483 :もしハサ ◆yfIvtTVRmA:2008/02/21(木) 02:22:29
戦いに飽きたのだろう。ハサンは短剣の握りを投擲のためのそれに変えた。
「それじゃあそろそろ一人づつ終わらせていきますよ。安心してください、痛みを
感じるヒマも無いはずですから・・・ ねっ!」
ハサンの投げつけた短剣は弾丸並みの速度で凛の――顔の横を通り過ぎていった。
ハサンが投擲を外した。
わざとか、―――――否。
凛はハサンの異変に気付いた。彼の両足に付いた小さな傷と足元に転がっている
ハサンの物でもここにいる誰のものでもない細長い武器、ハサンの投擲より一瞬早く
投げられ彼のコントロールを奪った武器、黒鍵と呼ばれる聖堂教会の人間の主武器
であるそれを見て、そして自分達の後方から聞こえてきた男の声で確信する。
「全員動くな、動いた者は敵とみなす。凛―――現状を報告しろ」
「私達全員対あいつ一人って所ね。言峰」
「そうか」
ここに来るまでにサーヴァントの暴走も想定していたのだろう。
言峰はこの状況にも戸惑うことを見せず、倒れ付した者二名と戦闘可能な五名を
一瞥した後、凛のやや後ろに陣取り右手に新たな黒鍵を携えハサンを見据える。
戦況は一変した。疲弊しきった魔術師達の前に現れた言峰と呼ばれる男。
彼の到着により凛の中に存在した絶対勝てないという呪縛が消え去った。
凛だけではない、バゼットも、そして言峰を知らない残りの者達も彼の到着に救いを
感じていた。
勝ち目が見えたわけでも勝率が五分になったわけでもない。ゼロだった確率が一未満の
形ある数字になっただけである。言峰にハサンを倒す戦力が存在するとはとても思えない。
だが、これでハサンに未観測の技が存在する事になる。
そして、ハサンは狂人ではあるが未知の相手に挑む戦闘狂ではなかった。
「チィッ」
舌打ちをし、今までに見せなかった苦悩の表情をしたハサンは慎二の後ろに現れた時
とは逆にその輪郭をゆっくりとぼかしていった。
そして、次の攻撃が来るよりも早くその姿を完全に消し去りこの場を離れた。
普通の英霊なら、いや彼以外のハサンでもこの状況、九割方勝利が確定している状況で
逃げる事は無かっただろう。だが、このハサンは違った。まず勇猛であらねばならない
英霊の中に混じりながら彼は誰よりも臆病だった。
士郎とバゼットを相手にしてしまった時のようなイレギュラーを除き、彼の人生に闘争
など存在はしない。彼が自ら戦場に立つのは己の負けが無い戦い、蟻を踏み潰すぐらいの
簡単で明確な勝利のビジョンが存在する時のみ。
そして、この逃走が結果としてハサンに本当の敗北を与える事になる。
投票結果
最終更新:2008年10月25日 16:17