇華が最も効果
的らしい。そして有効な手段が直接の告白だと僕は結論づけた」
だからってなんでみんながいるこの場でするんだよ。普通は呼び出したりして二人きりにしたりするだろ。
「この問題は僕とキョンの二人だけでのものではないと判断したからね。」
どういう意味だよそれは。
「つまり結果は問わず告白することが目的だったわけね」
ハルヒが割り込んできた。
お前さっきから反応しすぎだぞ。
「当たり前でしょう。団長として団内の風紀が乱れようとしているのは見逃せないわよ」
なんだよ。さっきからその風紀の乱れっていうは。
「冷静を装っているがこれでもあまり余裕がなくてね、妙なことを口走ってしまうかもしれないよ」
佐々木、お前もいきなり割り込んでくるのか。
「例えばそうだね。キョンとキスがしたいとか」
ブッ!
「二人きりで睦言を囁きあったりね。」
………………………………………………………………………………………………………………………………
完全に空気が凍り付いた。
なんてことを言ってくれるんだ。本来なら嬉しいはずなのに今は針のむしろだ。
「だから…そんなの認められないわ!」
「なんで?風紀が乱れるから?」
「そうよ」
ふむ、と佐々木は間をあけてハルヒを見据える。
「それはキョンが信用できないというわけね」
「そんなこと言ってないわよ!」
ヤバイ、さらに悪い方向に行きそうだ。
「私にはそのように聞こえる。仮に僕とキョンが交際関係になったとしてもSOS団の活動にはたいした影
響はないはず。私とキョンは学校が違うから平日会うなんてことはなかなか出来ないし。私は塾に通ってい
る。休日もたまにしか会うことしか出来ない。それにキョンの性格からして誰かと交際関係だとしても相手
がいない時は通常と変わらないはず。違う?」
「それは……そうだろうけど」
佐々木は一気にまくし立てハルヒは気圧された。
「あんたはどうなのよ」
俺か?
「そうよ。あんたは佐々木さんと付き合いたいの?」
「そうだね。一番肝心なのはキョンの気持ちだ。僕達が議論してもキョンにその気がなかったら一人相撲だ」
いや、俺はだな。
佐々木のことは嫌いではない。どちらかというと好きだ。
でもそれは恋愛感情かと言われると分からん。親友としての好意はあるがそれ以上は自分でも判断つかん。
自分でも情けないと思っているさ。でもいきなり答えを出すことなんて出来ないぞ。
「ふむ、確かにいきなりすぎた。今ここで結論を出そうとしてもろくな結果はでないだろう。ここは時間を
置くのが懸命だ」
佐々木は立ち上がってハルヒに
「ここは私が払うから。涼宮さん寛大な判断を期待するね。キョン、僕にとっては一大事だよく考えた上で
答えを出してくれ。そうすればどんな結果だろうと僕は受け止められる」
そう言った後他の三人を見回して
「失礼するよ」
長門はぼーっと、朝比奈さんは「あ、どうも」と、古泉は会釈を、三者三様の見送りをした。
ハルヒと俺は黙っているしかできなかった。
・
・
・
はい、回想終了。
「もしかしてあの佐々木の告白が俺を女にした原因だとでもいうのか」
「そうとしか考えられません」
んなアホな。どうして告白されたから女にならんといけないんだ。
「おそらくは涼宮さんはあなたが女性であれば佐々木さんと交際することはないと判断したのでしょう」
どうしてそうなるんだ、ハルヒ。
「それにちょっと待て、それだったら中川の時には長門が男になっていないとおかしいぞ」
「本気で言っているんですか?」
なぜか古泉は驚いた様子だ。的外れなことは言ってないはずたが。
「長門さんの時とは状況が全く違います。涼宮さんにとって昨日のことは非常にストレスとなりました。昨
日は閉鎖空間が大量発生しました。この意味が分かりますね」
いや、分からん。何が言いたい。
「はぁ」と三人がため息をついた。
「まさかこれほどまでとは」
「キョン君、いくらなんでもひどすぎます」
「鈍感」
なんなんだ。揃いも揃って。意味が分からん。
「自業自得と言ったところです」
ハルヒがやったことだろ。俺は何もしていないぞ。
「その何もしないということが問題なのですが」
わけの分からんことを言って。
とにかく俺は元に戻れるのか。
「それは大丈夫でしょう。おそらく一時的なものだと思われます」
そうか良かった。で、どれくらいなんだ。
「分かりません」
「はあ?分かりませんって」
「涼宮ハルヒは混乱している。涼宮ハルヒの精神が安定するまでと推測する」
つまりハルヒが落ち着くまでってことか。
「そう」
「まあ、早く戻りたいなら佐々木さんとのことをすぐに決着をつけることですね。涼宮さんは断って欲しい
