867 :Fate/式神の城 ◆v98fbZZkx.:2008/08/27(水) 00:48:12


→結城さんの部屋に行く。


 食事の後、俺は日課にしている魔術の鍛錬を行うために土蔵へとやってきていた。
 土蔵の中はランサーに襲撃された時に散らかったままだったので、まずはその掃除をしてから鍛錬に入った。
 そのために普段よりも時間がかかってしまい、鍛錬が終わったときには時計の針が22時を目前にしていた。
「切嗣(オヤジ)」
 俺は、戦いに身を投じる。守りたいと思う気持ちに嘘はないし、戦うことに迷うつもりもない。
 切嗣が俺に魔術を教えることを避けていた理由は、おそらくはこうなることを恐れてなのだろう。
 俺は切嗣の親心を無にしているのかもしれない。
 だけど、それでも俺にはこの状況を傍観することは出来なかった。
「でもなあ」
 ため息をついて土蔵の床を見下ろした俺の目の前には、無残に破壊された木の棒が二本。
 何を隠そう、俺の強化魔術の失敗によって破壊された木刀である。
 いくら意気込んでも、一朝一夕で魔術の腕が上がるのなら、この世は魔法使いで溢れている。
 昨日の朝、人形に襲われた際に成功していたため、少しは期待をしていたが、やはり上手くはいかなかった。
 それを自分の身体で成功させたのだから、昨日の俺はそこで運を使い果たしていたのかもしれない。
「ちゃんとした師匠を見つけろ、か」
 銀髪の探偵、日向玄乃丈の言葉を思い出す。あのおっさんの言う通り、この有様では命がいくつあっても足りないだろう。
 切嗣が亡くなってからは、ずっと独学でやってきたが、それももう限界だ。
 いつまでも戦えないマスターではセイバーにも申し訳ないし、彼女の露払いくらいはできるようになりたいものだ。
 幸いにも、今は我が家に魔術師が二人も滞在している。ここで相談しない手はないだろう。
 俺は結城さんに相談をしてみることにした。
 第一候補は遠坂なのだが、結城さんとは夕方に話したきりで打ち解けたとはとても言えない。今後を考えて、少しは話をしておこう。
 俺は片付けを済ませると、結城さんの寝室に割り当てた和室へと向かった。




「結城さん、少しいいかな」
「はい」
 和室の戸を叩きながら声をかけると、結城さんはすんなりと迎え入れてくれた。
 部屋の中に入ると、結城さんは白い長襦袢に着替えを済ませており、就寝の準備は終えているようだった。
「悪い。邪魔したかな」
「いいえ、かまいません。私にご用でしょうか」
「うん。実は結城さんに頼みごとがあるんだ。会ったばかりでこんなことを頼むのも悪いと思うけど……」
 俺は結城さんに事情を説明して、魔術の指導をしてもらいたいとお願いをした。
 就寝の邪魔をするようで申し訳ないが、ここまで来ておいて止めるわけにもいかない。
「分かりました。寝所を提供していただいたこともあります。神狩りの支障にならない範囲でよろしければお受けいたします」
「ありがとう。助かるよ」
「それでは、衛宮さんがどの程度の術を扱えるかを見せていただきます」
 結城さんは、そう言って一枚の紙を差し出した。質のいい和紙だが、何の変哲もないただの紙だ。
 俺は差し出された紙を受け取る。
 事前に強化以外の魔術は使えないことは知らせているので、この紙を強化すればいいのだろう。

「同調、開始《トレース・オン》」

 全神経を集中させて、俺は魔術回路の生成を開始した。
 外から新たな神経を導き入れ、脊髄に突き刺し接続する。突き刺す場所がズレれば、良くても廃人だ。
 俺は極限の緊張の中、生成した魔術回路を一気に突き刺した。
「ッ! ……ふう」
 一瞬の痛みの後に、魔術回路が接続され、魔力が駆け抜ける。成功だ。
 俺は意識の矛先を自分自身から手にした和紙へと変更して、魔力を流して和紙の構造を解析する。
 ほどなく、和紙の中に魔力を流し込むべき場所を発見。強化を開始した。
「―――構成材質、補強……あ」
 そして、俺が魔力を流し込んだ瞬間、俺の手の中の和紙は跡形もなく粉砕されたのであった。

