28 :Fate/式神の城 ◆v98fbZZkx.:2008/09/13(土) 00:43:19
→夕飯の感想を聞く
「結城さん、今日の夕飯はどうだった?」
あまり突っ込んだ話をするのもどうかと思い、俺は食事の話をすることにした。
雑談をするにしても個人としての共通の話題はないわけだし、万民に共通である食事の話題は悪くない選択だと思う。
今日のメニューは味噌汁に焼き魚と捻りのない和食だったが、それだけに味の方にはちょっと自信があったのも理由の一つだ。
「特に問題はありませんでした」
だが、俺のちょっとした自負は、結城さんのそれはもう淡々とした感想の前に、あっけなく砕けるのだった。
……。
いや、これはいっそまずいと言われる方がよかったのかもしれない。正直、かなりへこむ。
「ええと、結城さんは食事にこのみとかあるかな? よければ普段の献立とかを教えてほしいんだけど」
されど、ここでへこんでいては交友など夢のまた夢。感想特になしならば、感想が出てくるような料理にするまで。
そういうわけで結城さんの食事のこのみを聞いてみた。
「衛宮さん、魔術師はどんなに些細な事柄でも、己の事を他人に知られないようにするべきです」
「は、はい」
しかし、またしても結城さんの口からは俺の求める答えは返ってこない。
断られるだけならまだしも、魔術師としての心構えが帰ってくるとは予想外だ。
結城さんは思った以上にまじめと言うか、生真面目すぎる性格なのかもしれない。
結局、俺の質問の答えが返ることも無く、時間を理由にして俺は結城さんの部屋を後にした。
まあ、話の方向は斜めにそれたが、少しは結城さんの性格をつかめただけ良しとしよう。
俺は、そんなことを考えながら自室へと戻ったのだった。
一度着がえを取りに戻って、さらに風呂を済ませて就寝の準備を終える頃には、すでに日付が変わろうとしていた。
昨日に続いて就寝時間が遅くなっている。明日は学校があるのだが、はたして俺は起きられるのか……?
「戻っていたのですか。シロウ」
布団の上で云々と唸っていると、からりとふすまが開いてセイバーが顔を出した。
その腕には、なぜか布団一式が抱えられている。
「セイバー?」
俺が戸惑う内に、セイバーは俺の隣に布団をぼふっと投げ落とすと、敷布団をぱっと広げてその上にちょこんと座った。
まあ、それだけなら良いのだが、問題は彼女の布団の位置である。
布団の上に座った俺の隣ということは、当然、二つの布団が並ぶ配置になるわけで。
俺の部屋の景色は、一体どこの新婚さんの寝室かと問いただしたくなるものへと変異していたのである。
「ええと、セイバー? 俺ちゃんと寝室に案内したよね?」
「はい。私はここで寝ますが」
確定事項のように告げるセイバー。なんでさ。
いや、そもそも霊体であるサーヴァントが睡眠をとる必要などないのだが、セイバーについては当てはまらないらしい。
セイバーは霊体化できない。しかも、俺からの魔力供給はへっぽこであるため、消耗を抑えるために睡眠をとる必要があるらしかった。
昨日の夜からやたらと何かを口にしていたのも、その辺に理由があるらしい。
「でも別に俺と同じ部屋で寝る必要性はないだろう? そもそも男女が同じ部屋で寝るわけにはいかないじゃないか」
そんなことになったら、むしろ俺が睡眠不足になる。
もっとも、この新婚ルームを藤ねえに見られようものなら、まちがいなく明後日の朝日は拝めないだろうけど。
「? 妙なことを……それなら」
セイバーは、一度首を捻ると、突如としてすっくと立ち上がると、自分の布団をくるくると丸める。
納得して客間に戻ってくれるのかと俺が安堵していると、なんとセイバーは部屋の出口とは別方向の敷居を跨いだのであった。
そして、再び畳の上に布団が敷かれ、俺との間にあるふすまがピシリと閉められた。
「これで問題ないでしょう」
ふすまの向こうから聞こえるセイバーの声。
ああ、たしかにこれで別の部屋である。あいだにはふすま一枚しかないのだが。
日本家屋の構造や区分けの方法を、俺はこのとき本気で恨めしいと思った。
「それはいいとして」
布団の移動を終えて、セイバーが再び俺の部屋に顔を出す。セイバーは座る場所をさがして、俺の布団の上に座った。
「シロウはサヨについてどう思いますか?」
「え? ああ、生真面目な人だったな」
唐突なセイバーの問いに、それくらいしか話せないということもあるが、結城さんの印象を伝えた。
「生真面目、ですか。……なるほど」
セイバーは納得したような、しないような、実に微妙な様子であった。
しかし、こういった質問があるということは、やはりセイバーも結城さんのことが気になるのだろうか?