と思っていますが、こんなことをしてまで交際を認めないことはないでしょう。あなたが出した結論ならど
んな結果でも涼宮さんはあなたの意志を尊重しますよ。それに僕にとってはあなたが男性か女性かはどちら
でもいいことですから」
おま、最後のは余計だ。俺にとっては一大事だ。男の尊厳がかかっているんだ。
「でも今は女の子なんですよね。キョン君…じゃなくて今はキョン子ちゃんですね。うふ、とっても可愛い
ですよ。」
「ユニーク」
長門、朝比奈さん、あなたたちも他人事ですか。
ガクリ
放課後
俺はハルヒによって強制的にチャイナに着替えさせられた。どうやら朝比奈さんと並ぶコスプレ要員らしい。
朝比奈さんはいつものメイド服で給仕をしてくださる。長門もいつものごとく本の虫。ハルヒはネットサー
フィン。俺は古泉と軍艦ゲーム。
俺が女という以外は変化の特にないいつものSOS団だった。
パタンと長門のいつもの帰る合図。
「よし、帰るわよ」
ハルヒの威勢のいい掛け声とともに俺はいつものごとく朝比奈さんの着替えを目撃しないよう部室を出よう
としたら
「ちょっとキョン子、どこ行くの。そのままの格好で帰るの?」
あ、そうだった。チャイナのままだった。朝比奈さん先に着替えて下さい。俺はその後で。
「何言ってんの。一緒に着替えちゃいなさい。時間がもったいないでしょ」
なんてことを言う。俺と朝比奈さんが一緒は問題あるだろう。
「わけ分かんないこと言うわね。女同士問題なんてあるわけないじゃない。ほら、さっさと着替えちゃいな
さい」
うわ!止めろ!自分でやるから!
ハルヒは俺に絡み付いてきた。
結局、俺がハルヒのセクハラと格闘している間に朝比奈さんは着替え終えていた。
俺はハルヒの相手に必死で見ることは出来なかった。いや、別に見たかったわけではないぞ。
帰り道、俺はハルヒと一緒だった。
ハルヒやけに俺にベタついてくる。こいつは朝比奈さんにたいしても同じことをしているな。
「へへー、女同士の特権ね。男だったら出来やしないわ」
そりゃそうだ。男だったらセクハラで訴えられるぞ。
「ふふん、あんた気を付けなさいよ。口調はおかしいけどモテるからね。ぼーっとしてると襲われるわよ。
さっさと彼氏でも作って守ってもらいなさい。古泉くんとかはどう?」
なんで古泉が出てくる。気持ち悪い。男と付き合う趣味なんてないぞ。
「だってキョン子、古泉くんと仲いいじゃない」
仲いいの意味が違うぞ。
それにお前こそどうなんだよ。
「あたしはいいのよ。それより本当に彼氏作る気ないの?」
ああ、ない。プランクスケールほどもない。
「そっか……だったらさ、あ、あたしがずっと守ってあげようか」
「は?」
「あ!い、いや、な、なんでもない!」
ハルヒ、顔が赤いぞ。うつむいててもよく分かる。耳が赤い。
「うー、それじゃあね」
カールルイスも真っ青な勢いで走り去って行った。
異変は翌日にも起きた。
谷口はうっとおしく、国木田は変わりなく、男子の視線を感じる以外の変化はない。
そして放課後事態が悪化していることに気付いた。
『流様が見ている』
部室のドアをノックすらと
「はぁーい、着替え中でーす」と朝比奈さんの返事があった。
暫く待つと入ってよしとの合図があったので中に入った。
長門とメイドの朝比奈さんがいらっしゃった。
「あ、キョン子ちゃんでしたか。それだったらすぐに入ってもよかったのに」
朝比奈さん冗談でもよして下さい。俺、男なんですから。
「あ!そうでした。なんであんなこと言ったんだろう?」
朝比奈さんは首を傾げている。
長門が顔を上げこっちを見た。
「どうした」
コンコンとノックの音がした。
「はぁーい。どうぞー」
古泉が来たか。
「おや、キョン子さんはまだ着替えていませんね。失礼しました。外で待ってます」
待て古泉。面白くないぞ、そのジョークは。
なんで俺がコスプレするのがデフォルトなんだ。
「いえ、昨日は……?」
古泉も首を傾げた。
妙だ。おかしいぞ。
「私達にも記憶の改竄の兆候が見られる」
長門それはどういうことだ。
「あなたが男性体であったという事実が塗り替えられようとしている。このままではあなたがもとから女性
体であることになる」
それは俺が完全に女になると言うことか。
「そう、あなたが男性体に戻ることが出来なくなる」
それは困る。どうしてそんなことになっているんだ。時間が経てば元に戻るじゃなかったのか。
「涼宮さんの心境が変化したのでしょう。あなたが女性のままでもいいと。昨日の今日のことです、心当た
りはありませんか?」
心当たりか、何がある?
