301 :遠坂桜 ◆0ABGok2Fgo:2008/11/01(土) 13:58:34


 カチン、とくるものがあった。
 ガードの言葉に間違いはない。状況も、桜のことも、よく把握している。
 命を奪い合う覚悟があろうと無かろうと、結局、桜はイリヤを見捨てられない。
 事実だ。
 冷笑すらなく、ガードは真摯な瞳で淡々とそれを告げる。
 それが、癪に障った。
「マスター」
 ガードの視線が、空を舞うキャスターから桜へ移された。
「キャスターを追う前に、一つよろしいですか」
 ガードは僅かな息の乱れを整えながら、言った。
 その落ち着き払った振る舞いが、桜を更に苛立たせた。
 バーサーカーがどれだけ強靭でも、飛び道具無くして、高みを行く燕は殺せない。
 このままなら、キャスターは悠々と目的を遂げる。
「貴女はどうか、身を守ることだけを考えていて下さい。
 危険だと思ったら、単身でも撤退を図って頂きたい」
「……それって」
 つまり、桜は戦力外ということだった。
「空中に届かない以上、キャスターの陣地に引き込まれるのは不可避でしょう。
 加えて、戦局も予想ができない。今回は貴女を庇う自信がないのです」
「……庇、う?」
 桜は衝撃を感じた。頭の中で血管が切れたような気がした。
 それに気付かず、ガードは続けた。
「はい。主の失態をも覆し、勝利してこそ騎士であるのだ、と思います。
 しかし今度ばかりは、そう在ろうとする余裕も無いでしょう」
 桜に詰め寄るでもなく、ガードは単に事実を口にしていた。
 それが止めだった。
 桜の中で、糸がぶつんと切れた。
 桜は俯き、コートのポケットに手を突っ込む。
 手元に残る全ての宝石を開放した。
 同時に『影』の起動。
 港の建物から頭一つがはみ出すほどに、『影』が膨れ上がる。
 ガードが身構えた。
 その顔は不審と怯えの色を湛えている。
「マスター……?」
 くくく、と含み笑いを響かせ、桜は顔を上げた。
 怯える乙女のように、ガードが身じろぐ。
「キャスターに届く方法を考えました」
 桜の言葉を聞き、ガードはキャスターの居る空にちろりと視線を向ける。
「……キャスターに?
 確かに巨大ですが、あの高度に届くほどとは」
 そう。届かないだろう。
 『影』の腕はもとより、指を撃ち出しても難しい。
 だが、それ以外の何かなら。
「大丈夫、届きますよ」
 警戒の薄れた一瞬、『影』の手がガードを捕らえていた。
 ガードが目を見開き、桜を見る。
 桜は笑った。
「空中での姿勢制御は任せます。二度目だから、慣れてますよね?」
「マスター、待って下さい」
 桜は空を行くキャスターを見た。
 その方向、高さ、距離を頭に焼き付ける。
「マスター、二度目とはどういう意味ですか!?」
「……行きます」
 決意を込めて、桜は言った。
 ガードの抗議も、もはや耳に入らない。
 『影』が桜の意に従って、腕を振りかぶる。
 胸に過ぎるは、ガードの思わせぶりな言葉、イリヤの冷たい瞳、そして空腹の苛立ち。
 その全てを乗せ、意識は、八つ当たりは、キャスターへ。
「――フィィィィィイッシュ!」
 地の底から響き渡る叫び。
 さながらギリシャ英雄の遠投。
 糸で釣り上げられたかのように、ガードが宙を舞った。
 流れ星めいた白雲が、一直線にキャスターへ迫る。
 しかし。
 キャスターは難なく、ひょいと、それを避けた。
 簡単な話である。
 自由に空を舞う燕に、子供の投げた石が当たるわけがなかったのだ。
「あっ」
 白い影が落ちていく。
 このまま終われば、とんでもない失態である。
 キャスターの思いのままになってしまう。
 そして、イリヤを救えない。
 桜は焦った。


矢:いいこと考えた。
失:とにかく追う。


投票結果


矢:5
失:0


連載時コメント

+ ...
302 :僕はね、名無しさんなんだ:2008/11/01(土) 14:09:36
矢:いいこと考えた。

負うのは「失」らしいので。


303 :僕はね、名無しさんなんだ:2008/11/01(土) 14:17:16
矢:いいこと考えた。


304 :僕はね、名無しさんなんだ:2008/11/01(土) 14:19:38
矢:いいこと考えた。

絶対にガードにとっては「いいこと」ではないよなw
しかし、港の建築物から頭1つ分はみだすって
10m以上の影か……才能はあるんだよなこの桜、使い方が根本的に間違ってる気がするがw


305 :僕はね、名無しさんなんだ:2008/11/01(土) 14:45:44
矢:いいこと考えた
相変わらずw色々とスゴイな、この桜はw


306 :僕はね、名無しさんなんだ:2008/11/01(土) 14:54:22
矢:いいこと考えた。


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最終更新:2008年11月01日 15:20