38 :Fate/式神の城 ◆v98fbZZkx.:2008/09/14(日) 17:09:58


→「食事の用意を任せちゃって悪いな」と誤魔化しながら居間へ向かうことにした。

「桜、月曜日だってのに朝の用意、任せちゃって悪かったな」
 俺は、出来るだけ普段通りにふるまうことにした。
「そんな、気にしないでください。私も好きで……この前も同じことを言いましたね」
 そう言ってくすくすと楽しそうに笑う桜。たしかに、休み前の朝も同じようなやり取りをした気がする。
 俺は桜に重ねて礼を言いながら、本格的に起き上がって伸びをした。実のところ、早めに部屋を出たかったのだ。
 桜にセイバーや結城さんの宿泊を説明しようとも思ったが、なにせ隣の部屋にはセイバーがいる。
 いらぬ誤解をまねかないためにも、その発覚だけは防ぎたい。
「じゃあ、行こうか桜。待たせるとうるさいし」
「そうですね。あ、私がこんなこと言ったなんて、藤村先生にはないしょですよ?」
 桜にまでそう言われたら、藤ねえは盛大にむくれるだろう。
 俺たちは、その情景を想像したことによる笑いを抑えながら、そろって居間に向かった。

「おっはよー、士郎」

 居間の戸を開けると、当然のごとくそこには藤ねえの姿があった。すでに茶碗とはしの準備を終えているのも、まあ予想通り。
「藤ねえ、朝から大声出すなよ。近所迷惑だろ?」
「迷惑かかるほど狭い家じゃないでしょー? って、そうだ士郎」
「? どうしたんだ藤ねえ」
 改まった様子の藤ねえに、俺は結城さんやセイバーのことがばれたのではないかと、ひやりとする。
 ちゃんと収納してあるので、下足からばれることはないはずだが、万が一の場合は覚悟しなくてはならない。
「日曜日に新都でデートしてたってホント?」
「は?」
 しかして、俺の不安は杞憂に終わり、新たな火種が噴出したのであった。
「音子がねー、うちの制服を着た女の子と楽しそーうに歓談してる士郎を発見したらしいにゃー。ね? ね? どうなの?」
「ちょ、ちょっと待て藤ねえ、美綴と俺はたまたまあっただけで、デートとかそんなんじゃ」
「ほー、お相手は美綴さんなのね!」
 墓穴。まさに墓穴を掘った。
 うっかり美綴の名前など出したものだから、藤ねえはさらにヒートアップしてしまう。
 俺は、助けを求めるつもりで桜に目配せをする。だが、その桜もなにやら思いつめたような表情だ。
「そういえば、先輩新都に行ったから寝坊したって……」
 そして、桜さんは俺を墓穴に突き落としてくれたのだった。
「な、ななななななな!??? 士郎!? まさか学生としてあるまじき行為なんて!?」
「藤ねえ、落ち着け! それは飛躍しすぎだ!」
「で、でも、先輩、妙に疲れたような表情……」
 追い討ち桜。天然なのか、狙ってやってるのか、俺は桜が分からない。
 確かに、俺は少し疲れてる。全身に力が入らないような倦怠感で、おそらく魔術回路の開放を行った影響だろう。
 もちろん、そんなことを二人には話せず、俺は言葉を詰まらせた。コレがとどめ。
 藤ねえが想像を飛躍させ、ついには俺と美綴の人生プランの作成にまで思考が及び、桜は小声で何かを呟いていてやたら怖い。
 もう、誰でもいいから助け舟を出してほしい。この状況より悪くなることもないだろう。
「おふぁよー……」
「おはよう遠坂さん! ねえ、聞いてよ士郎ったら……遠坂さん?」
 俺。
 藤ねえ。
 桜。
 遠坂。
 どう見ても一人増えている。

「「「あーーーー!???」」」

 遠坂以外の三人が遠坂を指差して声を上げた。二人が驚愕。俺が絶望である。
 前言撤回。状況は最悪の事態に突入した。
「うー……なれないまくらで寝不足なのよ。ちょっと静かにして……あ、桜? 牛乳ってあるかしら」
「え? あ、はい。ちょっと待ってください」
 混沌とする状況の中、一人超然と牛乳を要求する遠坂。
 桜はパタパタと足音を立てて冷蔵庫から牛乳を出している。反射行動かもしれないし、現実逃避なのかもしれない。
「士郎、よそ見をする権利はあなたにあるかしら?」
「はい、いいえ、ありません。藤村先生」
 一方、俺の方は怒り心頭と言ったところの藤ねえの前で正座させられ、根掘り葉掘りに質問攻めにあっていた。
 しかし、この場に居ない結城さんとセイバーが、空気を読んでくれたのは非常にありがたい。
 二人が出てきていたら、それこそさよなら俗世、こんにちは仏門となっていたかもしれない。もういちどありがとう、二人とも。
 結局、藤ねえの説教は、俺が土下座するまで続くのであった。

