9-856「夜食」

「キョン、起きてくれ。キミの高校の期末考査がどの程度のものなのか…僕には知る由もないが、少なくとも、キミが余裕を持って挑む事のできるレベルではないだろう?」

「………」

まったく、キミが明日の考査を乗り切る為に1日家庭教師に就任してくれ、と頼み込んできたじゃないか。
なのに開始一時間で夢の世界へ旅立つとは一体どういう了見なのだい?

「さあ、学習を再開しよう。キミにとって運命の時間まで既に半日をきっているのだからね」

そう言いながらキョンの肩を揺する僕。

「………」

だけど、起きる気配すら感じられない。
ベッド上のシャミ君が欠伸をするのが視界に入った。

「はぁ…」

深夜に年頃の、更に言わせてもらえば恋愛関係である男女が2人きりだと言うのに…
更に、更に言わせてもらうと、僕の装いはいくら7月とはいえ少々肌を露出し過ぎているはずだ。
ちょ、ちょっとだけ上乳もチラリとしてるんだよ?
だけどキミは見向きもせず、テーブルに突っ伏したままだ。
せっかく夜食としておにぎりまで用意してきているのに。

「キョン、目を覚ましてくれ。キミの顔を見なければ淋しさでどうにかなりそうだ…」

「………」
耳元で囁いてみても効果はない。
さすがの僕も頭にくる。怒気を放出し背中に般若を象ったオーラでも顕現させてしまいそうだ。

「仏の顔も三度、と言うが果たして僕の顔はいったい何度までだろうね。
今までの事も加味すれば優に百は越えているだろう?
さすがの僕にも我慢の限界、くらいは存在するのだよ」

「…ん……」

ほぅ…やっと起きてくれるのかい?

「…お……」

お?

「ぱい……」

プチンッ

はぁぁ?お、おおおっぱいだってぇ!?そ、そうか!それは胸の厚みを気にするぼ、ぼぼ僕に対しての当てつけかぁ!
もう我慢の限界だ!堪忍袋の緒もとうの昔に切れてるさ!
いい!僕にだって考えがあるんだよ!

バッ!

僕のカバンの中の一品、今夜の学習が一段落したら使用する事も考えた例の物…

ジャーン!

『中学時代のセーラー服』

そして僕はシャープペンシルを握り締め、天井へとかざした…

「変身…」

ヌギヌギヌギ…
ハキハキハキ…
シャキーン!!
「たぁ!『プリティささき』!只今参上!」

「説明しよう!『プリティささき』とは、一女子高生に過ぎない少女『佐々木』の乙女の怒りが臨界点を突破した時に誕生する、セーラー服美少女戦士である!
腕力は通常の①倍、羞恥心は通常の⑩倍という理不尽な能力を秘めているのがプリティささきだ!
彼女の乙女の証は猫である我が寝ているフリをしている際に彼の者に奪われてはいるが、それはまた別の話だ!」

「おや?シャミ君、いきなりにゃーにゃーどうしたんだい?」

「にゃぁ(あぶねぇあぶねぇ…)」

「…?」

シャミ君の様子が変なのはまぁいいとして…現在、最大の懸案事項であるキョンだ!
くっくっくっ、さぁキョン!覚悟はできてるんだろうね!?
いっくよぉぉ!

「ささきぱぁんち!」

プルプルプル…
ペチッ

ペチッペチッ
・・・・・・
ポコポコポコポコ…

「Zzz…」

「はぁっ…はぁっ…」

相当な量のエネルギーを消費したのに…さすが僕のキョンだ。一筋縄じゃいかないみたいだ…
起きる気配すら感じられないキョン。彼の神経の鈍さが感じられる。
それに「無視されてるのかな」とも思う。するとなんだか胸の奥がジュンとしてくる…
うふふ…

ハァハァ…

「あぁっ…」

ハァハァ…

てヘヘ…

・・・

はっ!?

「って僕はどんな変態なんだよ…」

まったく、キョンのせいだ。いつも焦らす等して早く来てくれないキミが悪いんだ。
僕の攻撃がこれで終わりだなんて思っちゃイケないよ!
必殺技を使っちゃうからねっ!

「ささきぃっく!」

テヤァァァァ!

ポコッ…

・・・

アチョォォォ!

