533 :隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM:2008/07/24(木) 02:14:57
砂嵐の中、『彼』は何かを見つけた。
それはまるで幻のように砂嵐の向こう側に消えてしまう。
その方向を注視しながら、そこに向けて歩き出す。
僅かな後、彼の表情には確実な驚きが現れていた。
蜃気楼のように砂嵐の向こうにあるモノを見たとき、ついに彼は長く開くことの無かった口を開けた。
「人の、街……?」
その呟きは、砂嵐の向こうに掻き消えた。
極度の高揚による一瞬の自失。
桜がそれを自覚する直前、止める間すらなくライダーが跳ねた
どうやら先程のざわめきは自身の体内でも弾け、その影響を受けたらしい。
だが影響とは詰まるところその程度で、殺傷能力の類は皆無。
現状理解できたのはその程度、それよりも先にやるべき事があった。
『ライダー、落ち着いて中距離戦に徹して!』
可能な限りの冷静さを持って、念話で距離をとるようにライダーに語りかけた。
それは普段の彼女からすれば激怒寸前の、怒りが漏れ出している時の語調だ。
彼女とその姉を深く知るものからすれば『どちらかと言えば遠坂の領分だ』とでも言うだろう。
異常なほどの興奮と高揚、それは深く深く、彼女達に侵食していた。
停止を命じられても尚、ライダーは止まることが出来なかった。
その高揚は留まることなく、敵を刻んでいく。
如何に単純化させられたた代物とはいえ、牛ではなくサーヴァントの連撃である。
『人を超えたばかり』の存在に対しては些か荷が重い。
蛇のような機動で前後、上下、左右からほぼ同時に襲いかかる連撃は、まるで複数の、それも手練れの敵を相手にしている錯覚を覚える。
だがその連撃に相対して生き残っていると言う事実はより巨大なモノだ。
わずか数分前まで只の人間だった――反撃する間もなく只の一撃で戦闘不能状態にさせられた――存在が為し得ることではない。
突き出された鎖剣の先端と、同じく突き出した剣の先端が触れ合い、その衝撃を受けてライダーの体がその場に停止し、骨の体が真後ろに吹き飛ぶ。
骨の体となっても頭の上に残っていた海賊を思わせる帽子が落ち、骨の顔が露わとなる。
月下に曝されたその顔には毛髪も皮膚も眼球も無く、予想していたこととはいえ、目の当たりにして一瞬息を飲んでしまう。
「……力を求めた故、ですか」
そう言ってライダーは再び姿勢を落とす。
考えぬようにしていた思考が首をもたげる。
あれは衛宮士郎のもう一つの未来だ。
あの時の彼とは違うが、何某かの目的のために力を求め、あの姿となったのだろう。
それには肯定も否定もしない。
だが目の前の骨の姿が、剣となった衛宮士郎の姿と重なって見え、高揚を続ける体が僅かに冷める。
「ぐっ……」
その僅かな隙を突き、再び空間がざわめく。
思考が掻き消え、攻めてこいと挑発されているということに集中させられる。
全身に力が漲り、同時に視界が赤く染まる。
既にそれは狂化に等しい。
再び失せた思考はそのままに、『二人』は敵へと突撃した。
かくして――
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最終更新:2008年10月25日 16:12