53 :Fate/式神の城 ◆v98fbZZkx.:2008/09/18(木) 23:33:04


→昼食は教室で食べる


 俺はふむ、と一声うなって、机の上に本日の昼食を並べた。パン、パン、牛乳。
 学生としては平均的な昼食だと思うが、なまじ弁当に慣れているだけに、どうしても味気なくは感じる。
 まあ、これならば弁当の防衛を考える必要もないと思えば、たまには教室で食事を取るのも悪くないだろう。
「おや衛宮君、キミが弁当でないとはめずらしいこともあるものだね」
「後藤か?」
 ぱくぱくとパンを頬張っていると、舌打ちをしながら通り過ぎていく生徒の後ろから、見知った顔が現れた。
 この後藤、前日に見たテレビの内容に影響を受けるという変わった特徴、あるいは特性を持っている。
 普段は時代劇口調なのだが、今日はそれほど違和感を感じない。だあら、意外とこれが素の後藤なのかもしれない。
 意外な素の表情というのもどうかと思うが。

「それで衛宮君、キミは本日付で衛宮士郎抹殺同盟なる組織が成立したのを存知かね?」

「ぶっ!?」
 突然後藤の口から吐き出された、果てしなく物騒な組織の名前に、俺は思わずパンを噴き出すところだった。
 一応、これでも清く正しく生きているつもりだ。健全な一般生徒から、徒党を組んでまで抹殺の対象になるような覚えはない。
「後藤、詳しく」
「うむ。キミは昨日の休日、新都の喫茶店で美綴嬢と逢瀬を楽しんでいたようだが……」
「たまたま会って喫茶店で食事しただけだよ。……はあ」
 俺は頭を抱えて机に突っ伏した。なんとなく落ちは読めてしまったのだ。
 後藤はといえば、衛宮はさっしがいいなと笑っている。
 意外でもなんでもないが、美綴は下級生を中心に人気がある。容貌はもとより、文武両道で面倒見もいい。これで人気が出ないのは嘘だろう。
「もっとも、それだけならばよしだ。今朝、衛宮君は遠坂嬢と登校しただろう? 孤高の令嬢、全校生徒の高嶺の花とだ。これでは、衛宮イクォール二股膏薬と認識されても無理はない」
「誤解だよ」
 俺は即座に、たまたま一緒になっただけだと言い訳をする。後藤にしても意味はないのだが。
「うむ。ボクもそう思うよ衛宮君」
 しかし、後藤は鷹揚にうなずいて俺の意見を認めてくれた。コイツいいヤツだなあと心の底から思う。一瞬後に撤回したのだが。
「そもそも、衛宮君に二股をかける甲斐性などないだろう」
 その言葉を引き金に、俺の頭が机をドラのように叩いた。かなりいたい。
 こいつ、性格が悪くなっていないだろうか? 口調も微妙に変わっているし、明らかにテレビ化何かの影響を受けている。
 いつものことといってしまえばそうなのだが。
「まあ、衛宮君の甲斐性の話しは置いておくとして、キミはニュースを見るほうかい?」
「人並みにはな」
 振られた話題に、俺はそっぽを向いてパンを咀嚼しながら答えた。行儀は悪いが、今の後藤を正面から相手をするのはひたすら疲れる。
 俺がテレビをじっくり見ることは稀だ。夜や休日に時間があれば、機械いじりか鍛錬についやしてしまう。
 と言っても、食事時間にチャンネル権利者である藤ねえの気分次第ではニュース番組を見ることもあるし、見出しが気になれば新聞を手にとることもある。
 つまり、人並みだろう。
「じゃあ、工藤美代子は知ってるかな?」
「ああ、現役女子高校生にして名女優って騒がれてた人だろ? たしか……」
 後藤の口から時代劇俳優以外の名前が飛び出したので、俺は合いの手を返した。
 だが、俺はその途中で言葉を止める。
 その女優、工藤美代子はすでに芸能界にはいなかったからだ。
 引退ではない。自殺である。
 ニュース。そう、テレビのニュース番組で報道されていたから、俺も知っていた。
 俺がテレビの画面で工藤美代子を見た最後は、彼女の自殺を報じる画面である。
「食事時の話題ではなかったね。しかし、ここでやめるのもきりが悪いから、最後まで言ってしまうよ。その工藤美代子が、新都で人を襲っているそうだ」
「後藤」
 俺はさすがにその不謹慎さをとがめた。後藤は、意外なほど素直にすまないとこうべをたれる。
 すでに死んでしまった人の不幸を話の種にする。それは、とてつもなく不健全な行為に思えた。
 たしかに、そう言った噂を耳にすることはあるけれど。
「それに、死んだ人が人を殺せるわけがない」
「ボクもそう思うよ。しかし、怨霊話は尽きることがない。なぜだと思う?」
「……」
「怖いからだろうね。色々と。例えば、人が死ぬ。殺された理由が怨念で、犯人が怨霊なら、観察者は怖くないのだよ。自分達には関係がないからね。だから観察者たちは、そうやって自分にわずかでも凶が及ぶ可能性を打ち消す……いや誤魔化そうとするんだと思う。怖いからね。そして、そこに観察者たちの共通の認識が生まれたとき、怨霊は生まれる。それを思えば―――」
 後藤は興味深そうに目を瞑り、スッと立ち上がった。

