768 :もしハサ ◆yfIvtTVRmA:2008/03/03(月) 05:25:06
「はっ はっ はっ」
冬木市下水道某所―
「はあっ はあっ はあっ」
悪臭が渦巻き地上への道からも最も遠い地点、改修・点検も後回しにされ、浮浪者すら
寄り付かずネズミとゴキブリ達のパラダイスとなっていたそこ―
平和を享受していたゴキブリの一匹が突如自分の百倍以上の質量に押し潰される。
ゴキブリの上に現れたのは黒い足、霊体化を解いたハサンの足だった。
「はあっ はあっ はあー ふー」
呼吸を整え、自分の状態を確認する。全てのラインが消滅した為これまで受けた傷の
自然治癒は不可能だが、宝具以外では魔力の消耗が無いに等しい身が幸いした。
推測だが、マスター無しでも自分は数日は生きていける。魔力を定期的に補充していけば
数ヶ月、数年、そしていずれはまた奇想奇館を発動出来るまでに戻れる。
ただし、7人のマスターに呼ばれた時の規模はもう無理だろう。
招待できるのは一度に一人か二人程度の小さな屋敷。
「それでも問題ありません。私の夢、この時代この場所に召喚された私の目的には
それだけの力でも十分」
足で潰したゴキブリを口に運びながら呟く。かつて得た力に諦めをつけるが為。
あれはあれで楽しめたが自分の願いには不必要な力。自分以外に召喚された
サーヴァントがいない事を知っているので人間に勝てれば良しとする。
無論、実力不明の魔術師が相手の時は一対一が前提でだ。
この場所で数日間敵から身を隠し続ければ彼らは必ず別々に動き出すだろう。
そうなれば後は一人ずつ消していき、この町から自分の敗北の可能性を完全に無くす。
あの7人と言峰とかいう神父、それから参加者達の仲間もいくらかいるだろうが、
所詮は聖杯に選ばれなかった者達、手強いのは多くても数名だろう。
脅威となるのは多目に見積もって十人、大丈夫だ、乗り切れる。
ハサンは生前からの夢に思いを馳せる。
生前の数十年とこちらでの数時間、長く辛い道程だったがようやく―。
大きな宮殿があった。
砂まみれの大きな宮殿があった。
砂の中に大きな宮殿があってそこにはたくさんの人がいた。
修行をする人がいた。
規則を破って処罰される人がいた。
もちろん処罰する人もいた。
青年がいた。老人がいた。幼児がいた。赤子がいた。皆たくさんいた。
昔は宮殿はなく、人も少なかった。
ハサンが変わって宮殿ができた。ハサンが変わって人が増えた。
宮殿の一番高い所にいるのが今のハサン。
今のハサンはこれまでのハサンと少し違った。
規則を増やし、罰も厳しくした。何人もの人が裁かれた。
それでも人は増えた。どんどん増えた。今のハサンはすごい人だと皆が言う。
でも、ハサンを非難する人がいた。彼はハサンの傍にいた人。次のハサン。
ある日突然宮殿は無くなった。規則も前のに戻って、やがて人も減っていった。
今のハサンは前のハサンになった。次のハサンが今のハサンになった。
全ては元通りになった。ハサンになった彼が元に戻した。
投票結果
最終更新:2008年10月25日 16:18