「ええと、こんな感じなんだけど」
「はい。衛宮さんの場合、魔術を使うたびに魔術回路を生成している点が誤っています」
「え?」
 結城さんの採点は、俺にとって意外な結果であった。魔術回路の生成は上手くいったと思っていたからである。
 なんでも、魔術回路とは本来は扉のように開閉するものなのだが、俺は扉を開けずに壁をぶち抜いて扉を作るところからはじめたらしい。
 結城さんが言うには、扉を作るのは一回でよく、魔術回路を何度も作り、そのたびに命の危険を冒すことは無意味であるらしい。
 俺にとっては十年の鍛錬を否定されたわけだから、これには脱力するしかなかった。
「衛宮さんは、技巧以前に魔術回路の開閉を覚える必要があります。そうですね……湯飲みに水を用意してください」
「? ああ、分かった」
 何をするのか分からないまま、俺は台所へと向かい、指示された通りに湯飲み茶碗と水を用意した。
 俺が水を持って戻る間に、結城さんは再び一枚の和紙を取り出していた。
 無地であった先ほどの紙とは違い、今度の紙には墨で複雑な文字が書かれている。紙からはかすかに魔力を感じるので、なんらかの魔術のかかった呪符なのだろう。
「ヤタ」
 結城さんは、俺が持ってきた水の入った茶碗を盆ごと受け取ると、呪符を茶碗の上にかざして小さな声で呼んだ。
 その時、突然結城さんの肩の上に光の塊が出現し、俺の目をくらませる。手をかざしてみると、それは青白く光り輝く一羽の鳥だった。
 結城さんが目配せをすると、ヤタと呼ばれた光る鳥は、結城さんの肩から飛び降りて呪符の端をクチバシでつついた。
 ヤタがつつくと、青白い光が呪符へと燃え移り、和紙を灰に変えていく。
 やがて呪符だった灰は、その下に置かれた茶碗の水に一片残さず溶け込んでしまった。
 気がついた時には光る鳥の姿もいつの間にか消えていた。
「この水を飲んでください」
 結城さんが、そう言って茶碗を差し出した。
 俺はそれを受け取るものの、さすがに灰の溶け込んだ水を飲むことには抵抗がある。
 とは言っても、結城さんは冗談を言う人には見えないし、呪符のこともある。この水が魔術回路の開閉に関わることは間違いないだろう。
 ……。俺は覚悟を決めた。
「い、いただきます」
 灰の溶けた水を一気に口の中に流し込む。思っていたよりも口当たりは悪くないが、やはり味はよろしくない。
 完全に溶け込んでいたからか、口の中に灰が残るようなことはなかった。
「……寒い」
 水の効果は、飲み込むとすぐに訪れた。
 とにかく寒い。体はガタガタと震え、鳥肌が立ち、歯の根が震える。まるで、体温を根こそぎ奪われるような感覚だ。
 しかし反面、体の外から何かが流れ込んでくる感覚もある。
 例えるなら、真冬の寒い日に、ストーブで温めた部屋の窓を全開にしたような気分だ。
 俺の体と言う部屋は、流れ込んでくる外の空気でどんどん冷やされていく。
「先ほどの水を飲んだことで、衛宮さんの体が外部の魔力を取り入れはじめました。魔力が魔術回路を通過していく感覚が分かりますか?」
「魔力……?」
 結城さんに言われて意識を集中すると、俺の体に流れ込んでくる冷たい風は、たしかに魔力だった。
 しかも、その感覚は徐々に広がっている。これが魔術回路が開くということなのだろう。
 それにしても寒い。
「今は体外から魔力を取り込んだことで変調をきたしています。ですが、それもすぐに落ち着くでしょう」
 なるほど結城さんの言葉通り、徐々に流れ込む魔力の量が減ってきている。
 流れ込む魔力の量が減るにしたがって、体の震えもおさまり、調子が戻ってきた。
「衛宮さん、魔術回路の開閉を自由に行えるようにしてください。先ほどの感覚を忘れないように」
「宿題ってところか。出来るだけ早く達成できるように努力するよ」
 結城さんがうなずく。今日はここまでと言うことだろう。
 たしかに魔術回路も開けないのでは、指導も何もあったものじゃない。
 さて、できればもう少し結城さんと話してみたいが、時間が時間だから話題は一つが限界だろう。
 ……何を聞こうか。

選択肢:何を聞こうか。
【結城小夜】:結城さん自身のことを聞く
【式神ヤタ】:さっきの光る鳥について聞く。
【焼き魚と味噌汁】:夕飯の感想を聞く。


投票結果


【結城小夜】:2
【式神ヤタ】:1
【焼き魚と味噌汁】:5


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最終更新:2008年10月25日 16:25