714 :エルメロイ物語 ◆M14FoGRRQI:2009/03/22(日) 20:21:43 ID:u5R2FT/20
日本のどこかにあるという葛木の里、そこに住んでいる葛木族(絶滅危惧種)。
彼らは野山に入りて竹をとりつつよろずの事に使いながら片手間に暗殺とかも
したりして平和に暮らす普通の人々だったのだが、半年ほど前から
(絶滅危惧種)という表記がシャレにならないかも知れない事になってきた。
「お金がないとお米が買えない、お米が買えないとご飯が炊けない、
ご飯が無いとお腹がすくじゃないか。うん、これはまずいですね」
「若、もっと真剣に話してください」
「僕は真剣だよ、ご飯は大切じゃないですか」
「はあ・・・」
葛木の里の中心部、里の代表が住んでいて会議とかする家、ここで若い男と
壮年の男性が頭を抱えていた。若い方は葛木R一郎、壮年の方は葛木純一郎。
里の若き代表とその補佐役というこのコンビは深刻な金銭不足に悩んでいた。
「そもそも何で僕達の里はどんどん貧乏になっているのだい純ちゃん」
「純ちゃんはやめてください若。我らが貧乏なのは若が代表を継いでから
ここ一年で出した政策がことごとく裏目に出ているからだと思います」
「随分遠慮がない意見だねえ、僕は代表だぞ。もう少し恐れおののきながら
遠まわしに言ってくれないものかな」
「時間が惜しいので」
「そんなに駄目だったかな僕の政策。頑張ったんだけどなあ・・・」
「ええ、・・・色々ありましたよねえ・・・」
遠い目をして就任後の事を思い出す二人。
業界大手を真似して「葛木を始めよう」という挨拶を取り入れたら
特許料を奪いに大手が群で里に押し寄せたり、葛木順一郎と光一郎の
双子の兄弟をコンビで売り出したら思ったより双子暗殺者の競争率が激しくて
全く売れなかったり、その他もろもろ成功した思い出が一つも無かった。
「ヤバイね、この里」
「私達以外はまだ気付いてないですが、このままでは二度目の不渡り手形が
出てしまいますね」
「よし、こうなったら働ける奴らは全員働いてもらおう。純ちゃん、今度の仕事
宗一郎君に任せていいですかな?」
「若、正気ですか!?宗一郎はこの間13歳になったばかりですよ!」
「江戸時代なら十分大人じゃないか。それに彼は年齢以上にしっかりしてるし、
暗殺の練習も僕より上手い事やってるし大丈夫じゃないかな」
「確かに宗一郎は優秀ですが、子供を行かせたら依頼人の信用を失いますよ」
「ああ、大丈夫ですって純ちゃん、今度の仕事は上手くやれば子供だと分からないし」
「一体どの仕事ですか!?」
「まあまあ、とりあえず宗一郎君を連れてきてよ。話はそれからさ」
長になんらかの考えがあるのだと理解した純一郎はしぶしぶ宗一郎を連れてきた。
どうせまた碌な考えじゃないのだろうが、自分にも策が無い以上拒否する事は出来ない。
一体このちゃらんぽらんな代表は今度はどんなアイデアを出してくるのだろうか。
「宗一郎君、少し早いけれど君に初めてのお仕事を頼みたいんだけど」
「はい、内容は」
「場所は横浜の動物園。君はターゲットの飼育員に近づくため変装してもらう。
いいかい、クライアントとかに自分の事を聞かれたら自分は23歳だと答えるんだ。
変装中は君は設定年齢23歳、そのつもりで頑張ってね」
「「無理あるだろアンタ」」
二人の声が綺麗にハモった。
「…なるほど、そんな事があったのか」
「はい」
もちろん、葛木少年はラマンに真実を全て語ってはいない。そもそも本当の
事など言えるわけがない。だから、家族の代わりに行った事のない場所に
仕事に行ったら乗る飛行機を間違えてヨーロッパに来てしまい、女の子に
拾われて帰れなくなってしまったとだけラマンに説明した。一応嘘は混じってない。
(…どうするべきか)
ラマンは考え込む。これまでの経緯から考えてこれ以上時計塔にいても
自分の病気を治す手段を見つける前にもっと酷い目にあう可能性が高い。
ならば、治療を諦め彼と協力してここから逃げ出すのも悪くはない。
だが、彼を信用していいのだろうか。ラマンからみてこのゴリラ少年は
どう見ても普通じゃない。さっきの言葉が真実かは分からなかったが、
とりあえず見た目の年齢と動きが一致しなさすぎる。第一、時計塔に
ずっといるという時点で彼が普通の不幸な少年だという事がとても疑わしい。
とりあえずその辺りから聞いてみる事にした。
「葛木君、君は魔術を知っているのかな?」
「都会人って凄いですよね!」
微妙に会話が噛み合って無かった気もするが魔術を目の前で見ておきながら
なんら理解できていないのだとい言う事は分かった。
最終更新:2009年04月04日 17:42