855 :Fate/式神の城 ◆v98fbZZkx.:2008/03/06(木) 02:26:33


→遠坂凛と壬生谷の巫女

一方その頃/

「葬儀の準備は必要か」
 それが、文字通りにケガ人を抱えた凛に対して放たれた、言峰綺礼の第一声であった。確かに、凛が抱えたケガ人である衛宮士郎は、全身に鉄の破片を食い込ませており、一見して死体と見まごうばかりの状態ではあったが、仮にも神父のセリフではない。
 もっとも、普段の凛であれば軽く受け流すのみであっただろう。言峰の言葉は万事がこの調子であり、それにいちいち相応の反応を返しては、いくつ胃があっても足りはしない。
 だが、その夜、凛は珍しく、実に数年ぶりに言峰の言葉に噛み付いた。
「いいから早く治療しなさい! この似非神父!」
 有無を言わさず、命じるようにして凛が言い放ったこの言葉は、相当に無茶苦茶なものである。魔術師・遠坂凛としても、この言葉は明らかに破綻していた。等価交換の大原則、つまり行為には相応の代価を、という魔術師のルールを破りうるものだからだ。
 普段の、優等生の凛、あるいは管理者である遠坂は、絶対にこのような物言いはしない。治療を行う人物への暴言、魔術師の原則を破る発言、どちらから見ても、明らかにその時の凛は冷静ではなかった。
「いいだろう」
 そして、わずかに眉を動かした言峰のその言葉が無かったならば、士郎は確実に死んでいた。そう、士郎を助けるにしても、今回の凛の言動はあきらかに冷静さを欠いたものであった。確実に士郎を助けようと思うのならば、魔術師としての道理を守った上で、相応の代価を提示してこその確実だ。
 もしも士郎が命を落としていれば、凛は、口約束とはいえ同盟者である士郎を殺したことと、もう一つ、魔術師としての凛とは別の場所に、大きな、そして取り返しようのない負債を抱える羽目になっていた。
 凛が原因となって士郎が命を落としたのなら、彼女は……凛が妹のように思っている少女は一生、凛を許さないだろう。それは、凛にとって、あるいは自分の死よりも辛いことかもしれない。
 そういった意味で、凛は今回、言峰に対して大きな借りを作ってしまった。借りたものは、確実に返済されなければならない。それは、魔術師であろうとなかろうと関係のない当然の義務である。

 そして、遠坂凛は一つの仕事を引き受けた。

「では任せる。後はお前の良いようにするといい」
 バタン。と音をたてて木製の扉が閉ざされると、凛は、その向こう側に消えた言峰の背中に向けて、地獄に墜ちろ似非神父、と声無き罵声を浴びせた。声を出さなかったのは、目の前に客人が残っていたからである。
 そして、言峰が士郎の治療の代価として凛に提案した事とは、その人物の拠点を探すことと、動向を逐次観測し、問題があれば言峰に報告することであった。それは聖杯戦争に参加する凛にとって、行動の拘束というデメリットを抱えることになる。
 「監督役が手を貸したのだ、このくらいは受けてもらわねばな」とは言峰の弁であるが、それを加えても、凛にとってはやや高い買い物になった。
 凛の向かい側、客人の用いるソファの上では、朱と白の二色の衣……巫女の装束に身を包んだ少女が一人、射抜くような視線で凛を見つめている。
 このままだと、いま中天にさしかかろうとしている太陽が傾いても、目の前の少女とにらめっこを続けることになる。凛は、仕方がないと諦めて、自分から話を切り出すことにした。
「ええと、結城さん、でいいかしら。まずは貴女の家だけど」
「不用です」
「は?」
 キッパリと、表情を変えることなく断言した少女……結城小夜の言葉に、凛は絶句した。
「見えぬものを見、縛ることのできないものを縛る、それが壬生谷。そこに俗世の助けは不用です」
「こっちも仕事よ。それに、俗世と隔絶して街を歩くわけにもいかないでしょう」
 やはり表情を変えずに淡々と続ける小夜に、凛は食い下がった。言峰の仕事を抜きにしても、魔術師、しかも、この世間とはなんですか? と言った感じの少女を野放しにする事は、是非とも避けなければいけないからだ。
「―――そうですね。 では、清水を汲むことの出来る場所をお教え願います」
「清水?」
 問い返した凛に、小夜はやはり表情を変えることなく、はい、と小さくうなずいた。
「空から見える水は、占術のためには少々汚れすぎています。水源を、そうでなければ井戸のある場所をお願いします」
「なるほど。水ね」
 凛は、うなずいて納得した。確かに、冬木市の屋外や水道管を流れる水は、魔術に用いるには穢れが多すぎる。しかし、水源となると冬木郊外の山奥へと分け入って行くことになり、小夜から目を離せない凛としては、ご遠慮願いたい。
 そうなると、残るは井戸であるが、こちらは心当たりが無いでもなかった。
「そうね。井戸―――地下水はいくつか心当たりがあるわ」
「では、場所を」
「待って」
 場所を教えれば、今にも外へと出ようとする小夜を、凛は制止した。この少女を一人で歩かせる事は、昼の街中で魔術戦を勃発させる危険がある。
「私が案内するわ。 どっちにしろ、これから行こうと思ってたところだし」

そして凛は……
1:衛宮邸に向かうことにした。
2:自宅に向かうことにした


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最終更新:2008年10月25日 16:23