「遠坂さんも大変なのね」
「それで途方に暮れていたら、衛宮くんが声をかけてくれまして……」
 遠坂が嘘八百を並べ立てて宿泊の理由を説明していた。
 実は遠坂家に急遽客人を迎えることになったのだが、自宅の客間がしばらく前から改装中。困っていたところを俺が声をかけた。と、言うストーリーである。
 当然、その客人とはセイバーと結城さんのことだ。遠坂は客を招く主人として一緒に泊まらせてもらったことになっている
 話しながら細部を矛盾なく埋めていく、その話術は素直に脱帽ものだとおもう。
「それで、そのお客さんはこれからどうするのかしら? 遠坂さんも学校でしょう?」
「はい。昼の内は自由に市内を回っていただこうかと思っています」
「そうなの。……事情は分かりました。そう言うことなら目を瞑ります。士郎、頭上げていいわよ」
 俺は息を一つ吐いて土下座したままだった頭を上げた。
 目の前ではすっかり身だしなみを整えた遠坂と、満面の笑みの藤ねえが談笑している。桜は少し前に部活を理由に出かけてしまった。
 顧問が目の前にいるというのに、本当に桜には悪いことをしてしまったと反省する。
「そう言うことは事前に相談。そうすれば藤村家の客室だって貸してあげられるもの。分かった?」
「うん。ごめん藤ねえ」
 嘘をついてごめん、とあわせて、もう一度頭を下げる。
「そこが士郎の良いところでもあるんだけどね。さーて、桜ちゃんを待たせちゃうから、わたしも出かけるね」
「ああ、気をつけてな、藤ねえ」
 しっかり茶碗は空にして、藤ねえは出かけて行った。ほどなく、原付の音が聞こえて、遠ざかっていく。
 俺は、そこでようやく本当の意味で緊張を解いた。目の前の遠坂も同様のようだ。
「うかつだったわね。お互いに」
「そうだな。助かったよ遠坂。俺一人だと誤魔化しきれなかったし」
「朝ごはんの味に免じてチャラにしておくわ」
 遠坂は目の前の朝食を口に運んで満足そうに微笑んだ。作ったのは俺ではないが、それでもチャラで良いと言ってくれる。

「失礼します」

 スッと戸が開いて、結城さんとセイバーが顔を出した。
 身だしなみもキチンと終わっているところを見ると、藤ねえと話している間に済ませたのだろう。
 この二人があの騒がしい気配に気付かないはずもないだろうし。
「さて、今日のことだけど。私とアーチャー、士郎は学校。結城さんは自由に街を回ってかまわないわ。印象の操作はできるでしょう?」
「はい」
 遠坂の言葉に、結城さんが静かにうなずく。遠坂は冬木の管理者なので、略式とはいえ魔術師が街を回る許可なのだろう。
 問題は、名前がでなかったセイバーである。
 彼女が霊体化できないことは、遠坂も感づいている。そうなると、魔術の秘匿の意味で俺についてくることはできない。
 もちろんある程度距離をおいてなら可能だが、その場合の護衛能力は、どうしても弓兵に劣る。
「では、私はサヨとともに行動しましょう」
「剣霊殿は私がお気に召さないようですね」
「シロウに害意を抱かないのであれば、こちらから手を出すつもりはないが」
「やめなさい。ここで対立しても何もならないでしょう」
 一瞬の険悪な雰囲気。しかしそれは遠坂の一声で霧散した。セイバーも結城さんも、一瞬前が嘘のように雰囲気が落ち着く。
「とにかく、結城さんとセイバーはそれぞれ自由に動いてもらうことで良いわね? 詭弁だけど」
 つまり、セイバーが結城さんと偶然同じ場所に行くのも自由ということだろう。
 形の上で、結城さんが監視されるようなことになるが、結城さんもセイバーも素直に承諾した。ここで場を乱すことは、誰も望まない。
「それじゃあ、士郎、行きましょうか」
「ん、ああ……って、俺まだ寝間着なんだけど」
「さっさと着替えてきなさい。待っててあげるから」
 遠坂がいつの間に着替えたのかと、釈然としない気持ちを胸に、俺は着替えを済ませて学校へと向かうことにした。


 バタバタした朝とは逆に、あまりにも普通の授業が終わり、瞬く間に昼休みになった。
 つくづくと時間の密度が濃い二日ばかりを過ごしていたと実感する。
 しかし、時間の濃度がどうであろうとも、どうしても空腹は襲ってくるものだ。
 さて、昼はどこで食べようか?

選択肢:昼休みは
【教室】:昼食は教室で食べる
【生徒会室】:昼食は一成と食べる
【屋上】:たまには屋上で食べる


投票結果


【教室】:5
【生徒会室】:4
【屋上】:2


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最終更新:2008年10月25日 16:26