358 :もしハサ ◆yfIvtTVRmA:2008/07/01(火) 12:30:35


エピローグ6『もしもの時の為に伝えておかなければならない事』

一切の手入れが放棄され苔と蔦にまみれた見慣れた噴水。
町の中央広場にあるそれは、経費削減のあおりにより十年以上前からずっと水が
止められている。
子供の頃、いつかこの噴水の上に立って景色を眺めてみたいと思ったものだ。
町の皆によって噴水の中央の柱に縛られながら、私はそんな事を思い出していた。

「この町にはさ、ついこないだまでとっても頼りになる男達がいたんだよ」
「すみません」
「それが何でこうなっちまったんだろうねえ」
「・・・すみません」

私に語りかけている女性は母の友人で近所でも愛想の良い奥様として人気だった。
その彼女を中心に置き、鋤や石を手に持ち私を囲む人達は女性と子供と老人ばかり。
働き盛りの男は皆私が日本に着くまでにいなくなってしまった。
私の令呪を奪おうとしたものが全体の2割。
残りの8割の内半分が最初の2割の敵討ちの為に私に襲い掛かり、残りの半分がその
戦いのどさくさの中いずこかへと姿を消していた。残された自分達だけで村の女子供を
守るという重圧に耐え切れず逃げ出したのか。私の情報を得ようとした協会かどこか
の組織に連れさらわれたのかは分からない。
確かなのは、全ては私が令呪の発現とその意味を知り合いに得意気に説明した事から
始まった事と、犠牲になった人の中には魔術とは無関係の者も数多く含まれていた事。

「皆、本当に、すまない」
「今更、今更謝られても遅いんだよっ!」

横から飛んできた石が私の頭を打つ。それを皮切りにこの場に溜め込まれていた
怒りと悲しみが私に降り注いだ。

「私の孫を返しておくれ!何であの子がいなくてあんたがいるのよ!」
「ワシはお前を信じておった、すぐに帰ってきて町の全員を救う。
去り際にそういい残したお前を信じて待った。その結果がこれじゃ!」
「この悪魔め!」
「そうだ、あんちゃんはあくまにみいられたんだ!あくまのくちぐるまにのっては
いけないといってたくせに、あくまにたましいをうったとってもわるいひとなんだ!」

全員からの侮蔑の言葉と攻撃をひとしきり受け、彼らの熱狂がやや静まり返った頃、
空高く昇っていた日は沈み、私の首筋には大きな包丁が当てられていた。

「何か、言い残す事はあるかい?」
「いえ、特に」

今更言い逃れなどする気はない。一人の愚かな罪人として皆の前で最後を向かえる
覚悟は出来ている。これで、少しは償いになっただろうか―――いや、まだ私に出来る事
はまだあった。

「では、いくよ」
「待ってください。二、三伝えたい事がありました」
「いいよ、話しなさい」

首筋に付けられていた包丁が喉を自由に動かせる程度に離される。

「皆、聞いて欲しい事がある。私が持っていた荷物の中にある品はその道の収集家に
高く売れる。適正な価格で売れば数年間は皆の生活の助けになるはずだ。それと、今後
この町が自分達ではどうしようも無い危機に陥った時は日本にいるコトミネという神父
を頼ってくれ、彼は今回の件の関係者で実力も地位も十分にある。私の名前を出せば力を
貸してくれるはずだ。それからもう一つ、今から50年後か60年後になるかわからないが、
もし、もしもこの町の誰かもしくはその子供の体に私と同じ様な模様が浮かび上がった
なら、二度とこの様な事が起こらない様に、それを手にした本人を含め誰にも決して
それを利用しようとさせないで欲しい」

噴水から真っ赤な水が吹き上がった。

[選択肢]
イ.士郎
ロ.慎二
ハ.桜
ニ.凛
ホ.バゼット
へ.イリヤ


投票結果


イ:0
ロ:5
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最終更新:2008年10月25日 16:20