「この世には不思議なことなど何もないと思わないか、衛宮君」

 後藤の背後で食事をしていたクラスメートが盛大にふきだした。クツクツと笑って、お前それがやりたかっただけだろと茶々を入れる。
 そういえば昨日の夜、あの本の宣伝やってたなと誰かが言った。
 後藤が立ち上がると、さきほどふきだしたクラスメートがどこに行くんだと声をかける。後藤はトイレでゴザル、とおどけてみせる。
 俺も一緒に立ち上がり後藤の後に続いた。連れションか? と下品な追っ手が追いついた。
「いやいや衛宮殿、気分を害してしまったようでスマンでござる。この埋め合わせはいずれ」
「いいって、いつものことだろ? それよりもさ―――」
 トイレへの道すがら、俺は周囲に人影の無いことを確認して、ポンポンと後藤の肩を叩いてつかみ、彼を引きとめた。
 ピクリと、後藤の肩が震える。

「それよりもさ、お前は誰だ?」

 その言葉で、ゆっくりと俺の方を振り向いた《後藤》の顔は、薄く、笑っていた。
「驚いたよ。どのあたりで気が付いたんだい?」
 《後藤》の口から、明らかに異質な声が漏れだした。陽気にも思える、少し英語なまりのある声だった。
「雰囲気。それと、普段の後藤はそうじゃない。あの状況なら、もっと悪乗りする」
 視線は動かさずに、肩を押さえる手の力を抜かずに、、俺は《後藤》の問いに答えた。
 もちろん、他にも違和感はあった。だが、決定的なのはその雰囲気。話をする時のあの怜悧さは、一介の学生の雰囲気ではなかった。
「魔術師としての腕は三流以下だけど、勘の方は悪くないね。……乗りが悪いのは職業病だな。どうしても適度なところで手を引いてしまう。ああ、久々の学校にはしゃいでいるのかもしれないけど」
 《後藤》は満足したようにクスクスと笑った。存外に楽しそうな、余裕のある笑い声だった。
 そして決定的な単語。
 後藤本人は、俺が魔術師であることどころか、魔術の実在すら知らないだろう。
 しかし、この《後藤》は俺の魔術の腕まで知っている。
 自分のことを調べられていると言う思考が、ようやく俺の中に生まれた。
「それで、本物の後藤は無事なのか?」
「ああ、勘違いしているんだね。この体は間違いなくゴトウくんのものだよ。ボクは外から動かしているだけ。傀儡だね」
「ッ!?」
 《後藤》の言葉は、だからこの体が壊れてもボクは困らない、と続いた。
 そして俺は、それによって派手に動揺すると言う失態を演じてしまったのだ。この場で、後藤の身を危険にさらしたのは、間違いなく俺だった。
 そして、俺に目前の存在を退けるだけの能力は、ない。
「決断の早さは美点だね。だけど考えの浅さは落第ものだ。ちょっと評価はできないかな。それと、自殺をするつもりはないから、安心していいよ」
 《後藤》はそう言ってまた笑った。手をどけてくれないかな、と続く彼の言葉に、俺は従うしかない。
 結局、俺はまたも幸運と相手の気まぐれに助けられたのだろう。
 手を離したその時点で、俺の主導権は完全に失われた。
「ボクはキミの敵でも、味方でもない。そうだね差し詰め、ボクはキミの踊りを見たい観客だね。その視点から見れば、今の君の行動は満点だ」
「そりゃ、どうも」
 ぎこちなく返事をする。きっと、今の俺はさぞ不機嫌な顔をしているだろう。軽率、と俺が俺を責める。
「ボクは嘘つきだが、工藤美代子の件は嘘でもない。噂を追うといい。特にメディアには注目すること……さすがに喋りすぎだな。ああ、上司に気付かれた」
 つらつらと言葉を並べていた《後藤》の身体が、ふと空虚になって、そこから何かが失われた。
 俺は、慌てて崩れ落ちる後藤の身体を支えた。おそらく、中にいたヤツは、ここまでお見通しだったのだろう。
 後藤の方は体温、脈拍ともに異常と言うほどのものではない。
 俺は後藤の身体の下から滑り込むようにして持ち上げて、保健室へと移動を始めた。
 徐々に人目が増え始め、顔見知りが数人、力を貸してくれる。
 後藤の中身だったヤツのことは気に食わない。気に食わないが、正直情報がありがたかった。
 そのことだけには、後藤のことを抜きにはできないが、たとえ相手が悪魔でも感謝はしておきたい。
「このまま踊ってやるのは気に食わないな」
 後藤を貧血か何かと称して保健室に搬入した俺は、ポツリと呟いてヤツを出し抜く手段を探すことにした。
 少しは予想外の動きをして、仰天させてやるくらいでないと、観客の方も退屈だろうからと考えながら。


 放課後、後藤は昼休みが終わる直前にぼんやりとした様子で帰還した。
 どうやら、昼休み中のことはすっかり記憶から抜け落ちているらしく、俺には貧血で倒れたところを助けられたと感謝するだけだった。
 良心が痛む。
 俺は危うくお前を殺しかけたんだよと、白状できたら楽だなと考えて、俺は首を振った。詮方ないことだ。
 とにかく、気持ちを切り替えて事件を追うことにしよう。基本方針は決まった。
 工藤美代子。
 当たりか外れかはわからないが、とにかくその名前を追ってみよう。
 さて、そうなると放課後は……。

選択肢:放課後は……
【屋上】:先ずは遠坂と合流する。
【自宅】:一度家に帰って、セイバーや結城さんと合流する。
【新都】:新都に直行する。


投票結果


【屋上】:2
【自宅】:5
【新都】:1


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最終更新:2008年10月25日 16:27