アットウィキロゴ
 

508 :黒桐幹也の結婚 ◆mGFGwAwBPU:2008/08/11(月) 01:05:24


 さて、お昼である。
 よく「一日三食しっかり食べ」というが、お昼御飯が本当に必要なのかどうかは、悩む所
だったりする。というのも、歴史的にみても人間が一日三食食べるようになるのは、かなり
最近になってからであり、加えて資金的な余裕が出来てからだからだ。
 徳川吉宗も「一日三食は贅沢。二食で十分」と言って、二食を奨励していたりする
(本人も二食を率先して実施した)。

「とは言え、朝御飯を食べるとお昼抜きは辛いんだよなぁ」

 朝御飯を食べると胃が刺激されるのか、お昼頃に妙にお腹が空く事がある。飲み物だけなら、
それほど空かないんだけど。
 幸い、懐にはやや余裕がある。コンビニ弁当は防腐剤の匂いがきついので苦手だが、商店街
などの店先で売っているお弁当は防腐剤の少ない物が多い。お店に入って食事するだけの時間は
無いが、軽く買って帰るだけの時間はある。選ぶのに時間をかけているとあっという間に食べる
時間が無くなってしまうが。

「よし」

 悩む暇があれば、行動した方が良い。そう思った僕は商店街に向かう事にした。柳洞寺の
お水はそのまま売り物になりそうなくらい美味しいので(適度に冷たいというのもあると
思うけど)、御飯系統のものを買ってくれば良いだろう。サンドイッチなどのパン類だと、
どうしてもコーヒーや紅茶が欲しくなるけど。


 というわけで、長い階段を下りてやってきた商店街は、適度な賑やかさで繁盛しているよう
だった。
 しかし、何でこうブティックが多いんだろう。3~4軒に1軒は衣類を扱う店があり、それが
共倒れしない範囲で競合しているというのは実に不思議だ。

「客層が違うのかな?」

 しかし、どこも似たような服を扱っているように見えるし。スーパーと同じで似ているけど、
得意分野が違うんだろうか。

 さて、そうこうしているうちにスーパーに到着。商店街からもう少し先に行けば、全国
チェーンの大手スーパーがあるのだが、こちらは地域密着型で中々品揃えが豊富なのが特徴らしい。
地域密着と言いながら欧州、中欧産のチーズやソーセージ、ヨーグルトを取り揃えているのも
特徴で、その辺りを生かして大手スーパーに対抗しているとか。

「ああ。やっぱりバターはないのか」

 ちょっと覗いてみたが、やはりバターはない。
 かなり手軽にできるスパゲティの一つに粉チーズとバターのスパゲティというのがあって、
熱いスパゲティにバターを絡ませ、その上から粉チーズをかけるだけなのだが、下手なソースを
作るより美味しかったりする。
 最近はバターも高いし、粉チーズも高いのであんまり作ってないんだけど。

「御握りは……ああ、やっぱりこれくらいか。弁当は……うん、ミニ弁当だと御握りよりも
良さそうだな」

 御握り1個80円、ミニ弁当は1個298円、ちなみに弁当は600円である。まあ、ミニ弁当は
その名の通りそぼろの上にささやかな鶏肉の照り焼きがのっただけであり、弁当はトンカツ弁当
なので妥当な値段であるが。

「あれ? あそこにいるのは……メディアさん?」

 ふと、お惣菜コーナーを見てみれば、戦場と化したそこで傍若無人に暴れまわるメディアさん
らしき人の姿があった。いや、あれだけ特徴のある姿なので、まず他人の空似だとは思わないん
だけど。
 ただ、他人を押しのけて次から次へとお惣菜を確保する姿が、違和感が無いのが逆に困るというか。
葛木氏に作る分は全部自分で作るようなイメージがあったんだけどな。


