256 :遠坂桜 ◆0ABGok2Fgo:2008/10/25(土) 12:51:46


 バーサーカーに理性はない。
 それでも眼前の敵の強さはわかる。
 白い鎧に身を包んだ盾の英霊、ガード。
 既に剣戟は数十合を超えた。
 圧倒的な膂力を誇るバーサーカーを相手に、未だ打ち負けない。
 セイバー、ランサーに続き現れた強敵。
 バーサーカーは咆哮を響かせ、斧の如き剣を振るった。
 理性が無くとも、本能は消えない。難敵を前にして昂ぶらない筈もない。
 だが、一つだけ奇妙な違和感があった。
 セイバーの予知じみた感覚、爆薬さながらの破壊力。
 ランサーの弾けるような速さ、獣の如き戦闘本能。
 それに比肩する天賦の才を、ガードには感じない。
 ガードの能力は高いが、特別な領域には無い。
 無論のこと、魔術や剣技、戦術を恃みに、敵を破る英雄も居る。
 しかしガードはそういった英雄なのか。
 振るう剣には無駄がない。判断や予測にも間違いはない。
 だが優秀なだけであって、絶対的なものではない。
 苦難と試練によって磨き抜かれた魂の重さ。
 英雄にあるべきそれが見えてこない。
 バーサーカーは剣を叩きつけた。
 戦いとは命の奪い合いだ。
 お互いの命を天秤に乗せる。一振りの刃に生を託す。それが戦いというものだ。
 英雄という生き物は壊れている。
 技の競い合いに心を弾ませる。命が危機に瀕することで奮い立つ。
 何故なら、自分を賭けた生を、そこに見るからだ。
 しかしガードは淡々とバーサーカーの攻撃を捌くのみ。
 その技術と集中力の持続は称賛に値する。
 だが戦場にあるべき、肌がひりつく風も、腹の底から湧きあがる情熱もない。
 背後で魔力が巻き起こった。イリヤが魔術を使っている。
 危機のシグナルはない。第六感に告げるものもない。守りに戻る理由がなかった。
 イリヤがガードのマスターに勝つ。ガードとの勝負も終わる、それだけのことだ。
 不意に、ガードが動いた。
 横に後ろに退くだけだった足が、バーサーカーへと踏み出される。
 迎え撃つ。
 有り得ない事態。膂力で勝るバーサーカーの腕が弾き飛ばされた。
 次ぐ振り下ろし。ガードの振り上げた剣に、再び打ち負ける。
 打ち負けたことは異状だが、問題は無い。
 剣の速さはバーサーカーが遥かに勝る。
 なら、一つ二つ打ち負けたところで戦局はすぐにバーサーカーの掌中に帰す。
 しかし剣撃の悉くが、垂れ布を舞わせるガードの剣の前に敗北を喫し続けた。
 理性と技を失った剣の軌道が読まれていた。剣の起こりに先回りされている。
 打ち負け、次の剣を読まれ、またも打ち負ける。
 熱。
 ガードから、感じた。立ち合いに熱が満ちている。焼けるような迫力。
 主の危機に至って、牙を見せたのか。
 貪欲に打ち合いを続けた。
 打ち負ける理由を探す理性はない。そもそも探す必要もない。
 バーサーカーはようやく姿を現した戦士の強さに心を躍らせていた。
 剣が、宙で叩き落された。巨躯が流れる。ガードの突きが、無防備な喉へ向けられた。
 見事な手並み。理性さえあったなら、称賛の言葉を述べたであろう。
 軽い金属音。
 ガードの驚愕が兜越しに判った。
 確かにガードの剣はバーサーカーの喉を突いた。
 しかし突きを受けてなお、バーサーカーは無傷だった。
 如何に優秀であっても、それだけではバーサーカーの宝具を突破できない。
 ガードは呆然と、動きを止めた。
 それは一瞬だけのことだったろう。
 悔やむべきは、理性を失っていたことだ。
 バーサーカーの剣が、やっとのことで見出した強敵を、呆気なく叩き潰していた。


海:敗走。【視点:遠坂桜
回:油断。


投票結果


海:1
回:5

連載時コメント

+ ...
257 :僕はね、名無しさんなんだ:2008/10/25(土) 13:19:40
回:油断。

桜の方も気になるけどこっちで


258 :僕はね、名無しさんなんだ:2008/10/25(土) 14:55:03
回:油断。

悩む所だが。


259 :僕はね、名無しさんなんだ:2008/10/25(土) 16:48:48
回:油断。


260 :僕はね、名無しさんなんだ:2008/10/25(土) 17:14:49
海:敗走。【視点:遠坂桜】


261 :僕はね、名無しさんなんだ:2008/10/25(土) 18:12:20
回:油断。

ガードの正体ってなんだろ?


262 :僕はね、名無しさんなんだ:2008/10/25(土) 19:19:18
回:油断。



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最終更新:2008年10月28日 08:53