あったのか?そんなことが
『守ってあげようか』
「あ!」「あるようですね」
どうすればいいんだ。俺は嫌だぞ女のままなんて。
「解決するには佐々木さんとのことを決着つけるしかないでしょうね。それも早急に。でなければあなたは
ずっと女性のままです」
結局それかよ。まだなんも答えなんて出てないぞ。昨日はそれどころではなかったからな。
「はじめに言っておきます。この件は僕達は手出し出来ません。あなたの問題です」
冷たいな。俺が女のままでもいいのか。
「そうですね。世界改変に比べれば微々たるものです」うわ!本気で言ってるな
「長門!」「問題ない」
こっちは問題大有りだ。
「朝比奈さん。未来の俺は男ですよね」こんな質問する奴は古今東西俺以外いないだろな。
「えーと、分かりません。でも大丈夫ですよ。キョン子ちゃん可愛いから、安心して下さい。きっと上手く
いきます」
それ、全然大丈夫でもないし、安心なんて出来ません。
結局その日の団活は昨日と代わり映えしなかった。
俺は昨日と同じでハルヒに無理矢理着替えさせられた。今度は婦警だ。勘弁してくれ。
長門も朝比奈さんも古泉も止めようとしない。絶対面白がっていやがる。
団活中、佐々木に呼び出しのメールを送った。本来なら次の休日が望ましいのだろうが、そこまで待ってい
たら男に戻れそうにない。
今週中にケリを付けねば。
団活後すぐに光陽園駅前公園に向かった。
ハルヒが一緒に帰ろうと言ったが大事な用があると断った。
すぐアヒル口になったがそれだけで引き下がってくれた。
駅前公園に着く頃には辺りが薄暗くなってきた。
少し心細い。………いやいやいや、待て待て待て。なんでそうなる。元は男だぞ、俺。
長門に呼び出されたときは平気だったではないか。しっかりしろ。
そんなことを考えていると気付いたことがある。今の俺は女であり、佐々木は女に告白したことにならない
のか?しかし告白した時は男だったし、などと心配したがそれは杞憂だった。
「佐々木………と橘と九曜か」
光陽公園には佐々木の他に橘と九曜もいた。こいつらを呼び出した覚えはない。
「えっと……キョン………かい?」
佐々木は戸惑っているな。
こいつらのことも聞きたいがまず確認だ。
「佐々木、今の俺はお前にどう映っている。俺だと分かるか」
「キョン……キョン子?いや、確かにキョンだとは認識出来るが。しかし男性のはずだったが…」
とりあえず佐々木は違和感を感じ取っているな。次に確認すべきことは
「なんでこいつらもいる」
「ん?ああ、彼女達はこの時間の女の子の一人歩きは危険だとついてきたんだ」
「佐々木さんとあなたの行動は出来得るかぎり捕捉しています」
「―――――」
女の子一人は危ないからと言って付き添いに女の子を付けるのはどうかと思うが…こいつらは普通じゃなか
ったな。まあ、佐々木の安全のためなら納得出来る。しかしボディーガード要員なら九曜だけでも充分なは
ず。それに橘本人が出張らなくてもSPぐらいこっそりつけれるだろうに。
「それでしたら、私も直接確認がしたかったのです。あなたに異変が生じているという報告があったもので」
「そう、わた…僕もそれが聞きたい。キミは確かに男性だったはず。それがどうして……」
佐々木はいったん言葉を切って俺を下から上へと見回した。
「いったいキミに何が起きたんだい」
実はだな…
・
・
・
・
・
・
「と、言うわけなんだ」
説明を聞き終えた佐々木は年がら年中事件に巻き込まれる名探偵のように顎に手をあてて
「まさかこんなことになるとは。涼宮さん発想には驚かされるよ」
