378 :遠坂桜 ◆0ABGok2Fgo:2008/11/16(日) 20:46:44
何も言えないまま、ここまで来てしまっていた。
僕は魔術師じゃない。
そう一言だけ、告げればいい。
簡単なことだ。
魔術師でなくとも、マスターであることに違いはない。
士郎は魔術師としてへっぽこだ。素人とあまり変わりが無い。
知識の面では、むしろ慎二の方が優れている。
士郎に真実を告げても、問題は起きないだろう。
けれど、慎二は言えなかった。
自分が魔術師ではないと認めてしまえば、今の全てが無くなってしまう気がしたのだ。
ライダーが居て、セイバーも居て、そして士郎が居る。
しているのは殺し合いの場を駆け抜けることだ。
そこに楽しみや愉快さなど無い。
慎二は人より優位に立つのは好きだ。
だがライダーはおろか、セイバーや士郎を加えても、圧倒的とはいえないのが実情だ。
それほどにバーサーカーも、そしてランサーたちも強い。
ならば、どうして。
自問した。
マスターとして戦う。
その意義は未だ重く、慎二はときどき思い出して、ほくそ笑んだ。
けれど、それは泡沫のようなものだ。
思い返したときだけ、自分が強くなった気がする。
そして、その思いはすぐに消える。
残されるのはいつも、道化である自分の姿だけだ。
見えなければいいのに、それが見えるようになってしまっている。
やはり、楽しさなど無い。
「……ふん」
慎二は鼻を鳴らした。
あまり考えないようにしよう、と思った。
士郎が振り返った。
「どうした?」
「何でもない。いいから、おまえは早く探せよ。
あんまり目立つ位置にずっと居ると、またアサシンに襲われるじゃないか」
血塗れの工房で、士郎はアサシンに襲われた。
危険も顧みず、セイバーの前に出たらしい。一体、何を考えていたのか。
ともあれ、セイバーが士郎を助けた。
バーサーカーとアサシンを同時に相手にする離れ業をやってのけたのだという。
もっとも、ランサーが割り込まなかったら死んでいただろう、とも聞いていた。
「む。でもアサシンのマスターは、その、死んだんだろ」
「ちょっとは考えろよ。別のマスターが拾ったら、まだ現界してるかもしれないじゃんか。
まったく、衛宮は考えなしで困るね」
偉そうに腰に手を当てて言う慎二に、士郎は眉を上げた。
「なんだよ、その顔は」
「……屋根に上って、マスターを探そうって言ったのは慎二だろ。
でもアサシンのことを考えるなら、止めた方がよかったんじゃないか?」
少し前、白い人型の物体が夜空を飛んだ。
多分、サーヴァントだったのだろう。生身の人間にあんなことは出来ない。
発射地点には、何か影が見えていた。
あれは飛んだのではなく、飛ばしたに違いなかった。
サーヴァントを飛ばしたのは誰か、と考えれば、やはりマスターしか居ない。
それはつまり、サーヴァントが側に居ないマスターだ。
この好機を逃す手はない。
早速、慎二は士郎を言い包めて、隠れていた建物の屋根に向かったのだ。
ちなみに、セイバーとライダーは見回りに出ている。
「判ってるから、早く見つけろって言ってるんだよ。
衛宮の目のよさに期待してるんだからな、僕は」
「……見つけても、まずは話し合いからだぞ」
士郎は言って、眉間に皺を寄せた。
まだそんなことを言っているのか、と慎二は呆れた。
士郎が港に人影を見つけたのは、それからすぐ後のことだった。
見つけたのは、それだけではない。
夜空に舞う影も、士郎は見ていた。
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堅:5
連載時コメント
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379 :僕はね、名無しさんなんだ:2008/11/16(日) 21:14:44
堅:慎重に港へ向かおう。
380 :僕はね、名無しさんなんだ:2008/11/16(日) 21:38:10
堅:慎重に港へ向かおう。
381 :僕はね、名無しさんなんだ:2008/11/16(日) 22:14:47
堅:慎重に港へ向かおう。
桜もマキリ後継者の座を奪った負い目とか感じず、真っ向から義兄とぶつかれば、こんなワカメが出来るのだろうか。
やはり慎二、ヒロインしてますなぁ。
382 :僕はね、名無しさんなんだ:2008/11/16(日) 23:10:42
堅:慎重に港へ向かおう。
いいわぁ、このワカメ。
383 :僕はね、名無しさんなんだ:2008/11/16(日) 23:21:53
堅:慎重に港へ向かおう。
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最終更新:2008年11月19日 22:11