121 :もしハサ ◆yfIvtTVRmA:2008/09/22(月) 00:50:06
エピローグ3「もしも運命の再会というものがこの世に有るのならA」
令呪の跡も目立たなくなり、衛宮士郎へのアフターケアも順調。
あの洋館での戦いが過ぎ去ってしばらく立ったある日の夕暮れの事。
「ただいま」
そうそっと呟き桜はかつて自分が過ごしていた我が家、―元々は遠坂の娘である彼女に
とって本当の我が家と呼ぶべきは本当にこっちなのかは疑問符が付くが―、間桐の家の
門を叩いた。
返事がしない。ドアも開かれない。
『今後の事について話せるぐらいまで回復はしたが、僕が自由気ままに外出が出来る
までにはまだ当分掛かるからお前が一度こっちに帰って来い』
そう言ったのは慎二の方なのに玄関まで迎えにも来ないなんて、
そう思い桜は心の中で舌打ちする。
「兄さん、お爺様、いないんですか?」
自分で半分開いた扉から顔を覗かせ中を覗き込む。
あの兄と爺の事だ、ひょっとしたら自分を嵌めるための罠を用意して待っているとも
限らない。そう考え視線の先に集中していた。
「桜ちゃん」
隙だらけのがら空きの背中に声が掛けられる。
「お帰り桜ちゃん」
パーカーの男がすぐ後ろに立っていた。
振り返った桜の目の前にいる男、十年前にこの家で叶いもしない夢を自分の前で
垂れ流し続けていた愚かな男。十年前の男の姿と変わらない姿で彼はそこに立っていた。
「叔父さんの真似ですか?兄さん」
「あ、あれ?何で僕だってすぐにわかったんだよ?」
「あの人はもうここにいるはずの無い人です。何より、あの人ならそんな事言わない
だろうと思ったので」
そう、記憶が確かならば桜の知るあの男は桜と自分がこの家を出るのを望んでいた。
ここに戻ってきた自分に対してにこやかにお帰りなどとはきっと言わなかった
だろう。
「桜ァ、そういうのは気付いていても驚いておけよ。本当空気読めないなお前は。
おととい来た神父にも生き写しだと言われたんだぞ。まあいいや、ここでずっと立ち話
するのもなんだし上がれよ」
「はい、それじゃあお邪魔します」
他人行儀に家に上がりこみ、悪態をつく慎二の後ろを付いていき洋間へと向かう。
桜は安堵した。見た目こそあの洋館で出会った時より症状が進行しているが、
どんな手を使ったのかは知らないが肉体的にも精神的にも以前より安定している
様に見える。これなら今日少しぐらいこれまでの仕返しをしてやっても問題なさそうだ。
二人は洋間に着いた。姉の財産管理のため間桐を出た時となんら変わらない間取りに
桜は落ち着きを覚え、やはり自分の家はこっちなのだろうかと自覚する。
慎二はパーカーを脱いでハンガーに吊るしてからソファーに座り、桜もそれにならい
慎二の正面に座る。
「よし、それじゃあ本題に入ろう。単刀直入に結論から言おうか―」
パーカーに隠れていた首筋の傷跡と黒い部分が完全に無くなった髪を露にし
慎二は桜に話しかけてくる。こうして見るとやはり瓜二つだと思った。
「桜、間桐をお前に継がせてやる」
「嫌です」
数ヶ月慎二と離れていた桜にとって今日は立場を逆転させる絶好の機会であり、
ここに来る前から桜は一つの事を決意していた。
今日兄に何を頼まれてもまずは「嫌です」と返事をしてやる事だ。
これにより間桐にいた頃の何でも言うことを聞いていた私とは違うのだと言う
印象を与えようという試みである。
そして、慎二に対しての返事はイメージどおり完璧に上手くいった。
ただ、その事に集中しすぎたせいで肝心の返事した内容についての理解が一瞬遅れて
しまっていた。
「・・・えっ?」
桜は慎二の言った事をゆっくりと反芻しその内容を整理する。
自分が、間桐を継ぐ、慎二が、一応は魔術師になったにも関わらず、
しかも、祖父臓硯が言うのならともかく、慎二の口からそんな事を、そういえば、
まだあの爺に会っていない、いったいどこにいるのか、いや今はそんな事よりも
さっきの言葉に対しちゃんとした返事をしなければ。
「嫌です」
桜は自分の意思を正しく慎二に伝えた。
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最終更新:2008年10月25日 16:21