俺も驚かされたよ。今まで散々珍妙なことに巻き込まれて、ある種、諦めの境地にまで達していたがまだま
だ経験が足りなかったようだ。こんな事態は受け入れられない。
「くっくっ、それは僕をふる前ふりかい。キミが元に戻るにはそれが最短かつ確実な手段らしいが…そんな
理由では僕はキミがこれから言う言葉は耳に入りそうにないよ」
「………そうだな、確かにそれは不謹慎だな」
少し焦っていたようだ。自分ために佐々木をふるのはいくらなんでも誠実さに欠ける。
しかし俺は佐々木の告白に対する決定的な答えはまだ出していない。
普通なら佐々木みたいな魅力的な女の子に、しかも頭もよく小難しくあるが話題に欠けることのない奴に好
きですなんて言われたら彼女がいなかったら二つ返事でOKするところだが、悲しいかな生まれてこのかた
およそ十七年、異性から告白なんてされたことがない俺は的確な返事を返すことが出来なかった。
しかも状況が状況だ。あの場で何か出来る度胸は俺はなかった。
それに佐々木とは中学三年での一年間に及ぶ友人としての付き合いがあった。
その佐々木のさらに一年ごしによる告白だ。俺もそれに対して真剣に考える必要があった。
だが昨日今日の騒動で焦った俺は答えを出す前に佐々木を呼び出してしまった。俺の不手際としか言い様が
ない。ならどうするか。
決まっている。
今の俺の正直な気持ちを言うしかない。
俺は佐々木を正面から見つめる。
「佐々木、聞いてくれ。お前に告白されたことは正直嬉しかった。だが、今の俺はお前に対する返事をもっ
ていない。YESともNOとも言えない」
佐々木は静かに佇んで聞いている。
「それなのに、焦ってお前を呼び出したのは謝る。すまなかった」
佐々木の瞳はずっと俺だけに向いていた。
「これから先どうなるかは分からない。お前を好きになるかもしれないし、もしかしたら別の奴かもしれな
い。だからそれまでは…答えが出るまでは『親友』でいてくれないか」
俺が言えたのはそれまでだった。
佐々木は瞳を閉じ「ふぅ」とため息を吐いた。
「まったく。キミという奴は、優柔不断だね。いや、卑怯と言うべきか」
う、それは謝る。しかし今はそうとしか言い様がないんだ。
「くっくっ、だがまぁ、それならまだまだこれから機会はあるということだ。これ以上の関係になるには僕
の努力次第というわけだ」佐々木は目を開いてこちらに歩み寄った。
「ならば今暫らく、よろしく頼むよ『親友』」
そう言って片手を差し出してきた。
「ああ、こちらこそよろしく」
俺は佐々木の手を握り返した。
パチパチパチと拍手の音がした。
音源の方を見ると橘と九曜がいた。
「いやぁ、素晴らしいのです。青春なのです」
「――親友―――いい」
ぐはっ!そういえばこいつらがいたんだった。すっかり忘れていた。
「『これから先どうなるかは分からない。お前を好きになるかもしれない』」
「――親友―――親友―――」
ええい止めろ。くそ、自分の顔が耳まで真っ赤になるのが分かる。
なんで佐々木は平然としていられるんだ。とんだ羞恥プレイだ。
橘は一通り笑ったあと
「これで用件はすみやしたか?」
いや、待て。そもそも俺は男に戻るために佐々木を呼び出したんだ。このままではなんの解決にもならん。
だいいち俺が女のままでは佐々木も困るだろ。元は男だとはいえこのままでは佐々木は女が好きだというこ
とになる。
「キョン……いや今はキョン子か。それは些細なことだよ。僕はキミというパーソナリティーに好意を抱い
ているのであって、キミが男であろうが女であろうが大した問題ではない」
なんで俺のまわりは男の威厳というか矜持を軽視するんだ。俺が女のままでいいということか?
