9-723「二重人格」

中学生の頃からしばらく、佐々木は二重人格だった。
なんでも、男を見ると「僕っ子」という人格が現れるそうで、
俺の自転車のうしろに乗って一緒に塾へ向かいながら、
「…くっくっ、まったく君はつくづくおもしろい男だね(笑」
などとどこか寂しそうな口調で呟いたりしていた。
ある日、卒業式のあとふたりの時に「僕っ子」が出たことがある。
突然俺の手をとり、「キョン・・・これからも君の自転車の荷台を、僕の特等席にしてほしいな(笑」と言った。
抽象的なジョークを一切理解できない俺が、
佐々木の言葉の裏を勘繰っていると、佐々木はため息をついて自嘲的に微笑んだ。
それ以来、一年間佐々木とは音沙汰がなかった。
そして別人格とやらは、佐々木が大学に入った辺りでパタリと出なくなった。
最近になって、嫁にその頃のことを尋ねたら、
クッションに顔を埋めて、手足をバタバタさせてのた打ち回っていた。

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最終更新:2008年01月27日 08:08
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