【選択肢1】黒桐君のお昼御飯
A:御握り(×2)
B:ミニ弁当
C:弁当
D:やっぱり止める

【選択肢2】メディアさんに
A:声をかける
B:声をかけない

643 :黒桐幹也の結婚 ◆mGFGwAwBPU:2008/08/14(木) 11:53:04


 とりあえず、ミニ弁当(298円)を手に取り、メディアさんに声をかける。

「こんにちは、メディアさん」
「坊や2号、良い所に! そこの惣菜、右端から順番に確保して!」

 何で坊や2号(そもそも1号は誰?)とか、僕は買い物籠を持っていないんですが、
とか言う暇なく、

「お退き! 宗一郎様のために消えなさい!」
「どくザマス! これは私のお惣菜ザマス!」

 壮絶な戦いを繰り広げるメディアさんから「早くしろ」という目で睨まれた。こういう
時に逆らうと碌なことがないのは経験済みなので、僕は素直に惣菜を一つ一つ手に取る。
 ヒジキの煮物、おからコロッケ、蓮根団子、切干大根、厚揚げと大根の煮物、卯の花……。

「卯の花かぁ」

 卯の花というか、おからにはちょっと苦い思い出がある。具の無いスパゲティに嫌気が
差して豆腐屋からもらったおからを具にしたスパゲティを作った事があるのだが、これが
見事に大失敗。とても食べれたものはない状態にしてしまった(頑張って全部食べたけど)。
 おからが悪いのではなく、調味料も何も無しにただ加えて炒めたのが失敗の原因で、
ぱさぱさした食感がスパゲティに合わなかった上に、何というか表現に困る味になった。
後で式に「お前は馬鹿か」と散々怒られた上、残ったおからで式が見事な炒り卯の花
(所謂、一般的に売っている卯の花)を作ってくれたものだから、あの時は本当に立場が
無かったなぁ。

 なお、お惣菜コーナーには他にもスパゲティ(ナポリタン、ポロネーゼ、バジルなど)
とかもあったのだけれど、いかにもお惣菜というイメージのものだけを選んでおいた。
 よくよく考えたら、おかず=お惣菜 なんだよね。


「ふん! 宗一郎様に対する愛を甘く見たわね」
「ま、負けたザマス……」

 さて、意図的に見ないようにしていた所では、メディアさんが勝利を収め、見事に蓮根の
はさみ揚げとプチトマトの蜂蜜和えを得たようだった。……しかし、あの周りの温かい目に
全然気がついていない辺り、メディアさんも大物だ。

 高らかにガッツポーズをするメディアさんを周りの主婦らは、
『若いって良いわねぇ』
 とか、
『新婚さんって、羨ましいわねぇ』
 と言って見ているんだけど。
 ひょっとして、いつもこんな調子で買い物をしているのだろうか?

「ん? どうしたの坊や?」
「いえ。所で、お惣菜は取りましたけど、これで良いですか?」

 何か聞くだけ野暮というものだし、惚気られても困るので話をお惣菜にもっていく。

「ええ。それじゃ、並んでおいて。私は今のうちに他の物を取ってくるから」

 そう言うと、僕が何かを言うよりも早く、どこかに移動してしまった。
 始めて会った時は「葛木氏と駆け落ちしたどこかのお嬢様」のようなイメージがあったん
だけども、どうやらかなり逞(たくま)しい人のようだ。
 いや、柳洞寺で生活するうちに逞しくなったのかもしれない。この前、メディアさんが
「うちには強烈な小姑がいるの!」と言っていたし。
 ……でも、葛木氏の家族はメディアさん以外居ないと聞いたんだけど。まあ、零観さんや
一成君ら寺の住人みんなが家族と言えば家族なんだろうが。


 さて、何とか無事に買い物を済ませた後、僕はメディアさんと一緒に柳洞寺に帰る事と
なった。まあ、向かう場所が一緒なわけだし、わざわざ別れて柳洞寺に帰るというのは、それは
それで変というものだ。