あいにく俺は元に戻りたいんだよ。
「ふむ。今のキョン子は外見上からして魅力的にすぎる。変な男に言い寄られるのは不愉快だな。明日ぐら
いに涼宮さんに忠告しておくかな。そうすればキミも元に戻るだろう」
本当か?スマン頼む。
しかしハルヒに言うだけで元に戻るのか?
あいつは人の言うことはほとんど聞かないぞ。
「なに、簡単さ。キミが女性であることの無意味さデメリットを伝えればいいだけさ。涼宮さんが聞く耳を
持たないのは彼女にとってくだらないことだけだよ。それが多いから聞き分けがきかないように見えるだけ
さ。まあ、人は見たいものを見たいように、聞きたいことを聞きたいようにしてしまうからね。なにも彼女
だけに限ったことでさないさ」
そうか。まあ、佐々木は俺が知るかぎり弁論に関してはこいつの右に出るものはいない。
佐々木に任せておけば大丈夫だろう。
「悪いな、佐々木」
「なに、お安い御用さ」
「さて、これで用件は全てすみましたね」
そうだな、最後は佐々木に頼む形になって情けないがなんとかなりそうだ。
「ではこれで解散ですね。私は佐々木さんを自宅までお見送りしますので、九曜さんは彼女をお願いします」
いや、そんなことしてもらわなくてもいいぞ。一人で帰れる。
「それはダメです。今のあなたは女の子なんですから。もう、日はとっくに暮れてます。こんな時間で女の
子一人では襲われちゃいますよ。なんのために私と九曜さんが一緒に出張ったと思っているんですか」
なるほどそういうわけか。
しかし九曜と二人で帰るのか。
「大丈夫ですよ。九曜さんと私達があなたに直接危害を加えることはありません。これを機にもっと仲良く
なって下さい」
「僕もそれを願うよ。それではまた」
「失礼します」
佐々木は片手を振って、橘はピョコンと頭を下げて去って行った。
あとに残されたのは俺と九曜だけだ。
「―――」
相変わらず何考えているか分からないな。
「………」
こうしていても仕方ない。帰るか。
自転車を引いて九曜と家路につく。
「―――」
しかし………間が持たない。こいつとの接点がないから会話の種がない。
まあ、あったとしても親睦を深めようとは思わないが。
「………」
自転車に乗らずに引いている家に着くまで時間がかかる。
自転車でさっさと行ってもいいが、それはさすがに九曜に悪いだろう。
でも、スーと平行移動しているこいつを見ると自転車の速度に構わずに、ついてきそうだ。
………それはちょっと不気味だな。
「乗るか?」と言おうかとしたが、髪が長すぎるから車輪に絡まりそうだ。
「………」
「―――」
結局、気まずい空気のまま家まで着いた。
「玄関先まで見送ってもらってありがとな」
とりあえず礼だけは言っておく。
「―――」
しかし九曜はその場に立ったままだ。どうしたんだ。
「―――親友――――」
手を差し出してきた。握手しろということか?