「私はサヨに空虚な印象を受けました。あの中には何もない、まるで人形のようだと」
「人形って……」
いくらなんでもたとえが酷い。俺はついつい、セイバーを非難するような口調になっていた。
「これは私の勘ですが、できるだけサヨの動向に気を配るようにしてください。あるいは、杞憂ですむかもしれませんが」
勘。とセイバーは言った。つまり、それ以外に根拠はない。
だが、俺にはセイバーが、ひどく確信的な様子であることが気になる。
だから、結城さんを疑うようであまり気が進むことではないが、俺はセイバーを信じることにした。
「分かった。出来るだけ気をつけてみる」
「はい。今はそれだけです。……それでは、おやすみなさい。シロウ」
ふすまの向こう側にセイバーの背が消えるのを待って、俺は自分の布団と睡魔に身を任せた。
セイバーが結城さんに見た空虚な印象。そこに、いったいどんな意味があるのかを考えながら。
一方その頃/
玖珂光太郎は、新都の裏路地で頑丈さがとりえの古い携帯を耳に当てていた。
その顔面には、ガーゼや絆創膏が生々しい。
「光太郎か。どうした」
数度の電子音の後に、初老の男性の声が受話器から聞こえた。
光太郎の電話の相手は山下浩太郎。通称は山さん。父親の先輩に当たる警察官だった。
「山さん。また一人やられた。被害者は二十歳くらいのOLだ。クソ、こんなに切り刻みやがって……」
「犯人はやっぱり『人形』か?」
「ああ」
光太郎は山さんの言葉を肯定しながら、飛び掛ってきた生き残りの人形に紙幣大の紙切れを投げつけた。
複雑な模様の書かれた紙は、人形に張り付くと爆発を起こして人形を焼き尽くす。これが光太郎の力だった。
光太郎は地面に転がった人形やぬいぐるみの残骸を一瞥する。
かみそりを持った人形やぬいぐるみを、光太郎はここ数日で五十以上も破壊している。だが、一向に事件は収束しない。
これらは、真犯人の、文字通りあやつり人形なのだろう。
「山さん。犯人はぶっ飛ばすぜ。絶対だ」
ギリ。と光太郎の奥歯が鳴る。ここ数日で五十以上の人形を破壊したが、助けられたのは一人だけだった。
犯行の手口は単純。手に持ったかみそり、あるいは包丁で相手を切り刻むだけ。
ひたすらひたすら、死ぬまで切り刻まれるだけだった。
「……とりあえず現場教えろや。後片付けくらいはしてやるさ」
山さんの声はどこか自嘲するようだった。
定年間際の刑事にとって、事件が警官という一般人の手が届かない場所にあるのが気に食わないのだろう。
光太郎は、おおよその場所を伝えると、電話を切った。
本来なら、この場に留まって事情聴取に応じるべきだが、そんな時間は光太郎にはない。
「許せねえ」
遠くから響くサイレンの音を聞きながら、最後にもう一度だけ被害者の顔を見て、光太郎は夜の街に駆け出した。
事件は、まだ終わらない。
/一方その頃 了
「せんぱい……先輩……」
「んあ……」
桜の声とともに身体がゆさゆさと揺らされて、俺の意識は眠りの淵から浮かび上がった。
しかし、桜には悪いがこれでは逆に眠くなってしまう。やはり連日の夜更かしは効いたようだった。
ああ、でも起きなくてはいけない。朝食の量が普段より三人も多いの、だ……あ。
「しまったー!?」
「ふぁっ!?」
勢いをつけて布団を跳ね上げ、思い切り上体を起こすと、枕元で桜が飛びのいた。
そう、そこにはすでに桜の姿がある。これは時刻を見れば不思議でもなんでもない。
だがしかし、今の我が家には客人、しかも年頃の女性、が三名も宿泊しているのだ。
桜にあらぬ誤解をさせぬためにも、俺は普段よりも早起きすべきであったのを、このざまである。
まあ、幸いにも桜は結城さんやセイバー、なにより遠坂に会った様子はないようだ。今からでも巻き返せるだろう。
「ああ、びっくりしました。でも、先輩がご自分の部屋で寝坊をするなんてめずらしいですね」
「う、うん。休み中に新都にでかけたりして疲れたのかもな」
クスクスと笑う桜を、俺は乾いた笑いで誤魔化したが、このままでは事態は一向に解決しない。
なにより、台所からかすかに朝食の匂いがただよってくるのが悪い。
これは、冬木の虎の来着が近いというなによりの証拠である。
もし、藤ねえに彼女たちの……特に遠坂の宿泊が発覚すれば最悪で説教フルコース、最悪柳洞寺に修行に出される危険すらある。
仏教に対して他意はないのだが、俺は出家するつもりはない。
さて、とにかくこの場を切り抜けなくては……
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最終更新:2008年10月25日 16:26