「そう言えば、坊や。諜報部の再建はどう?」


【選択肢】
A:順調です。6ターンもかからず再建できるでしょう。
B:まだ依頼されてから一週間も経過していないので。悪くは無いですが。


672 :黒桐幹也の結婚 ◆mGFGwAwBPU:2008/08/15(金) 17:54:43


「そう言えば、坊や。諜報部の再建はどう?」
「まだ、依頼されてから一週間も経過していないので何とも。悪くは無いと思っていますが」

 メディアさんの質問に僕は控えめに答えておいた。正直、悪くないどころか、予定よりも
かなり順調だと思っている。
 個人業務のミスター陳からの資金援助はともかく、謎の大型獣の襲来が近いと分かったのは
大きな成果だと思う。また、部員の能力をある程度把握する事ができたため、本格的な工作は
無理でも情報収集くらいならば来週辺りから実施できるはずだ。
 勿論問題も山積みで「判断する」側の人間である部長の解析能力がやや劣る所や、ディベート
をやらせればあんな話題を嬉々として語りだす事は、流石に対応に困る。
 とは言え、嬉々としてあんな話題を語れるという事は、諜報部の男子部員限定ではああいう
馬鹿話が出来るくらいのチームワークがある、という事でもある。……しかし、あそこまで
巨乳派が多いとは思わなかった。まあ、大は小を兼ねるという言葉もあるし、どちらかというと
柳洞寺と友好的な間桐桜を支持する人間が多いという事は、組織としてやりやすい。
 もはや敵国となっている冬木市土地管理者陸上部同盟の代表者たる遠坂凛を支持する人間が
多いとスパイを警戒する必要があるし、そうでなくても手心を加える可能性がある。その
可能性が低いというだけで、やりやすいというものだ。

 なお、霧島さんによると間桐桜は人類の敵だが、遠坂凛は柳洞寺の敵だそうだ。
 巨乳である間桐桜はいつか倒さなくてはいけない敵だが、柳洞一成が同性愛者だという噂を
流した遠坂凛は柳洞寺の敵で、可能な限り早期に弱みを握り「ミス・パーフェクト」と言われる
遠坂凛の化けの皮を剥ぐ事こそ、諜報部の仕事だとか。
 思いっきり私情が混じっていると思うのだが、その時の霧島さんの表情が怖くて何も言え
なかった事を付け加えておく。

「そう、確かに依頼したばかりだったわね。まだ木曜日だというのに、今週は色々あって。
早く土日にならないかしら」
「どこかに行かれるのですか?」
「そういうわけじゃないけど。土日は戦闘が無ければ何も無い日になるから、宗一郎様と過ごす
には最適の日なのよ」
「そうなんですか」

 次のターンは、ほぼ間違いなく大型獣の来襲が予想される。敵の強さは不明だが、古代アルスター
我様激辛麻婆帝国のアルスター戦車隊より容易いのは間違いない所で、「実戦に勝る訓練はない」
という結果になるだろう。
 それでもせっかくの休日が潰れるというのは嫌なものだから、今週のうちに英気を養っておいた
方が良いのは間違いない。丁度、式が遊びに来るわけだし都合が良いと言えば良いかな。

「そうそう。依頼のあったクーラーとシュレッダーだけど、来週の土曜日に届くわ。設置は
任せるわよ」
「はい。では、来週の土曜日は間違いなく柳洞寺に行きます」

 来週と聞いて少しげんなりしたが、顔には出さないように注意した。メディアさんも頑張って
くれたのだとは思うけど、天気予報は当分纏まった雨は期待できないと言っているし、来週も
この暑さが続くと思うと、ちょっとね。


「それにしても、暑いですね」

 ぱたぱたと手で仰ぐ。やっぱり、黒い服は熱を吸収するのか熱い。日焼け防止には良い
らしいが。

「あら、坊や。これから先、もっと暑くなるわよ。まだ始まったばかりなんだから」

 そう言うと、メディアさんは怪しく微笑んだ。背中に冷たいものが流れ、頬から汗が垂れる。
 この時、僕はこの言葉を「夏も始まったばかり」という意味に解釈した。


【選択肢】書いていませんが、お弁当は食べました。午後の予定を決めましょう
A:体力づくりのためのウォーキング
B:境内の探索兼清掃
C:皆で昼寝。ただし、その分残業する

なお、Cの場合、下一桁の合計を3で割り、割り切れれば成功です。




863 :黒桐幹也の結婚 ◆mGFGwAwBPU:2008/08/19(火) 21:19:03


 さて、メディアさんと一緒に寺に戻り(山門で佐々木さんとメディアさんの争いが
あったが割愛)、佐々木さんにもらった水筒に入れた水を飲みながら弁当を食べた後、部屋に
戻った僕だったのだが、やはりあまりの暑さ故に部室での座学は早々に断念せざるをえなかった。

