463 :371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg:2008/07/13(日) 11:04:24
――Next Interlude side 4th Doll.
あれから、水銀燈は何も話しかけてこなかった。
ただ、ボクが散らかしてしまった物置……土蔵って言ってたっけ……その中に引っ込んで、何をするでもなく座っている。
ボクもそれに倣って適当な荷物の上に腰掛けている。
「…………」
「…………」
ひたすら流れる沈黙。
その中で、ボクはちらちらと水銀燈を盗み見るのを止めることが出来なかった。
……正直、意外だった。
自分で頼んでおいてなんだけど、あの水銀燈がボクを匿ってくれるだなんて、思っていなかったから。
だって水銀燈って言ったら、薔薇乙女《ローゼンメイデン》の中でも一番好戦的な性格だったんだよ?
それが、あっさりボクの滞在を受け入れてくれるだなんて。
一体何があったんだろう……?
「……ねぇ、水銀燈」
結局、先に沈黙に耐えられなくなったのは、ボクのほうだった。
水銀燈は返事をせず、ただ視線をこちらに向けることで、続きを促してきた。
「聞かないの?」
「何を」
「ボクがなんでマスターから逃げてきたのか、とか」
そう。
水銀燈はその理由すら聞いてこない。
ボクとしては
けれど、水銀燈は心底どうでもよさそうに、逆にボクに尋ね返してきた。
「言いたいのなら、勝手に喋ればぁ?
興味が沸いたら聞いてあげるわよ」
「う、うん……別に、喋りたいわけじゃないんだけどね……」
でも、水銀燈には迷惑をかけてるわけだし、ここはちゃんと説明しておかないといけないよね。
「そうだね、なんていえばいいのかな……。
とりあえず、力を供給してもらうのは問題ないんだよ。
一応、マスターの持ってる力は凄いからね。
でも、薔薇の契約に必要なのはそれだけじゃないだろう?
大切なのは、お互いの信頼関係なんだよ、やっぱり」
「…………」
あれ?
なんか今、水銀燈がちょっとだけ反応したような……気のせいかな?
「でも……マスターは、あまりにもだらしなさ過ぎるんだ」
「だらし、ない?」
「そう!
信じられるかい?
自分の家に帰りたくないからって、一日中ずっと釣りしてるんだよあの人は!」
「はぁ」
「しかも理由が、家に帰ると怖い女の人がいるから、だよ?
あんまりマスターの人間関係とかについて言いたくないけど、情けなさ過ぎると思わない?
あ、でも釣りは本当にうまいんだよマスター。
バケツ一杯に魚を釣るのは凄いなぁって思うよ」
「へぇ」
「それにだよ?
そんな風に家では女の人を避けてるくせに、外では平気で女の人を誘ってるんだよ!
ボクが近くで見てても、お構いなしでさ!
全く、どういう神経してるんだろう!
そりゃ、マスターは普通にしてたら背も高いし、恰好いいから、女の人がなびくのも無理ないけど……。
でも、そういうのは良くないとボクは思うな!」
「ほぉ」
「それに、マスターってば、ボクのことを『坊主』って呼ぶんだよ!?
そりゃ、確かにボクはこんな恰好してるけど!
ボクは坊主じゃありません、って何回言っても直してくれないし!
その度にボクの頭をクシャクシャって撫でてごまかすんだよ?
酷いと思わないかい!?」
「ふぅん」
「そういうことが続いて、とうとう我慢できなくなっちゃって。
マスターなんか知らない、って言って逃げてきちゃったんだ。
全く、薔薇乙女《ローゼンメイデン》の契約者なら、もっとしっかりしてほしいよね。
水銀燈もそう思うだろう?」
……ふう。
言うだけ言ったら、なんか気が清々したなぁ。
あれ?
水銀燈、ずっと黙って聞いてたけど、様子がおかしいな?
水銀燈は、目を閉じ、大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出した後、顔に微笑を浮かべながら、一言。
「帰れ」
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最終更新:2008年10月25日 16:05