621 :龍ちゃん「ちょっと本気だす」 ◆M14FoGRRQI:2009/02/10(火) 22:21:02


『第一回』

「いーりーやっ、あーそーぼ」

聖杯戦争が終わった今、間桐慎二にとって目下一番厄介なのは遠坂でも妹でもなく
この男だった。衛宮士郎、自分を救ってくれた人物であり唯一の友人でもある。

「いりやー、あそぼーぜー。おれタイころもってきたんだ」
「衛宮、僕はイリヤじゃないっ、いでっ!」

慎二の腕が桜によって捻り上げられ否定の声が中断された。

「痛いじゃないか桜」
「兄さん、兄さんは先輩の事がまだ嫌いなんですか?」
「はっ、どうせ何言ったって衛宮には聞こえないんだしさ、僕にも文句を言う自由くらいあるだろ?」

慎二の言うとおりだった。腕を捻られたときの悲鳴にも桜の注意にも士郎は全くと
言っていいほど無反応だった。まるで二人がそこにいないかのように。

「無いです、兄さんは先輩に助けられたんだから兄さんも先輩を助けてください」

きっぱりと兄の意思を否定する桜。これ以上話しても自分に勝ち目は無いと判断した慎二は
先程とは打って変わってにこやかな声で士郎に呼びかけた。

「はーい、イリヤお姉ちゃんだよー。シロウ、一緒に遊ぼうね」
「いりやー」

先程とは違い慎二の声に反応し舌足らずな喋り方で子供のようにはしゃぐ士郎と
ベッドの中からしぶしぶ返事する慎二。もちろん二人の手にタイころなんて無いし、
例えあってもプレイなんてできない。
しかし士郎は確かに姉と新作のゲームをやっていると認識しており、慎二も
おぼろげながらそうなのだと理解していた。

聖杯戦争という名の大魔術儀式、魔術師として見習い以下のレベルでありながら
この事件を終焉に向かわせた衛宮士郎。しかし、人の身でありながら英霊の技を
使用し、半月に満たぬ短い時間の間に様々な出会いと別れを繰り返した彼の体と心が無事である
保障などどこにも無かった。戦いの後目覚めた彼は聖杯戦争によって帰らぬ人となった義理の姉
しか見えず、彼女の声しか聞こえぬ様になっていた。意識ははっきりしている様に見えるが、
もはや誰の声も彼には届かない。

他人の心臓、それも儀式の鍵となるべく改造されたそれを無理やり移植された少年、間桐慎二。
本来の持ち主だったイリヤですら持て余したものである。魔術師の家に生まれただけの
ただの人間である彼にとって、今生きていることが既に奇跡。
自室のベッドから出れずともこうして士郎の話し相手をしているだけで既に奇跡。
そしてそんな彼が士郎に向けて発する嘘だけが士郎にとっての全てだった。

看病している桜は毎日が不安の連続だった。
士郎が慎二の声にも反応しなくなった時慎二はどうするのだろうか。
慎二が士郎の妄想に付き合えなくなった時士郎の心はどうなるのか。
彼女に出来たのはこの二人のどちらも欠けない様に細心の注意を払い続ける事のみ。
自分にできない事は姉が、自分達の中で唯一のまともな魔術師である姉が何とかしてくれる。

そして、ついにその日が来た。

「桜、まだ二人は無事?」
「はい、姉さん」
「どっちも特殊な事情だから時間が掛かったけれど―、間に合ったわね。
ようやく人形のメドが立ったわ」

【神様ー、この後どうすればいいー?、あとhol作者氏ごめーん、まさか書く気だったなんてー】
ライトエロキボンヌ:もう少しハッピーに。
黒桜発動じゃー:もう少しダークに。
オ・ム・ツ!:とことん鬼畜に。

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最終更新:2009年04月04日 17:04