 部屋の開錠は部長に任せてあったので、夏の暑い最中、部屋の前でみんなを待たせるような
事にはならなかったのだけれども、三十分ほどとは言え締め切ってしまった部屋は、やはり
ちょっと耐えれるような温度ではなかった。
 今度、部屋に温度計をつけて測ってみてもいいかもしれない。ひょっとすると、35~6℃に
達しているかもしれないし。

 まあ、そんなわけで、諜報部のみんなとの話し合いの結果、境内の探索兼掃除を行う事になった。
……ウォーキング、いつになったら出来るのかなぁ。いい加減、実施しておきたいんだが。とは言え、
柳洞寺の長い階段を考えるとどうしても一日仕事になる可能性が高い。午後スタートの場合は
現地解散という手もあるが。

 諜報部の部長も霧島さんも無能ではないのだが、教えた事以外やらない傾向があるので、僕が
諜報部に来れない日が非情に不安だ。
 今朝、部長に提出させた報告書によると、昨日は新聞の切り抜きとそのスクラップで終わった
ようだ。即効性のあるものを求めてばかりではいけないが、こうも即効性のないものをやられるのも
流石に困る。スクラップなんてものは、十年単位で考えるものだし。


「それにしても、何で掃除ばかりしているんでしょうね?」

 一緒に参道を掃除していた霧島さんが不思議そうな顔で言う。確かに、一昨日も参道を探索しながら
清掃していた気がする。

「今、柳洞寺は人手が足りないからね。じきに本堂の清掃にも回されるかもしれないよ。一時期、
竜牙兵を使って清掃を行った事があるらしいし」
「……なんか、シュールな光景ですね」

 この時、僕は返答に困って苦笑したのだが、後にもっとシュールな光景が見られるとは思っても
見なかった。
 伝説の幻想種である竜、ミスター・陳と柳洞寺が共同開発したメカ翡翠、同じくミスター・陳と
柳洞寺研究部が科学技術の粋に挑んだグレート・メカ翡翠。そういったものが、柳洞寺の境内で
普通に鎮座する。そんな光景が当たり前になる時が来るなど、この時の僕は夢にも思わなかったのだ。
 ……まあ、同じくらい、あの子があれだけトラブルを起こすとは思わなかったのだけど。


「さて、僕はこのまま参道の掃除を続けるから、霧島さんは山門にまわってくれないかな? あそこの
階段はすごい数だし、夏とは言え枯れ枝や落ち葉、それからセミの抜け殻とかも多いと思うし」

 参道は参道で土だから清掃が大変なのだが、山門は山門で清掃にはかなり気を使う。
 まず、山門は柳洞寺の玄関であり、ここが掃除できているかどうかで柳洞寺の第一印象が決まる。
 柳洞寺は歴史のあるお寺であるため、山門自体の歴史も古い。従って新築のような輝きはない。
しかし、長年に渡って丁寧に掃除されてきていたため、文字の一つ一つが味のある枯れ方をしている。
階段も同じく、日々水を撒き、清掃を繰り返して磨かれた石段であるため、品がある。
 今が準戦時状態とは言え、檀家の人から「柳洞寺がみすぼらしくなった」と言われるのは嫌なもの
なので、可能な限り綺麗にしておきたい。

 ……あれ? 僕は諜報部の外部顧問のはずで、宗教法人としての柳洞寺とは関係ないはずなんだけど。
いつの間にか一員になった気でいた?

「分かりました! じゃ、私は山門に行きますね」

 僕の疑問など知らず、そう言うと霧島さんは山門へ向かった。


 数分後、

「何で貴方がいるんですかーーーー!」

 霧島さんの絶叫が辺りに響いた。


【選択肢】かけつけた山門では
A:佐々木小次郎がほんわかした子とお茶を飲んでいた。
B:いかにも女の子という格好をした子をバシバシとデジカメで撮る眼鏡っ子がいた。


