23-381「アーサー王物語」

「キョン、君はアーサー王物語には興味あるかい?」
国民的RPGで出てきた聖剣とか聖杯とかモードレッドに殺されたぐらいはな。
だが詳しい話は期待するな。本を読んでない上辺の知識じゃあ所詮その程度だ。
「その中の登場人物にマーリンと呼ばれるドルイドがいてね。
 ああ、ドルイドとは神官の事を指すけれど、この際魔法使いと思ってくれていい。
 彼はウーゼルとアーサーの二代に渡って仕えた人物で、魔法や知識に秀でた人物だった。
 中でも予見に関しては他のどのドルイドよりも勝っていたと言えるだろうね」
そうかい。王道的な賢者だなそれは。
「アーサーがウーゼルとイグレーヌから生まれる事、カリバーンを手に取りアーサーが王になる事もそうさ。
 ただ彼が予見した事は何も栄光と繁栄を導いた事ばかりじゃない。
 マーリン自身が教えたニムエによって永久に幽閉される事や、
 モードレッドがカムランの地でアーサーを殺してアーサー王の話が終焉を迎える事もなんだ」
賢者だったら分かってる自分の破滅ぐらい回避したらどうなんだ。随分と間抜けな奴だな。
「更にマーリンはその未来に向けていくつもの行動を起こしているんだよ。
 ウーゼルがイグレーヌに一目ぼれをした時は彼女の夫であった王を殺害した上に夜這いまで援助。
 嫡子アーサーが生まれたと思ったらイグレーヌから子を取り上げてエクトールに預ける。
 ニムエにはマーリン自身が知っている魔法や叡智を余す事無く授けているし、
 モードレッドに至ってはその年に生まれた子を皆殺しにしても見逃してしまっている。
 ――まるであらかじめ決まっていた未来に向かってなぞっているみたいだね」
佐々木、おまえはマーリン未来人説を大々的に発表するつもりか?
もしマーリンが事あるごとに既定事項だとかぬかす奴なんだったら、
藤原と同じぐらい神経を逆なでさせるジジイなんだと確信を持って想像できるぜ。
「そんな事を言いたいんじゃないよ。
 マーリンはこれから誕生するはずの英雄アーサーのためにウーゼルの盲目の情念を利用した。
 夫の王には夜襲でさっさとご退場願っておきながら、その夫の姿を借りてウーゼルは夜の情熱に浸ったわけだ。
 しかもアーサーは王になるためにイグレーヌから引き離される事にもなってしまった。
 ――キョンには理解できるかい?
 ひと時の栄光の先にある滅びの未来へ進むために人生をもてあそばれたイグレーヌの気持ちを」
残念ながら俺はイグレーヌじゃないし女ですらないから気持ちなんて分からないね。
ただ確信を持って言えるのは、ウーゼルがその名のごとくうぜぇくらいか。
「くくっ、冗談はさておき話を少し移そうか。
 咳をする程度で未来が大きく変わるなんて思ってはいないけれど、
 ほんの些細な行動で未来に大きなずれが生じる事は十分にありえるよね。
 未来は無限にある、は平行世界のようなイフでも比喩表現でもなく現実のもののはずだ。
 ――が、何も知らない普通の人が普通に考える反論」
ところがどっこい、四捨五入できる範囲の違いはあるだろうが、
未来はこのまま普通に過ごしていれば間違いなく朝比奈さんの世界に向かってる。
じいさんみたいに未来をあらかじめべらべらしゃべる饒舌な奴にはお目にかかってはいないがね。
「藤原くんや朝比奈さんがマーリンのように定められた未来へ誘導してるのかは僕には分からない。
 けれどあえて言うならば、僕は既定事項の未来にとらわれる必要はあまり無いと思うんだ」
それはつまり俺に朝比奈さんを裏切れとでも言うつもりか?
「違う、そうじゃないんだ」
佐々木は山奥の源泉付近の小川のように澄んだ瞳をこちらに向けてまろやかに笑みを浮かべた。

「僕は僕の決めた相手と生涯を共に生きたいんだ」

そうだな。神だの改変能力保有者だの観察対象などと、
何かと目をつけられてるおまえの相手もまた何かと制約とか干渉を受けそうだな。
陳腐な言い方ではあるが、運命に抗うってフレーズは何気に好きだぜ。
「…………そうだね」
……ん? 俺何かまずい事でも言ったか?

お後がよろしいようで









上のえぬじー

「僕は僕の決めた相手と生涯を共に生きたいんだ」
「そうだな。おまえも何かと複雑な事情抱えてるしな。
 アリが恐竜に援助申し立ててるようで気後れするが、俺なんかでよければ力になるぞ」
「――! それ、信じていいよね?」
「? ああ、もちろんさ」
やけに感情が乱れてるな佐々木。俺何か変な事でも言ったか?

次の日、なぜか部室の空気が死んでた。
半泣きでおろおろする朝比奈さん、そんなあなたも魅力的ですよ、ともふと思い浮かぶ。
爽やかさが影を潜めた古泉、それでも体裁を取り繕う余裕はまだあるようだがね。
一番分からんのは長門で、なぜか原子もストップする絶対零度の視線を俺に投げかけるんだが。
逆に一番分かりやすいのは我らが団長ことハルヒ。絵画にすれば千年経とうが一目瞭然なほど不機嫌だ。

「キョン、ニーベルンゲンの話は知ってる?」

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最終更新:2007年11月05日 00:18
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