861 :うたかたのユメ ◆6l0Hq6/z.w:2009/05/06(水) 18:28:27 ID:FIg7bMeA0
昏い世界を歩いた。
真っ赤に燃えているくせにちっとも明るくない煉獄の中。
もう燃えるものなんて残ってもいないくせに燃え続ける炎の中。
火傷しそうなほど熱いソラには黒い太陽が。
業火に蹂躙された地べたには黒こげの何かと、黒こげの誰かが。
そんなモノしか残っていない世界をふらふらと。
ただ死にたくないばかりにふらふらと。
色んな物を裏切って。色んな物に裏切られて。
色んな物を見限って。色んな物に見限られて。
それら全ての己の罪と認識して。
苛まれ。蝕まれ。
一番最後に死に絶えようとしていた。
逃れられない死を前に誰かを呪う気持ちはなかった。
逃れられない死を前に不甲斐ない自分を呪う気持ちもなかった。
生きなければならないという気持ちに嘘はない。
でも自分の順番が回ってきた事に感謝する気持ちの方が強かった。
この世界に神さまはいないかもしれないけれど、自分だけ助かるという奇跡もない事に感謝した。
……最期に死神の姿が見えた。
黒い僧衣を朱く染めた死神は、傍らの従者に何事か相談しているように思えた。
その時は自分を天国に送るか地獄に送るかを決めているのだと思った。
だから地獄に送ってほしいと思った。
こんな自分に天国は似合わない。
火の手に包まれて苦しんでいる多くのモノを見捨てた自分には、終わらない永遠の責苦こそ相応しい。
「さて、その顔を見ればとうに覚悟は決まっているようだが……」
だと言うのに死神は言った。
「残念ながらまだ息のある子供を見捨てるわけにはいかん。恨むなら私が聖職者である事を恨むのだな」
───その瞬間からだった。
俺が
言峰士郎という得体の知れない生き物になっちまったのは────
世界が切り替わる。
目の前には扉に背中を預けて腕組みする凛の姿。
彼女はまるで親の仇を見るかのような目つきで睨んでくる。
立ち昇る魔力と無言の殺気。
はたして自分は彼女をここまで怒らせるような事をしただろうかと自問するが、残念ながら心当たりは思い浮かばない。
「それじゃ本題にはいるけど……その前にいくつか約束してもらえる?」
「……約束ってなんだよ」
「わたしの質問に答える事と嘘は言わない事」
どうにも物騒な話である。
基本的に隠蔽を目的とした物とはいえ、こんな所でおおっぴらに魔術を使うなんて正気とは思ない。
はたして今の彼女は間桐凛という女の子なのか。それとも間桐凛という魔術師なのか。
俺の知るかぎり間桐凛という女の子は、物騒な言動とは裏腹に慎重な性格をしていた。
基本的に他人と関わらない性質も彼女が魔術師だから。
でも本当は他人を思いやる心を持った優しい女の子だった。
そうでなければ家出した慎二を心配して殺気立ちはしない。
それが言峰士郎の知る間桐凛という女の子なのだが────
「本当にお願いね? 慎二は許したけど……今のわたし、あんたを殺して死体を蟲に食わせかねないほど気が立ってるから」
……その評価が根底から崩れそうになる。
彼女の言葉が嘘でないことは、彼女の召喚に応じて集った蟲の気配が証明している。
「───嘘は言わない。訊かれた事には答える。それって当然のコトだろ」
「……そうね。いつも通りのあんたで安心したわ」
彼女の真意を知りたいと俯いた顔を真っ直ぐに見つめて答えると、凛はわずかに息を漏らして続けてきた。
「それじゃ訊くけど────」
俯いた顔が上がって視線が交差した瞬間───俺は自分が間違っていた事に気がついた。
「あの子は……なに?」
追い詰められたようなその表情。
今の彼女は無防備で、この上ないほどに剥き出しだった。
「あんた言ったわよね、自分は教会の孤児だって? 自分には身寄りがないって……あの言葉は嘘だったの?」
むろん嘘ではないし、誤魔化す気には到底なれない。
「分かった、全部話す。聞いてくれるか、凛」
だから言峰士郎の答えは最初から決まっていた。