872 :黒桐幹也の結婚 ◆mGFGwAwBPU:2008/08/19(火) 21:49:47


さて、まさかメ鐘がストレート負けするとは思わなかったので追加選択。

【選択肢】
A:霧島さんは佐々木小次郎が見えるのだろうか

下一桁の合計が奇数なら見える、偶数なら見えない。


880 :僕はね、名無しさんなんだ黒桐幹也の結婚 ◆mGFGwAwBPU:2008/08/21(木) 18:26:25


 霧島さんの絶叫が聞こえたため大急ぎで駆けつけると、そこには山門前の階段に腰掛けて
お茶をすする佐々木さんと、その隣にちょこんと座っている女の子がいた。
 女の子はほんわかとした感じだけど、何となく質素というか、はっきり言うと貧乏な感じの
する子で、ただ、だからと言ってすれた感じのない可愛い子であった。
 後で霧島さんに「最近流行りの癒し系だね」というと「あれは昭和です」と、ストレートな
返答がきたが。


「そんな大声だされるとびっくりしてしまいますよ。えっと、何でと言われても……。
あ、霧島さんもお菓子食べます? 大目に作ってきたんです」

 びっくりしたらしいのだが、こちらには全然驚いたように見えない。そして、のほほんと
した感じで霧島さんにクッキーを差し出している。

「三枝さん。貴方ねぇ……」
「まあまあ、霧島嬢。聞いてみればこの三枝嬢、嫌な上司に無理やり命令を受けて途方に
暮れてこの山門に来たのだと言う。ここは一つ、協力してあげるのが筋というものではないか」
「と、遠坂さんは嫌な上司じゃないですよ。ちゃんと一日三食、白い御飯を食べさせて
くれますし。レッドのお兄さんがちょっと泣いているのは見ましたけど」

 レッドのお兄さんって……ああ、アーチャーと呼ばれる人か。何でも遠坂凛に絶対の忠誠を
誓い、それを良いことに奴隷の如く使われている、という噂があったな。どこまで本当なのかは
裏をとっていないので、まだ分からないんだけど。
 あれ? 遠坂という事は……。

「ひょっとして、お嬢さんは冬木土地管理組合陸上部連合の関係者なのかな?」
「はい! そこの幕僚の三枝由紀香です。お兄さんは、お寺の関係者ですか?」
「うん、柳洞寺仏教諜報部の外部顧問で、黒桐幹也と言います。と、これが名刺ね」

 そう言って、僕は三枝さんに名刺を渡す。

「ありがとうございます!」
「……顧問。良いんですか?」
「あ、」

 霧島さんに言われて気がついたが後の祭りである。まあ、いつかばれる事だし、冬木土地
管理組合ならば、元々敵対しているので、警戒させて手を出しにくくする効果があるかも
しれない。とりあえず、そう思う事にする。

「えっと、黒桐さんもクッキーどうですか?」

 頑張って作ってきました、とガッツポーズをする彼女の好意を無視できるはずもなく、結局、
僕も頂く事になった。

「ごめんね。紅茶かコーヒーがあれば良かったんだけど」

 佐々木さんと三枝さんがお茶をしている横で掃除をするわけにもいかず、僕も霧島さんも
石階に座り、少し早いが休憩する事となった。他の皆にも順次休憩するように言っているので
僕たちだけ楽をしているわけではない。
 まあ、三枝さんのクッキーは僕たちで独占しているんだが。
 三枝さんのクッキーは甘さ控えめで、かつサクサクしていて美味しかった。霧島さんも
仏頂面ながら、「何でこんなに美味しく作れるんだろ」と呟いているし。 

「で、その三枝さんが受けた命令って何なのかな?」
「えっと、遠坂さんからは『柳洞寺の様子を余すことなく、写真に撮ってきて』と言われました。
あと、どこかに秘密の抜け穴とか、潜入口があったらそれも調べてきて、と」

