873 :うたかたのユメ ◆6l0Hq6/z.w:2009/05/07(木) 14:03:05 ID:rnmfRzeM0
……困ったものである。
屋上には見事にひん曲がった扉と、慎二の首。
そしてうつ伏せに倒れたままピクリとも動かない凛。
「えーとですね、お弁当というのはマーボー丼なんですよ! わたし料理苦手なんですけどマーボーだけは得意なんです!!
ホントですよ!? 子供のとき綺礼さんと魃さんに『参った』って言わせたコトもあるんですから、はい、自慢の料理です……!」
そしてとびっきりの地雷が一つ。
「ふふふ、素敵ですよねマーボーって。なにが素敵かって、そんなの細切れにした唐辛子の山とお豆腐を鍋に入れて煮込めば出来上がるからに決まってるじゃないですか。
美味しいですよ本当に。……なぜかお兄ちゃんは一口も食べてくれませんけど、負けません。今日こそ美味しいって言ってもらえるように頑張って作ったんです!
おかげで煮込んでいる最中に居眠りしちゃって遅刻しちゃいましたけど、負けません。
遠坂桜は打たれ強さがウリなんです……というわけで一緒に食べませんくあっ!?」
……本当に困ったのもである。
いやなにがまずいって、この地雷は自走機能はおろか追尾機能まであるところがまずい。
考えてみてほしい。こちらの足元に滑りこんでくる地雷なんてあったらどうにもならないだろう。
「───まあ踏んだヤツの過失にならないのはいいんだが」
巻き添えを食らった間桐家の兄妹をこのままにしておくのはあまりに忍びない。
だがそうなると、とりあえずあの核地雷をなんとかして、人命救助はそれからという事になる。
「まいったな……これは俺一人じゃどうにもならない」
核地雷の無力化は───自慢にもならないが───得意とするところなのだが。
凛の手当と慎二の治療は完全にお手上げだった。
前者は女の子の体に触るわけにはいかないという理由で、後者は治癒の魔術が使えないという理由で。
……いや、言葉を飾っても仕方ない。
言峰士郎は何の魔術も使えない。
俺にあるのは魔術回路と、何の役にも立たない『異能』だけ────
「女手がいる。……それも慎二の治療ができるヤツが」
意を決して携帯電話を操作する。
本音を言えばあまり頼りたくない相手なのだが状況が状況だ。ここは覚悟を決めるしかないだろう。
「もしもし───ああ俺だ。いや、オレオレ詐欺じゃない。士郎だ。悪いが今からアイツを連れて……いや待った、状況が変わりそうだ」
気の滅入る相手との会話を中断して『状況』を見守る。
不機嫌そうに突っ伏していた凛がむくりと起き上ったのである。
「あ、あの──────あのあの、あのですねあの」
「───、……」
早口でまくしたてる桜とは裏腹に凛は無言。
はたして桜の所為で爆発した扉に叩き伏せられた凛の怒りは如何ほどか。
起き上がり、振り向くまでに恐ろしいほどの時間をかけた凛が重い口を開く。
「……悪いけど」
そうして神のように、悪魔のように君臨した間桐凛は。
上気したままごくりと喉を鳴らした遠坂桜を冷然と見下ろして。
「臭い息を吐きかけないでもらえる? 嫌いなのよね、デリカシーのない女の子って」
「────────」
遠坂桜を一瞬で石化させた。
『もしもし? 人の話を聞いているのこのごく潰しは?』
「なんだ……その、おまえは来なくてもよくなった。アイツだけこっちに寄越してくれ。じゃ」
石化した桜と悶絶を続ける慎二には目もくれず、優雅に髪を靡かせてやってきた凛を前に通話を打ち切る。
「……わるかったな。アイツがさっそく迷惑かけちまって」
「気にしてないからいいわよ。……それと士郎?」
「ん、なんだ凛?」
「いい機会だから言うけど。わたし、貴方のこと好きよ」
「っ……人をからかうなって言ったろ、前にも」
「はいはい。まあそういうコトにしといてあげるわ」
桜に負けず劣らず勝手な事を口にした凛は、それじゃまた明日ねと片手を振って退場する。
……ううむ。
凛の真意は不明だが。
なんだってあんなに機嫌がいいんだアイツは?
