284 :隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM:2008/10/31(金) 01:48:11
同時刻 衛宮邸
「傷は大丈夫ですか?」
「はい、当面問題は無いと思います、ありがとうございました……先生」
そういいながら少女は肩に手を当てた。
一度負傷した箇所への再攻撃で、肩は無惨な状態になっていた。
それを『当面問題無い』状態にまでするのに手術を行ったのだ。
骨や血管、筋肉の接合、それらを麻酔なしで施術出来たのは、男の技術と、少女の精神力によるところが大きい。
現在も魔力による治療は継続している。
自己再生能力の向上は一時的に体力を消耗するものの、丸一日あれば8割の状態までは回復するだろう。
それ以降は長期療養が必要だろうというのが彼の見立てだった。
「それは良かった……こちらの状況が落ち着いたことですし、確認したいこともあったのですが、よろしいですか?」
「何でしょうか?」
「まずは貴女の言う『任務』、その奇妙な点について――」
ほんの僅か、敵を観察する。
細かな観察は行わない、既にそれが『人でない』事は分かっていた為だ。
観察したのは内と外である。
内の観察、先のスナイパーとの戦闘のダメージは残っているが、照準については支障がない。
主として脳に、その他全身に痛みがあるが戦闘継続はある程度まで可能だ。
外の観察、頭骨を失っても尚動く骨の体を持つ敵。
中枢無く全てを戦闘に向ける存在だとすれば、対応策は全間接の破壊以外に無いだろう。
たったそれだけで観察を終える。
何故そうなったか、そんなことは考えても彼女に分かるはずもなく、その思考も無意味だと理解していたためだ。
第二歩を踏み出しながら、シャリフは新たな銃の引き金を引き絞る。
銃弾の狙いは脊椎、腰部、肩部。
一カ所でも命中、破壊すれば戦闘力は激減し、その後の破砕は容易だ。
だがその銃弾は全てが回避され、あるいは風に撃ち落とされる。
最早布切れ同然となったカポーテが振るわれ、その風が細い一本の糸となったかのように銃弾を打ち据え、軌道を変えたのだ。
打ち据えられた銃弾は反転し、半ばまでは歪な軌道を持ってシャリフへと襲いかかる。
一瞬シャリフの動きが鈍化する。
だがそれは停滞を意味せず、銃撃は続行された。
シャリフの戦闘経験が新たに戦闘式を算出する。
予想した銃弾迎撃能力のみならず、中距離戦に対応するだけのスキルを確認。
戦闘力見積修正。
回避行動しつつ接近、回避不能位置からの攻撃にて行動力を強奪する。
法則無く弾かれる銃弾への回避行動として適するのは左右への回避。
だが最適な手段は迎撃さえされぬ事。
原理は不明ながら、左腕を振るうことで発動する。
一切の感情無くそう結論づけた戦闘経験は、シャリフの取り得る最速、最適効率にて走らせる。
マタドールも同様の結論か、両者は渦に飲まれた枯れ枝のようにその中心へと引き寄せられていく。
シャリフが二挺目の銃を放り投げ三挺目の銃を握った直後、マタドールの剣がシャリフの右眼球目掛けて放たれる。
だが金属音と共にシャリフがその剣を両手の銃にて挟み込む。
引き下がろうとする剣を、挟んだままの双剣が引き留める。
シャリフはその銃口を敵に向け、引き金を引き絞る。
その銃弾さえ、マタドールは回避してのける。
剣を手放して跳躍し、頭上から風圧で体勢を崩させる。
予想外の一撃に、シャリフは地面に叩き付けられるように手を付かされる。
握っていたはずの拳銃と、挟み込んでいた剣も地面に叩き付けられ、ゴムボールのように舞い上がる。
だが直後、シャリフは叩き付けられた腕をバネのように弾けさせ、天地を入れ替えるようにしてマタドールへ蹴りを『突き刺し』た。
砂糖細工を爆破したように左肩から先の骨が吹き飛ぶ。
同時にマタドールの右腕が自らの剣を掴み、振り下ろす。
だがそれは僅かに遅い。
蹴り上げた勢いのまま、マタドールとシャリフは上下が入れ替わり、連べ撃ちが再開される。
攻撃へと向かい、なおかつ背後さえ取られたマタドールにそれを回避する術などありはしない。
