268 :隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM:2008/06/15(日) 04:09:46


痛い、というだけの意識があった。
今の彼に知覚できるのはただそれだけ。
勝てなかったという事実の認識も、激痛の前では大河の中の木の葉のように流されるだけだ。
だがその木の葉は一つではなく、無意識の中でその大河を堰き止める堤防となりつつあった。
それはゆっくりと静かに、だが確実に激痛という意識の中に『敗北した』という意識を芽生えさせた。
その意識意識が無意識からもたらされる本能、激痛を堰き止めた。
そして意識は、『負けたくない』という意思へと急速にシフトした。


無言のままになのはの背負う。
「信じることにするわ、でも全てを信じようとは思わないわね」
「ふむ、心外じゃが、それも当然か……」
それだけ言って、興味を失ったようにホリィが左右を見回す。
その動きにつられ、凛も周囲を警戒するが、何も感じ取れはしなかった。
「……消えた、か。 やはりそう簡単にはいかんか」
その発言の意味するところは分からなかったが、それが彼女の目的なのだろうと察することは出来た。
「ところでお主、羽根を拾わなかったか?」
「……羽根?」
意図するところが分からず、鸚鵡返しに聞き返す。
「そう、羽根じゃ、純白のな」
それだけ言って頭を振る。
「……いや、止そう。 今は……今は、そうじゃな、お主を手伝ってやろう」
そう言って、少女は僅かに笑みを見せた。


気絶した衛宮士郎と、その彼を引きずるように連れ闇夜に消えていくサーヴァント。
その二人を背後から見送り、間桐桜は軽く安堵の吐息を漏らした。
「良いのですか? ついて行かなくて」
ライダーの言葉に一度頷く。
「この場合は仕方ないわよ……何しろ」
視線を向ける。
その先にあるのはビルに穿たれた穴。
ライダーが蹴り飛ばした魔術師、クロード・シュバリエが激突した穴だ。
向こうへと行かせた二人は気付いていなかったはずだが、その場所で魔力が渦を巻いていた。
「あれを……少なくとも止めないと」
常人を遙かに超える魔力量が放出されている。
例えるならばサーヴァントの召還にも似た放出量。
だが決して召還ではないそれは、術式も何もない只の放出だ。
只の魔力が放出され、渦巻いている。
それに気付いてしまったからだ。


再び現れた男の意識は正確に為そうとした事を為した。
冷静であればやらぬ無謀、あるいは特攻と評すべき偉大なる自爆を。
自らの鉄球に刻まれた数十人分の魔術刻印、それを剥がし、自らの体内に埋めていく。
拒絶反応が自らの体を苛むことさえ構わず、刻印を埋めていく。
小気味に良い破裂音と共に眼球が破裂する。
だがそれさえも頓着せず、ついには全てに刻まれた刻印を自らに刻み続ける。
既に視界はなく、どころか皮膚さえも全て吹き飛び、それでも刻印を刻み続ける。

血に塗れ、肉体が弾け、頭骨が曝されたその姿は、人のそれではない。
だが、それでもクロード・シュバリエは満足だった。
これこそが自らの為し得る最強なのだと、これならばあの怪物をも屠れると、最早失せた視界の先、燭台の炎が示したのだ。
何故勝たねばならないのか、何故強くなろうとしたのか、それさえも全て忘れ、クロード・シュバリエは覚醒した。

自らの血に塗れ赤く染まったカポーテを掲げ、刃を振り上げる。
かつて無いほどの開放感を感じながら、自らが開けた穴より跳躍した。


跳躍したその姿を見た二人は――


対峙:着地するまで見惚れていた
迎撃:着地の隙を狙うべく移動を始めた
肉薄:空を舞う『敵』に攻撃を始めた


投票結果


対峙:0
迎撃:5
肉薄:2


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最終更新:2008年10月25日 16:11