86 :隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM:2008/05/25(日) 04:15:01


カレックス・フラッカは意識が戻ると同時、死を実感した。
自らの身を守るスライムも残存する魔力も無く、同時に前進の魔力回路が暴走して焼き尽くされた実感があった。
不思議なことに痛みは殆ど無い。
そえは神経も同時に焼き尽くされたが故の副産物であったが、それを歓迎しようとは思わなかった。
明暗さえも殆ど映さぬはずの眼球が僅かに人の姿を映し出す。
せめて一太刀。
それが本来守ってやりたいと思った未熟な魔術師への見栄だったことさえも忘れ、只一度の魔術を振るおうと試みる。
その直前、少女の姿を見た。
最早声さえも漏らせぬボロボロの姿だったが、、不思議と思考はクリアになっていく。
『これが、天使か』
少女の羽を見て、ただ素直にそう思った。
そしてそれに見惚れたままに、その命は潰えて消えた。


「……では我々も行くとしようか?」
ジェネラルは自らのマスターに呼びかけた。
「そう、ですわね……まだ終わったわけではありませんもの」
直接に一人魔術師を倒し、今またもう一人の魔術師を倒した。
そして直接ではないが、他の場所でも戦闘は終了したようだった。
だが他の場所で終結した戦闘がこちらの勝利で終わったという保証はなく、また他の魔術師が居る可能性も否定できない。

一度奪った主導権を握り続けるのは難しいだろうが、最低限有用な情報を可能な限り収集する必要があった。
「では前進か」
「ええ、目標は変わらず、と言うことですわ」
そしてそれは、敵が根城としていた安アパートに他ならなかった。
「うむ、ここは彼女達に任せるとしよう」


残存する粘液の海の中、なのははへたり込んでいた。
その瞳に映るのは市街地の光景。
しかしその光景を脳は理解していなかった。
「なのは」
傍らから響く凛の声も理解できては居なかった。
「なのは!」
自らが汚れることも構わず、なのはの正面に立ち、肩を掴む。
「しっかりしなさい!」
前後に揺さぶり、それでも反応がない事につい苛立ってしまう。

「やめておくがよい」
酷く冷静な声がして、振り向く。
そうして漸く、ここに来た目的を思い出した。

『そのこと』に気付いたのはなのはだった。
タイタニア・ヴィルベルトが立ち去った後、念のためにと邸内の確認を行わせたことに始まる。
ホリィが居ない、と言われた直後、自分がどういう顔をしていたか、凛は思い出せなかった。
そもそもホリィがどういう少女なのか、そう言うことを考えることさえせず、ただ連れてきた弟子の所行に――いや、この家はその弟子の家なのだが――呆れただけだった。
それでも、この家の留守を預かった身としては、なんとしても探し出すべきだと考えた。
万が一にでも戦いに巻き込まれることは避けなければならないと考えたのも彼女からすれば当然のことだった。
大きく負傷した二人に留守を任せ、比較的軽傷ななのはと探索を始めたのがつい数十分前のことだ。
探索しながらも自然と向かう先は決まっていた。
確実に戦闘が行われている場所。
衛宮士郎達が向かった場所だ。

「……どうして?」
「見て分からぬか? 感受性が高かったと言うこともあるのじゃろうが、あやつの精神を直接受けておる……恐らく死に際の苦痛までな」
あやつ、と言って指差した先では炭化し、既に動くことなど出来るはずもない、炭化した下半身と左腕の残骸が痙攣していた。
「そうじゃなくて……」
一つの可能性に思い当たる。
それは現在の所の謎に全て回答しうる代物。
「答えなさい、貴女は何者なの?」
「……さて、な? ホリィと名乗ったはずじゃがの?」
その声は変わりない少女の、ホリィの物だ。
だが口調と表情は無垢な少女のそれではない。
そしてそこから漏れ出でる気配と魔力もまた人の領域を踏み外している。
「キャスター……」
それだけを呟く。
「……そうじゃったな、この場所では、そなた達は私のような存在をそう呼ぶのじゃったな」
咄嗟に姿勢を猫科の動物のように低く身構える。
『魔術戦で勝ち目はない、でも接近戦ならあるいは……』
両足に力を込め、両腕の力を抜く。
人体の急所を少女の肉体に浮かび上がらせる。
「そう警戒するでない、取って食おうというわけでなし」
そう言って軽く肩を竦め微笑む姿はその外見に相応しくない、妙齢の淑女のような雰囲気を醸し出していた。
「どうかしら? 敵意もなく対象を殺す、そんな存在があることは、少なくとも知識で知っているわ」
「やれやれ……困ったのう、これではあ奴が危ないというのに」
警戒する様子もなく、焦る様子もなく、ただ淡々と事実を述べるようにホリィが言う。
『あ奴……?』
それは誰か、と考える。
「我もやらねばならぬ事があるし、お主達の邪魔はしようとは思わんがの、ここで時間を無駄にするのは主にとっても本意であるまい?」
知らぬ誰か、ではない。
ならばそれは、間桐桜や衛宮士郎ではないのか。
「……恐らくその悪い想像は当たっていような」
その思考を読んだかのようにホリィが冷静に告げる。
だがその声は逆に冷静さを失わせていくように感じた。
「ッ……」
走り出したい衝動に駆られた。
だがすぐ背中で無防備を曝すなのはをどうするのか、当然放置するわけにはいかない。
だが、可能性とはいえその二人を放っておいて良いのか?
「何となれば我がその少女を預かっても良いのだぞ?」
いずれにせよ、迷ったまま動かないのは最悪の決断だ。

歯を噛み潰すように食いしばり、決断を下した。


ダン・クエール:ホリィを信じない、戦う
バラス・F・スキナー:ホリィを信じる、なのはは背負っていく
アーサー・C・クラーク:ホリィを信じる、なのはは置いていく


投票結果


ダン・クエール:0
バラス・F・スキナー:5
アーサー・C・クラーク:2


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最終更新:2008年10月25日 16:10