いや、佐々木の真似か。
「親友ってのはな、友達同士が互いに信頼出来て打ち解けあう仲たんだ。俺とお前は違うぞ」
言って聞かせる。
しかし九曜は全く微動だにしない。これは握手するまで帰りそうにないな。
「とりあえず友達からというところから」
握手をした。
「―――友達―――?」
首を傾げた。
「ああ、友達だ」
暫らくそのままにしていたがやがて満足したのか、またあの平行移動で夜の闇に溶けるように去って行った。
長門とはえらい違いだな。いや、長門もはじめは結構機械的だった。今ではかなり人間らしいが。
九曜はまだ知らないことが多いのだろう。いろいろ経験していけばあいつも人間らしくなっていくだろう。
そういえば九曜はどこに住んでいるのだろう。いくら宇宙人とはいえ屋根のないところに住んでいては体に
悪いなどといった心配はあいつには余計かな。
自室に帰った俺はベッドに倒れこんだ。
今日は疲れた。昨日は昨日で疲れたが、今日のはこの三日間で最大だ。
自分を誉めたいよ。
佐々木のおかげで元に戻る目処もついた。
無事に戻ったらあいつになにか礼でもしないとな。
などつらつら考えていたがいつの間にか眠りについていた。
翌日
制服のままで寝てしまったから服とスカートにしわが出来ていたがもともとの不精スキルが発動してそのま
まで登校した俺を見たハルヒが余計な世話焼きスキルが発動して長門と朝比奈さんとおまけに鶴屋さんまで
交えてちょっとした騒動があったがこれは蛇足だな。
その日、ハルヒは用があると放課後部室には来ずにすぐに帰った。
佐々木が呼び出したのだろう。佐々木とハルヒがなにを話し合うか気になるが、ここはあいつに任しておこ
う。
その夜、ハルヒから電話があった。
『今日、佐々木から呼び出しがあったんだけどさ』
それは知ってるとは言えないからうなずいておく。
『昨日あんた、佐々木と会ってたんだって』
佐々木のやつそんなことを言ったのか。
『あんたと佐々木、中学の時仲良かったらしいけど……そういう趣味?あんた男に興味持ってないようだか
ら』
なんだ、そういう趣味とは。佐々木よ、ハルヒになにを吹き込んだ。
『あたしは別にそういうのは否定しないけど。個人の自由だし。それにあたしも………』
急にゴニョゴニョと声が小さくなった。聞こえないぞ。
『とにかく!あんた、慎みなさい。SOS団員なんだから!』
と、だけ言って切りやがった。
………佐々木、本当にハルヒになにを言ったんだ。
ハルヒもなんだか変だったし。不安だ。
こんなんで俺は元に戻るのか?
今日やることのない俺は寝るしかなかった。
朝、妹に叩き起こされた。
「キョン君おっはよー」
キョン君じゃない、お兄ちゃんと言いなさい。
ん?キョン君?
もしや、と洗面台に直行した俺はそこにいつもの顔を見た。
良かった。戻っている。
佐々木はうまくやってくれたようだ。
とりあえず佐々木に電話して礼を述べた。そしてハルヒとなにを話したのか気になっていたから聞いてみる
と『女同士の会話には秘すべき秘密があるのだよ。詮索は無用だ』とはぐらかされた。
まあ、聞いてはいけないならば無理強いはするまい。
俺は久しぶりにブレザーに袖を通して登校した。
いつもの目線、まわりの奴らも女扱いしない。いいね。
教室にはやはりハルヒが先にいる
「おっす」
挨拶した俺を胡散臭げに見た。
「機嫌いいわね。なんかいいことでもあった?」
「まあな。」
「あっそ」
興味ないのかそれだけ言って机に突っ伏した。
放課後
ハルヒがまだ来ていない部室で
「おやおや、戻ったようですね」
なんだそのもの言いは、戻らなかった方がよかったみたいだな。
「いえいえそんなことは。ただ、もう少しあのままでもよろしかったと」
洒落にならんことを言うな。面白くない。
「残念」
長門、お前まで。
というかお前が情報操作すればすぐに解決出来たのではないか?
「まさか」
長門、棒読みだぞ。
「でも、少し残念です。せっかく仲間が出来たのに」
朝比奈さん勘弁して下さい。俺はもうコスプレなんてしたくありません。
三人とも無責任なことばかり言ってくる。
あかほり〇とるや高橋〇美子もびっくりな、リアル性転換なんてもうこりごりだ。
次の日の放課後、俺はとんでもないのを見た。
「ハルヒなんだそれは」
「これ?なんかね、有希とみくるちゃんと古泉くんと、あと佐々木さんの友達の京子ちゃんだっけ、みんな
から面白からってくれたの」
部室の机の上に置いているのは
ら〇ま1/2、MAEZ、かしまし
等々ある方向に偏りがあるDVDやら漫画、文庫等だった。
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ホント…もう、マジやめて。
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その後、俺の性別が宙を舞う紙より不安定になったのは言うまでもない。
END
最終更新:2007年10月10日 21:46