「ええ……聞いてやろうじゃないの」
ガチガチと凍えるように奥歯を鳴らす凛から視線を逸らさずに続ける。
「もう十年前になるけど……隣町で大きな火事があったのを覚えているか?」
「ええ、一応そんな火事があったってコトぐらいは知ってるけど……」
「俺はな、凛────あの火事の唯一の生き残りなんだ」
「────、え?」
「俺はみんなを見捨てて自分だけ助かろうとした恥知らずな生き残りだった言ったんだ」
凛は無言。
彼女は呆けたように俺を見つめて動かない。
「……まあその話はしないでもいいよな。
とにかくあの火事を生き延びた俺は、孤児院を運営している隣町の教会に引き取られた」
「────────」
「俺を引き取ったのは綺礼っていう神父で、こいつは俺を火事の中から連れ出した犯人だったりもするんだけ……ど……?」
……と。
それまで俺の話を呆けたように聞いていた凛がなんでか難しい顔をした。
「……きれい?」
右手で顔を押える凛の呟きに、ああ、と納得する。
「変わった名前だろ? なんでも父親が美しくあれって名づけたらしいんだけど、ようはソイツが俺を引き取っ……た……?」
きれい、きれいと繰り返す凛の言葉に自信をなくす。
俺はてっきり『きれい』という発音が意味するところが解らないと思って注釈を加えたんだが……。
「あー、はいはい。そういえば居たわねそんなヤツも! なに、まだ生きてたんだ図々しい……!」
……どうもこやつの反応はそういうコトではなかったらしい。
「もしかして知ってるのか綺礼のコト?」
「え、知らないわよあんなヤツ!?」
不審そうに訊ねると途端に慌てだす怪しすぎる凛。
……ゴッド。
慌てふためく凛をからかいたくって仕方ない今の自分をどうにかしてください。
「まあ知らないって言うならいいんだけどな……」
実はあまりよくないのだが、深追いは危険なので話を戻すことにする。
「とにかく俺を引き取った綺礼って神父があの馬鹿……さっきタイガーに連れていかれたのが遠坂っていうんだけど、綺礼はそいつの親父さんの弟子みたいなコトもしてたらしくっ
て……俺と同時期に父親を亡くしたアイツの面倒を見るために、俺も綺礼と一緒に遠坂の家に出入りして、頭の中がかわいそうなお袋さんの面倒も見たりして……」
なんでか話せば話すほど心が荒むのだが、これは俺の気のせい……じゃないんだろうな。
「まったく、誰が時臣さんなんだよ……夜中に俺の部屋に来てかわいがってくださいなんて言われても知るかバカ! 綺礼も笑ってないで助けやがれってんだ!!」
……ふふふ。
消し去りたい過去の汚点がこの若さで百以上あるのはさすがにどうなんだろうな。
「何だかずいぶん面白い人たちみたいね?」
「他人事みたいに言うな! ……いや、おまえにとっては他人事なんだろうけど俺にとっては死活問題なんだ!!
おまえは知らないだろうけどあの家の人間は、放射能だだ漏れの原子炉以上のッ、始末に負えないッ、とびっきりの危険ブツなんだぞッ!?」
なんでか意地悪く笑う凛に怒鳴ったところで冷静になる。
「……わるい。おまえに怒鳴っても仕方なかった」
「いいわよ。気にしてないから」
そして気がついた。
彼女はどうしてこんなにも上機嫌なのか。
「とにかく……その綺礼っていう神父が身寄りのないあんたを引き取って、そいつの養子になったあんたは一緒に出入りした家の子の面倒を見てきたっていうワケ?」
「まあ間違っちゃいないが……」
俺の人生を一行で纏めないでくれと口にしかけた不満を飲み込んで凛を見る。
彼女は変わらず上機嫌だ。
つい先ほどまで俺を殺しかねないほど殺気立っていた間桐凛が、だ。
今の話のどこに彼女を上機嫌にさせる要素があったのかと不思議がる俺の耳に、
「だからあの子にとっては『おにいちゃん』なのね、あん、た────っ!?」
なんというか言峰士郎を心底へこませる台詞と同時に爆音が轟いた。
「…………」
言葉がない。
なんで安物のステンレス製の扉が爆発するのか。
