145 :隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM:2008/09/28(日) 04:45:47
自らの戦闘力が低下し、まともに戦えぬ事は自覚していた。
また同時にマスターが負傷した以上、ここはなんとしても突破しなければならないということも理解していた。
その判断の故か、僅かに力が湧いて出てくる。
『もしかしたら、これが最後の底力というものかもしれない』
そう考えると、僅かに笑みが漏れる。
『サクラ、脱出します』
『ライダー、まさか……』
『安心してください、無駄に死ぬつもりはありません』
どの道それほど戦闘ができるとは思えない。
初撃で弾き飛ばし、そのまま脱出する。
それしかなかった。
戦意を失わぬ、少なくともそう見える敵を、マタドールは喜悦をもって迎え入れた。
無論その感情は外に漏れることはなく、それどころか自らにさえ理解できてはいないだろう。
失せたカポーテがあるかのように構え、じりじりと間合いを詰めていく。
ライダーは鎖剣を握り直すと、四足獣のように手足を地面に叩き付ける。
失せた頭部、その場所から視線を感じた。
両者の睨み合いが僅かに続く。
遠くで爆発音が響いた瞬間、睨み合いは終わった。
ライダーが、まるでカタパルトから打ち出されるように渾身の力を込めて敵へと突撃する。
直後、迎撃のための刃がライダーの頭部を目掛けて打ち出される。
『ここでっ……』
その刃が突き刺さる寸前、地面に鎖剣の先端を突き刺し跳躍する。
自身を弾丸と見立て敵に体当たりを仕掛けた決死の一撃は、僅かに逸れ右の肋骨を吹き飛ばすだけに終わる。
『まだッ!』
直撃でなかったと判断した直後、地面に足を突き立て、鎖剣を握る両腕に力を込め、停止を試みる。
同時に地面に突き立てた足を軸に、残った足で回し蹴りを放つ。
その蹴りが左の肋骨を二本吹き飛ばし、マタドールの体勢を大きく崩す。
『よし、この隙を……』
そう考えた瞬間、胴体へ強かにマタドールの刀身が打ち付けられ、吹き飛ばされた。
それはマタドールの意図した物ではない。
ライダーの連撃で崩された体勢は、すぐに止まることの出来ぬ回転運動となっていた。
最初の迎撃で突き出された腕と刃は旋風となって後方に回ったライダーを打ち据えたのだ。
壁に叩き付けられ、鎖剣を取り落としたライダーは、自らの限界を自覚した。
もとより連撃の段階で自滅を覚悟するほどだったのだ。
これ以上戦おうとすれば、並の魔術師よりいくらかマシ程度の力しか振るえないであろうことは予め分かっていたのだ。
回転運動を制御したマタドールが、剣を握りしめて向かってくるのが見えた。
『サクラ、あなただけでも今のうちに離脱を……!』
そう念話を送った直後、爆音が響いた。
その場にあった視線の全てが爆音の方向、ビルの屋上へと向けられた。
爆音の正体はK1200Rのエキゾーストだ。
屋上から自由落下のようにビルの壁面を駆け下りるバイクを視界に捉える。
「……シャリフ」
駆け下りるバイクから放たれる銃撃を叩き落としながら、マタドールは新たに現れた強敵に向けて喜悦とともに走り出した。
K1200Rが路上を捉えた瞬間、シャリフは舞い上がり、中空からマタドールへ向けて銃弾を放つ。
コントロールを失ったK1200Rがウィリー状態で桜に向けて突撃する。
それが何を意味しているのか、ライダーは理解した。
通過する寸前のK1200Rに飛び乗り、そのまま桜の肩を掴む。
『このまま離脱します』
『待って、ライダー!』
『……彼女は機動力を手放したのです、その意志をムダにしてはいけません!』
既に最高速寸前にまで達した状況下では通常の会話など出来ようはずもない、二人は念話で意志の疎通を図る。
意志が遺志となる可能性を考慮から外して、ライダーは戦場から離脱していった。
走り去る愛機のエキゾーストを聞きながら、シャリフは微笑んだ。
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最終更新:2008年10月25日 16:13