128 :もしハサ ◆yfIvtTVRmA:2008/05/30(金) 14:31:14
ハサンが何も抵抗できないでいる理由、それは令呪により動きを制限されている事
のみではない。現在のマスターである言峰という男、彼が自分の知る人間達とは
明らかに違う異質の存在であったからだった。
ハサンの最も得意とする洗脳のスキル、これは数々の人間とのアメとムチを交えた交渉
の末に会得したものである。ゆえに、人間が相手ならば命令権を握られた状態からでも
自分の方が支配者になる方法はいくらでも思いつく事ができる。言峰と二人きりになる
まではハサンにまだ僅かながら希望は残されており、この間彼は必死に言峰の顔色
や言動に注目し、彼の欲する事すなわち彼の快・不快の源泉を見極めようとした。
果たしてハサンは自害の命令の数秒前には言峰の僅かな言葉から彼の正体を知った。
だが、その答えは言峰には喜びの感情が無いという現状のハサンには最悪の答えだった。
金銭に執着を持つ者、他人の為に生きる事に幸を見出す者、多くの異性を愛する事に
人生を掛ける者、不老不死を願う者、数多くの信者と異教徒達を目の当たりにし、
彼らにとって逆らいがたい条件を提示する術を持っていてもこの言峰相手にはそんなもの
通用しない。それは、未知のモノに対する恐怖。ハサンが今まで味わった事のない感覚が
彼の口を完全に封じていた。
「では、お別れだハサン。今度は上手く自害してみせろ」
塞がりかけていた胸の傷口に腕を刺し込む。一度大量の令呪によって抉られた箇所は
サーヴァントとして非力なハサンでも容易に貫く事ができた。そして、そのまま目的の
地点、核に届いた爪で自身を滅ぼす為に全力で引っかく。
ハサンの肉体が体の中央から徐々に崩壊していくのを見て今度こそ、何の失敗もなく
聖杯戦争が終結するであろう事を言峰は確信する。その顔にもやはり何の感情も見出せ
なかった。
「神父っ・・・貴方は一体・・・?」
首から下は霞となり消え去り、既に戦う力も生き残る力も残されてはいない。
ハサンは最後の力を振り絞り戦略的な意味ではなく単純な好奇心から言峰に聞いた。
彼が何者かを。
「私が何者かだと?見ての通りただの神父をやっている人間だが」
「・・・ゲホッ、ごまかさないでくださいよ。私人を見る目は確かデシテね。感情の無い人間
なんて存在しませんよ・・・。マル デ、 アナタハ・・・・」
「私が愉悦を感じない、とでも言いたいのか?」
「ゲホッ・・・マサニッ ソウ・・・ ゲホッ ドウシテ・・・」
答えを聞くことなく、疑問を残したままハサンは完全に消滅した。
そして、言峰はかつて自分に愉悦について語りかけたもう一人の英霊の事をふと思い出す。
「セイバーによって征服王が墜ちたか。この宴も終焉が近づいているようだな言峰」
「楽しそうだなギルガメッシュ」
「お前には今の我がそう見えるか。愉悦を知らずとも他人の愉悦を正しく理解する事は
できるのだな」
「・・・私もお前の様に、皆の様に愉悦を手にしたいものだ。愉悦をこの手にした時私は
お前の目にどう映るのだろうか?」
「無論、楽しそうに映るに決まっておるではないか。心配するな言峰、この戦いが
終わったらお前に愉悦とは何か教えてやろう。じっくりとな」
十年前の戦い、第四次聖杯戦争。それは今回の様な生易しいものではなく正に本物の戦争、
サーヴァントもマスターも怪物ぞろいだった。
言峰の師にして凛の父である遠坂時臣、千を超える宝具を持つギルガメッシュを召還した
彼でさえ苦戦の連続だった。
巨大な海魔と一体化したキャスターに神の船を含む半数近くの宝具を消耗し、
宝具を無効化するランサー、そして手にしたものを宝具とするバーサーカーには不利な
戦いを強いられた。そして、それらの強敵を圧倒的な力でねじ伏せた騎士王と征服王。
結局、遠坂時臣と共に最後の戦場へと向かったギルガメッシュが帰ってくることは
無かった。真の愉悦を知る術を無くした言峰はこの戦争を通して、ある結論に落ち着く。
愉悦とはすなわち滅びへの道である。愉悦に従い行動してきたマスター達の最期を
観察し続けてきた彼なりの答えだった。
この様に思い立って以降、自分の感情の欠落に対しての疑問は多少だが収まり、現在も
己の愉悦を理解する機会が訪れぬまま現在へ至る。
「私にとっての愉悦か・・・」
ハサンの問いかけをきっかけとし、言峰は久しぶりに、実に数年ぶりに自分にとっての
愉悦の答えを求めてみた。
「麻婆か!?」
弟子の成長や神への奉仕よりも先に、それが口を突いて出た事にしばらく反省する
言峰だった。
[選択肢]
イ.その後のアインツベルン。
ロ.その後の衛宮邸。
ハ.その後の遠坂。
ニ.その後のマキリ。
ホ.その後の言峰教会。
ヘ.その後の異国での出来事。
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最終更新:2008年10月25日 16:19