始業式が終わり、屋上の騒動も終わって下校の時を迎える。
凛の激発は杞憂に終わったが、その後もそれなりに大変だった。
石化が解けた桜は自棄食いを始めるし、慎二は泡を吹いて悶絶したままだし、ひん曲がった扉もそのままだし。
「まったく迷惑な話です。まさかこんなくだらない事で呼び出されるとは……神よ、この魂をお見捨てあれ」
来ないでいいと言ったのにコイツまで来るし。
「ああ、見捨ててくれて結構だよ」
「ええ、私も彼の遺言さえなければ見捨てているところです」
負け惜しみじみた呟きにしっかりと反撃する銀髪の少女。
こいつは可憐。言峰可憐。
名前から一目瞭然だと思うが綺礼の娘だ。
綺礼の話では「妻を亡くした後に放置した娘が最近になって発見されてな、嫌がらせにしかならんが呼び戻す事にした」そうなのだが……。
「本当に迷惑な話です。まさか貴方のようなごく潰しを押し付けるために呼び戻されるとは思いませんでした」
「今さらだな。綺礼はそんなヤツだって最初から分かってた話じゃないか」
「……私は貴方ほど彼に詳しいわけではありませんでした」
可憐は不満そうに続ける。
まあ「余命幾許もないので財産を相続させたい」と言うから仕方なく顔を出したら俺の養育者に指名されていたっていうんだから、愚痴の一つぐらいは許されるだろう。
……というワケで言峰可憐は14歳の若さで言峰士郎の『継母』だったりするのだから世の中侮れない。
「本当に災難と言うしかありません。これでも私は引く手数多の異才だというのに、まさかこんなくだらない事で才能をすり潰す羽目に陥るとは」
「まあいいじゃないですか」
ぶつぶつ続ける可憐の愚痴ににぱっと笑った金髪お子さまが口をはさむ。
こいつは『アーチャー』といって、数年前から俺たちの教会に出入りするようになった子供で───綺礼の話では「現代の魔術師など問題にならない神秘の担い手だ」とかなんとか。
才能が無い事を理由に魔術を教えられず、信仰が無い事を理由に教会と関わることも許されなかった俺にはピンとこない話だが、頼めば大抵の後始末を手伝ってくれるので重宝しているのは確かだ。
「……なにがいいんですかアーチャー?」
「コトミネはあんな人でしたけど、成長した娘の姿を一目見ようと呼び戻すあたり、人並みの情もあったんじゃないですかって話です。……それに」
「それに……?」
「やっぱり兄妹仲良くが一番ですよ」
二人して溜め息をつく。
この金髪お子さまはほんっっっっとうにいい子なのだが、微妙に空気を読めていないところが玉に瑕。
「あれ? なんか失礼なこと言いましたかボク?」
「いや、別に失礼なコトは言ってないが……」
「もう少し空気を読みなさいという話です」
「あやや、これは『口は災いのもと』というヤツかなあ……それとも『藪蛇』というヤツなのかな?」
なんとも単刀直入な可憐の言葉に頭をかかえる子供を横目に、もう一人の家族を待つ。
時刻は午後の四時。
気がつけば夕暮れ時に校門前でたむろする俺たちは桜を待っていた。
「すみませんお待たせしました!」
噂すれば影が差すとはこの事か。
可憐の手当を受けたあと保健室に運ばれてた慎二に付き添っていた桜が戻ってきたのである。
「やあ、心配させてすまなかったね言峰」
……それも首の骨をへし折った本人を連れて、である。
「それと僕の手当をしてくれたのは君なんだって? 良かったらこれからお礼を兼ねて食事なんてどうかな?」
「────迷惑です」
「本当にすみませんでした! わたし昔から注意力が散漫で!!」
「ははは。いいよいいよ、女の子はそれぐらいそそっかしい方がかわいげがあるしね」
辛辣な可憐の返事を聞き流して、間桐慎二は二人の肩を馴れ馴れしく抱き寄せる。
……ううむ。
これはある意味言峰士郎として歓迎すべき事態なのやもしれぬ……。
●言峰士郎のステータス(現在凛ルート)
*遠坂桜の言峰士郎に対する好感度初期値(+8)より+1
*間桐凛の言峰士郎に対する好感度初期値(+10)より+6
*間桐慎二の言峰士郎に対する好感度初期値(+10)より+4
*美綴綾子の言峰士郎に対する好感度初期値(+6)より+1
*柳洞一成の言峰士郎に対する好感度初期値(+8)
*言峰可憐の言峰士郎に対する好感度初期値(±0)
*タイガースタンプ三個獲得
●遠坂桜ステータス
*言峰士郎の遠坂桜に対する好感度初期値(??)より+1
*間桐凛の遠坂桜に対する好感度初期値(??)より+2
*間桐慎二の遠坂桜に対する好感度(+12)より+4
●間桐凛のステータス
*言峰士郎の間桐凛に対する好感度初期値(+6)+2
*遠坂桜の間桐凛に対する好感度初期値(±18)-6
*間桐慎二の間桐凛に対する好感度初期値(+12)
*三枝由紀香の間桐凛に対する好感度(+6)より+2
●間桐慎二のステータス
*言峰士郎の間桐慎二に対する好感度初期値(+6)
*遠坂桜の間桐慎二に対する好感度初期値(±0)
*間桐凛の間桐慎二に対する好感度初期値(+6)
*言峰可憐の間桐慎二に対する好感度初期値(-256)
最終更新:2009年07月23日 19:37