 ……それを僕たちに言って良いんだろうか。いや、それ以前に佐々木さんとお茶をしている
段階でどうかと思うのだけれども。

「はは。この寺を守る魔女は嫉妬心と猜疑心で強い女で万全の体制を敷いているからな。そんな
ものがどこかにあっても、即座に発見し塞ぐであろう。
『入り鉄砲に出女』とは関所で警戒する項目だが、ここは女性全般の移動を警戒している。
霧島嬢を始め、諜報部や社務所の女性も皆、見張られているのだ」
「……それ、本当ですか?(汗)」
「無論。しかも、それに飽き足らず、どこかから学園の制服を調達してきて、学園に潜入を
試みた事もある。いやはや、下には恐ろしき魔女の執念。
 その癖、朝の『行ってきます』のチューと夕の『おかえりなさい』のチューは欠かさぬという
デレっぷりだ。痛々しい事この上ない」

『余計なお世話よ!』

 いつぞやと同じく、どこからともなくメディアさんの怒鳴り声が聞こえ、そして今日は山門で
小規模な爆発が起きた。三枝さんさんは『ひやっ』と身をかがめるが、それより早く佐々木さんが
羽織を被せて彼女の頭を守る。

「やれやれ。まあ、この寺の詳しい見取り図付きのパンフレットは社務所でもらえるだろう。
秘密の抜け穴は無いので、正面から堂々と来られると良い。丁寧な対応をすると由紀香嬢に
誓おうではないか」

 そういうと、佐々木さんは三枝さんについた埃を払う。 
 うーん、式もそうだけど、一つ一つの動作が優雅な人っているもんだなぁ。


【選択肢】三枝さんの対応をどうするか
A:せっかくなので柳洞寺を案内する
B:やはりここでお帰り願う
C:どうせなので、客間に上がってもらって詳しい話を聞く


754 :黒桐幹也の結婚 ◆mGFGwAwBPU:2008/08/31(日) 15:36:55


「さて、クッキーご馳走様」

 佐々木さんが三枝さんの埃を丁寧に払い終わったのを確認した上で、僕は三枝さんに
声をかけた。

「あ、はい。どういたしまして」

 三枝さんがにこっと笑う姿はほんわかとしており、この子が冬木土地管理組合の幕僚、
つまりは柳洞寺にとって敵国の人間であるという意識を意識させにくい。それを見越して
この子を送り込んできたのなら、遠坂凛という女性は中々の策士である、と言える。
 ただ、三枝さん本人が偵察という業務を今ひとつ理解していない面があるので、それを
含めて考えるとこれまで集めてきた情報どおり、策士、策におぼれるという傾向が
ありそうだ。

「それでね、三枝さん。非情に申し訳ないんだけど、今日はここで帰ってもらえるかな」

 僕がそう言うと、彼女は「え?」という表情を見せる。きっとこれから境内に入って、
色々と見て回るつもりだったのだろう。
 さっきも「柳洞寺を余すことなく写真に撮ってきて」と遠坂凛に言われたと言っていたし、
現に今ではすっかり珍しくなった使い捨てカメラとは言え、カメラを首からぶら下げている。
 ……カメラか。商店街のカメラ屋を押さえる事で、情報戦に優位に立てるかもしれないな。

「ごめんね。柳洞寺と冬木土地管理組合は今敵対していて、敵対組織の幕僚にこれ以上
情報を与えるわけにはいかないんだ。パンフレットくらいなら、かまわないんだけど」
「あ、そうでしたね。ごめんなさい」

 実のところ、境内を案内するどころか客間に上げてしまって、談笑を通じて遠坂陣営の
情報を入手するという手がないわけではない。また、そのままこちらで軟禁してしまう、
という手もある。
 本来、敵地に来るという事はそれくらいの覚悟が必要なのだ。そして潜入捜査が危険と
隣り合わせであるため、柳洞寺諜報部は不自然でない程度の聞き込み調査を諜報活動メインに
据えているのだ(現在は、それも一時停止しているんだけど)。


 彼女は本当に素直で良い子だと思う。戦場の厳しさも、戦闘の怖さも、そして指導者は時に
悪魔にならなければいけないという事も、理解できていない、できないのではないのかと
さえ思う。
 だからだろう。

「今度来る時は、佐々木さんの友人の一人として、あるいは葛木先生の教え子の三枝由紀香
として来てね」

 僕がそんな余計な一言を付け加えたのは。

「はい!」

 でも、元気一杯の彼女の笑顔が見え、面白そうに笑う佐々木さんの顔も見えたので良しと
しよう。



タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2008年11月13日 19:22