ペコッ…

「Zzz…」

「はぁ…はぁ…」

疲れた…凄く激しい動きだったよ…
僕の息の上がり具合とは反比例して、キョンの寝息は平穏そのものだ。まるで普段の喧騒から逃れているみたいに。

それにしても…なんで起きないの?キョン、淋しいよぉ…
キョンが起きないんなら勝手に抱きついちゃうんだからぁ…

キョンの背中は広くて大好き。彼の首筋に縋るように両腕を絡ませる。
背中に押し付けた体の全面からキョンの体温がフルに感じられる。
鼻先に触れるキョンの髪の毛が擽ったいけど彼の匂いを独り占めできるからもう少しこのままで…

でも、今キョンが起きたらなんて言い訳しよう…

「超必の『ささきチョークスリーパー』をかけてたんだ」

うん、声に出して言ってみたけど完璧な返答だ。
決して「ムラムラしたから」なんて事はないんだ、うん。
それにしてもキョンって良い匂いだなー。

クンクン…

ハァハァ

クンクン…

てへへ

クンクン…

「あぁぁっ…んっ!」

・・・

あれっ?いつの間にか時計が5分ほど進んでいる…なるほど!これが時間移動か!
彼に時間移動の感想を求めたときに「頭がフラフラして、形容し難い吐き気に襲われる」と言っていたが…
確かに頭はまだ重い感じがして、焦点が定まらない。キョンの頭がメトロノームの様に揺れている。
僕の息が荒いのはご愛嬌。

・・・
いくら起こそうとしてもまったく起きないキョン、まるで眠り姫みたいだ。

「はっ!まさか!?」

眠り姫…

つまりはキスで目が覚めると…そういうワケか!
そうと決まれば話は早い。

キョンの頭を持ち上げる。
キョンの両頬をガッチリとホールド。
そして僕は宣言する。

「奥義、ささきっす…」
唇を尖らせる僕。


「うぅぅ…」

キョンの顔が近付く。

「んぅぅ…」

あと10センチ…

「んぅぅぅ…」

あと5センチ…

「んんぅぅ…」

あと3センチ…

「んんんぅぅぅ…!」

あと1センt

「起きてるぜ」

くぁうせldfふ・じ・こ!!!

・・・

「さて、僕はいくつかキミに質問しなければならない事項があるんだ」

「どうぞどうぞ」

「…いつから起きていた?」

「正直に言えば『変身』の瞬間は横目で見てた」

・・・

orz

「佐々木、その体勢だとスカート全開だぜ?」

・・・

OFZ

「いや、右手で押さえても大して変わらんが…」

「うぅ…ヒドい…ヒドい…」

うわ言のように「ヒドい」と繰り返す佐々木を俺は見守る事しかできなかった。
俺は楽しめたが佐々木は真剣だったもんな。だからお返しの意味を込めて佐々木にご奉仕する事にしたのさ。

「キョンチョークスリーパーぁぁ!」

「えっぐ…いきなりどうしたのさ…」

そんな佐々木を無視して回り込み、後ろから抱きしめる。その時に「きゃっ」なんて可愛らしい声も聞こえた。

「佐々木は温かいな」

「…ありがとう」

俺はあぐら、その中に佐々木の腰を沈め左腕で逃がさないように抱きしめる。右手は可愛い彼女の手櫛さ。

「いい匂いがする」

「……ありがとう」

先ほどより体温が上がった様な感じだが気のせいではないだろう。目の前の首筋もほんのり桃色に染まっているしな。

だからその可愛い首筋に口付けを落とす。

「ひゃんっ…き、キョン、不意打ちは、卑怯、じゃないか…」

佐々木の言葉がたどたどしいのは、彼女の首筋を執拗に舐めているせいだったりする。

・・・

「俺の胸の音、聞こえるか?」

「…うん、もちろんだ。僕の大好きなキョンの音。ただ、いつもよりは鼓動が激しいようだね」

「お前の音も聞こえるぞ」

「そうかい?流石にキョンを誤魔化すことはできないか」

心地よい、2人の心音だけが支配する空間。俺はこの空間が好きだ。

「…腹すかないか?」

「夜食におにぎりを作ってきたよ」

「俺の腕の中にもある」

・・・

「ええっと…このセーラー服だけは汚さないようにしてくれよ?」

「さあな?」

そして困った顔をする佐々木との距離がゼロになった。



その後の事を詳しく語るつもりはない。佐々木が再び泣いた事や、夜食が佐々木と相成っために、おにぎりが朝飯になってしまった事くらいを追記しておく。

「それとセーラー服をクリーニングに出す羽目になった事も…だね。くっくっ…」

「…そうだな」

一晩中勉強できなかったために考査がボロボロだった事なんか、それこそ言うまでもないことだ。

END

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最終更新:2008年01月27日 08:07
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