地面へと叩き落とされるまでの僅かな時間に、全ての間接を打ち抜かれ、マタドールはその機能を停止した。
着地したシャリフの長い髪が、ほんの僅か風に揺れ、蹴りによって打ち抜かれたマタドールの骨が、ビルの壁面へと突き刺さり、砕けて散った。
それとほぼ時を同じくして、ルヴィアとジェネラルは、目標地点に到達していた。
一度ライダー達が捜索したという場所を、改めて確認する。
ライダー達の探索は詰まるところ驚異の有無、魔術師の排除にあったが、今回の場合は制圧が目的となる。
「予定通りならば、この段階で全ての驚異は排除されているはずだけど……」
「油断は禁物だろう、君の言っていた工房、ここがそうだとしたら悪辣な罠は幾らでも仕掛けられる」
まして今は兵力の大半を別の場所へと割いている。
敵への対処能力は半減していると言えた。
「無論、何事もないのが最良だろうが、そこまで期待出来るモノではないだろうしな」
「ええ、探索を始めましょう」
兵士を4名ポイントマンとして先行させ、魔力の濃い方向へと歩いていく。
幾つかトラップが仕掛けられていたがそれらは全て発動前に破壊され、あるいは停止させられた。
「……妙ですわね」
先ほど破壊されたスパイクピットを見ながらルヴィアが呟く。
「何がかね? これらのトラップが残っているのは彼女達が実体化せずに探索を行ったためだろう?」
「ええ、それは気にすることではないのですけれど……罠の中に魔術を用いたモノが皆無なのが、少々」
魔術的な罠の敷設は間違いなく設置される。
工房に物理的な罠を設置することは、無いことはないが、それはあくまで二次的なモノであるはずだ。
少なくとも彼女の知る『常識』に照らし合わせれば、この場所は異常であった。
場合によっては発動した瞬間周囲の魔力を無差別に食うようなトラップが設置された工房さえ存在しているのに、である。
「ふむ……それは気にしても仕方あるまい、魔術を用いたというのならば、死亡と同時に解除されたのかもしれんしな」
少々楽観的ではあるが、彼自身は魔術に関して素人同然で、それに対して意見をする事はなかった。
先行したポイントマンが左手を挙げて合図し、全員の足が止まった。
「どうした?」
「この先の部屋から水音が聞こえます」
銃口を3つ先の部屋に向ける。
「水音……?」
「台所かバスタブか、大型の蛇口が開いているのではないかと思われます」
「トラップに留意、間隔を離して続行する、確認せよ」
「了解、手前の部屋から確認します」
手前二つの部屋には何も無く、いよいよ本命となる部屋の前に立つと、ポイントマンがドアノブへのトラップが無いことを確認する。
ドアノブを掴むと、ポイントマン同士がタイミングを計る。
ドアが開けられると同時に三人が三方に銃口を向け、最後の一人が上方を警戒しつつ三人の援護に回る。
その動きに淀みはなく、敵がいれば見落とすことなく撃ち抜かれていただろう。
部屋は既に床まで水浸しになっていたが、敵の姿は無い。
クリアリングを終えた合図を受け、ルヴィアとジェネラルが部屋内に入る。
水は既に廊下にまで流れ出つつある。
「この水は?」
「どうやら蛇口が破壊されているようです、ここから止めるのは無理です」
「そうか、まあ我々の目的は水の無駄遣い防止や水道料金の徴収が目的ではない、となると……あれだな」
「……ええ、確認しています、爆発物等の危険はないようです」
「分かった、3人は外の警戒を、一人は室内に残ってくれ」
「了解」
兵士に指示を出すと、ジェネラルはそれに向き直った。
それは使い込まれた旅行用のバッグだ。
順当に考えれば今夜戦った魔術師の誰か、その私物だろう。
「マスター、どうかな?」
「魔術反応……敗北した際に情報を残さないように、尚かつ敵を倒せるように……そんなところですわね」
炸裂するような魔力の反応。
不用意に、つまり正規の手続きを踏まずに動かせば即座に発動。
解呪しようとしても即座に発動する。
きっちりと調べたわけではないが、残された魔力と事情を推測すれば大きく外れては居ないだろう。