それも凄い勢いで。
寄りかかっていた凛に地面と接吻を強制して屋上の端に落下したのか。
「…………」
そして───なんで濛々と立ち込める煙の中にアイツがいるのか。
「……爆発しました」
「いや、爆発しましたじゃないだろ」
なんでか特大の風呂敷包みを後生大事にかかえた桜に答える。
「わたし電化製品との相性がよくないんです」
「いや、扉は電化製品じゃないから」
不謹慎にも笑いだしたい気分だった。
「言い忘れていましたけどお風呂も壊れました」
「また壊したのかよ」
「壊れたんです」
「壊したんだろ」
本当に手のかかる妹。
間桐凛が気にしていた───そして言峰士郎を悩ませる
遠坂桜はこういう女の子だった。
「……だからお風呂は一緒にはいってほしいってお願いしたのに……」
……と。
笑っていたのが悪かったのか、桜は倒れ伏す慎二と凛に気づかず。
「あのな遠坂……おい人を踏むな! というか踏む前に気がつけ!!」
「え?」
制止は手遅れだった。
桜は慎二の頭を「ぐぎゃっ」と踏みつけて、ついでとばかりに凛の背中を踏みつけたところで。
「────、え? ええっ!?」
なんでかこの鈍感を絵に描いたような粗忽者が慌てだしたのである。
「あ、あの──────あのあのあのあの!!」
踏みつけた足を一歩引いてお尻に話しかける桜は真っ赤になっていたが、これも珍しい。
綺礼曰く「ここぞというところで失敗する遠坂うっかりエフェクト」を受け継いだ事に、もはや諦めの境地に至って久しい『あの』桜が、自らの失敗にここまで狼狽するのは何年振りか。
「あのですね、実はわたしおにいちゃんと一緒に食べようとお弁当を作ってきたんですけど! ちょっと多めに作りすぎちゃったんでもし良かったら一緒にどうですくあっ!!」
……さて。
なんか勝手なコトを言ってる桜は無視するとして。
言葉なく倒れ伏す凛と未だに頭を踏みつけられている慎二を放っておくのは如何なものかと思うのだが……?
●言峰士郎のステータス(現在凛ルート)
*遠坂桜の言峰士郎に対する好感度初期値(+8)より+1
*間桐凛の言峰士郎に対する好感度初期値(+10)より+5
*間桐慎二の言峰士郎に対する好感度初期値(+10)より+3
*美綴綾子の言峰士郎に対する好感度初期値(+6)より+1
*柳洞一成の言峰士郎に対する好感度初期値(+8)
*タイガースタンプ三個獲得
●間桐凛のステータス(現在士郎ルート)
*言峰士郎の間桐凛に対する好感度初期値(+6)+2
*間桐慎二の間桐凛に対する好感度初期値(+12)
*遠坂桜の間桐凛に対する好感度初期値(±18)
*三枝由紀香の間桐凛に対する好感度(+6)より+2
【賢】さすがにこれは俺の手に負えない事態だ。教会に電話して助けを求めよう(士郎視点、この選択肢のみ教会に二人いる士郎の家族のうち一人を以下の選択肢から選べる
が投票の分散による停滞を避けるために、この選択肢が決定された時点で以下の選択肢の中から最も票を集めたものが選ばれるものとする。ただしその時点で2・2・1のように
票が分散した場合は決選投票となる。ちなみに決選投票はこの選択肢が選ばれた時点で同率首位のものに限り、それ以外のものへの投票は無効とするのであしからず了承願いたい)
1.頼りになる助っ人とは、もちろんもきゅもきゅ食べる金髪少女である(剣)
2.いや、にぱっと笑う金髪お子さまである(弓)
3.馬鹿を言うな。俺の家族は忠義の騎士に決まっているだろ(槍)
4.見た目は少し気になるけどいいヤツだと思うぞ(魔)
5.頼りになると言えば頼りになるのだが、こういう時に呼ぶのはどうなんだろうな……(狂)
6.───適任だ。治療技術を持ったヤツに来てもらう(暗)
7.……やはりアイツを呼ぶのは止めておこうか(裸)
【愚】神の愛は無限だが俺の哀は有限である。危険ブツを回収して退散しよう(士郎視点、間桐さんちの兄妹と危険物の好感度大幅ダウン間違いなし)
最終更新:2009年07月23日 19:35