「……あら?」
優雅な戦闘服が濡れるのもかまわず、膝立ちになってバッグを覗き込む。
「どうしたね? 何か手がかりでも?」
「いえ……もしかしたら」
慎重にバッグに手を伸ばし、手の周囲から魔力を消し、一気にジッパーを開けた。
「やっぱり……」
「どういうことだ?」
「手間の問題、ということですわ。 幾度か似たようなパターンを見たことがありまして」
「……ああ、なるほど」
おそらく正規の手段とはかなり面倒なモノなのだろう。
実質金庫と同等の扱いをしていたが故に、一度置いた後の管理は杜撰だった、ということだろう。
国家保安に関するセキュリティシステムにおいて管理者権限のパスワードが管理者のイニシャルと生年月日だったという例もあるという。
それと同様に、魔力さえ消してしまえばバッグは開かれた金庫も同様だった。
「確証があったわけでも無かろうに……大胆だな」
「確証なく、確信あらば行動せよ、但し後悔してはならない……何かで読んだことがありますわ」
「なるほどな、動かさずにあければ安全と確信していたか」
「それに貴男もいますもの、いざという時でも不安はありませんわ」
破顔し、安心して一歩バッグに近づく。
「まだバッグには近寄らないでくださる? 一応魔術は残留していましてよ?」
大丈夫だとは思うが、万が一魔力なり神秘に反応して炸裂してしまえばここまでの苦労が報われない。
それ故にふれる可能性がある場所からは魔力を消したのである。
それに魔術に関して素人であるならば魔術師の荷物から手がかりを探す手助けが可能とは思えなかった。
何より万が一の場合、ここから瞬時に連れ去ってもらわなければならない以上、姿勢を低くして咄嗟の動きがしにくくなる状況は避けたかった。
「ふむ、そうか、ではここで止まろう」
魔術に関しては素人であるジェネラルはルヴィアの意図をほぼ正確に洞察して背後で停止し、ルヴィアはさらにじっと魔力反応を見ながらあけられたバッグを覗き込む。
上から覗き込む限り、バッグの中には着替えなどの日用品が中心に入っているようだ。
その中で目に止まった――
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287 :僕はね、名無しさんなんだ:2008/10/31(金) 05:22:29
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288 :僕はね、名無しさんなんだ:2008/10/31(金) 14:36:54
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289 :僕はね、名無しさんなんだ:2008/10/31(金) 16:49:27
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ルヴィアって電子機器扱えるんでしょうかねえ?
ねえ?
290 :僕はね、名無しさんなんだ:2008/10/31(金) 20:01:07
:白い、ディスクケースを手に取る
持ち主がどこぞのマンション管理人と同じタイプだとすれば、コレかな?
しかし、マタドールは意外とあっさりやられたなー。ガン=カタの力か。
291 :僕はね、名無しさんなんだ:2008/10/31(金) 21:54:34
:白い、ディスクケースを手に取る
296 :僕はね、名無しさんなんだ:2008/11/01(土) 00:11:29
:白い、ディスクケースを手に取る
ロ.イリヤ
シリアスもシリアス、ドシリアスだったからな、ギャグも混入してるが(むしろ、シリアスさがギャグの域な不幸魔術師とか)
298 :僕はね、名無しさんなんだ:2008/11/01(土) 03:56:19
:白い、ディスクケースを手に取る
ロ.イリヤ
もしハサももうちょいか
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最終更新:2008年11月01日 15:13