912 :うたかたのユメ ◆6l0Hq6/z.w:2009/05/25(月) 12:10:54 ID:VTsS/jPU0
「私は迷惑だと言っているのですが」
「……あのですね。わたし自分の体を兄以外の男の人にさわられたくないんですけど」
……もう笑うしかないという事態というものが、人生には往々にある。
「はは、言峰のヤツ……こんなに可愛らしい妹が二人もいた事を黙ってるなんて、水臭いにもほどがあるよね?」
言って慎二は可憐の腰と桜の肩を抱き寄せる。
この光景、余人なら『また慎二か』で済ましてしまう光景だろうが、俺の結論は違う。
「へえ、君は可憐……言峰可憐って言うんだ?
まったく言峰も困ったものだね。家の事情を知られたくないのは分からないでもないけど、親友の僕にまで黙ってる事ないじゃないか、ね?」
……彼は勇者だ。
否、勇者なんて表現など生温い。
間桐慎二こそ全ての勇者の頂点に立つ勇者王慎二である。
「ああ、もちろん言峰に含むところがあったなんて思っていないよ?
なにしろコイツは教会の孤児上がりだからね。複雑な事情は僕の方から察してやらないとさ」
だから祈らずにはいられない。
間桐慎二に言峰可憐と
遠坂桜を受容する度量があらん事を。
「───まあ無理なんだろうけどな」
可憐が天使のように悪魔のように邪悪な笑みを浮かべる光景にたまらず溜め息をもらす。
……結果は見えている。
見えているのに止めないあたり、
言峰士郎は間桐慎二に対してのみ薄情な性格なのか。
それともアイツのように『娯楽』を期待しているのか、言峰士郎の心理はこの俺にも判別が付かない。
「……いいんですか?」
「いいんですかって、なにがだよ」
「だからお兄さんの友人を止めなくていいんですかって」
「慎二だからな」
心配そうな顔をするお子さまに即答する。
この博打、所詮は結果如何によっては俺の利益となる他人事である。
ならばノーリスク・ハイリターンの割の良い賭け事だと納得できようものを。
「お兄さんとあの人がどんな関係か知りませんけど、今のうちに止めないと酷い事になると思いません?」
「かかっているのは慎二の妹萌えっていう幻想というか、傷つきやすい純粋な心というか、まあ手遅れになっても困らないものぐらいだからな。はっきり言って俺の知った事じゃない」
「……やっぱり。お兄さんって身内には冷たい人なんですね」
その評価に、なるほど、と感心する。
言峰士郎の関心は、救わなければならないモノに対してしか働かない。
ならばもう十分に救われているモノ───わざわざ救ってやる必要の無いモノに食指が動くはずがない。
「────────」
……だったら、俺はなんで。
救わなければならない存在である凛との時間をあんなにも息苦しいと感じ。
救う必要のないモノである可憐や慎二。
そしてこの手で救ったモノである桜との時間をこんなにも愉しいと感じているのか。
その答えが脳裏を掠めるのに気が付いて思考をカットする。
今のは永遠に沈めておくべきものだ。
俺はこの道を選んだ。
綺礼には信仰が無い事を理由に閉ざされた道だったが。
それでも俺は自己の意思を押し通した。
ならばこの道に迷いなんてあってはならないのだから────
「────、な」
自分の目が信じられないような気持でそれを見る。
気が付けば視界の中心にある正門には一人の少女がいた。
小柄で痩せぎすな肢体を包むのはこの学校の制服。
色素の抜けた金髪の少女は、枯れ果てた聖緑のような瞳を俺に向けて佇む。
『────────』
それは品定めをするような視線だった。
思わず見惚れるほど美しい少女が浮かべるに相応しくない、ひどく冷淡な表情とその視線。
それはまるで独裁者が目の前のモノを生かすべきか、それとも殺すべきかを判別しているような冷酷さで。
「なんで、っ……」
……ワケが分からない。
どうしてあの子はあんな目で俺を見ているのか。
どうして俺はこんな気持ちであの子を見ているのか。
そして、どうして激しく動悸する心臓が不吉な声で囁くのか。
ドクドクと脈打つ音。
毒々と塗りつぶす声。
アレは敵だ。
アレが敵だ。
アレがオレたちの敵だ。
サーヴァントは全て敵だ。
敵は殺せ。
七体の生贄を炉心にくべて燃料とせよ。
人類最強の魂を養分とする事でオレたちは完成する。
まだ足りない。全然足りない。
あと七体。最低でもあと七体は人柱がいる。
手始めはあの娘だ。
十年前に食いそこなった小娘を食らえ。
なんなら■しても構わない。
それがオレたちの望みだろうに、いつまで自分を偽れば気が済むのだ、と────
「───大丈夫ですかお兄さん?」
その声で我に返る。
周囲には変わる事のない世界。
見覚えのある校舎と生徒たちの姿。
それはこの俺の世界が反転していないことの証明。
そうだ、俺は何一つ変わってはいない。
その結論を祈るように繰り返して埋没した自己から帰還する。
「やだなあ、そんなに汗かいちゃって……本当に大丈夫ですか?」
目の前には心配そうに見上げてくるアーチャーがいて。
その先の正門には、眩しいほどに金色の髪と吸い込まれるほどに透き通った碧色の瞳の女の子が、知り合いらしい銀髪の女の子に微笑みかける姿しかなかった。
「……今の、は……」
本当にどうかしていた。
綺礼は俺が矛盾していると言っていたが、たとえ時々でも反転した自己を認識すると否定できなくなる。
「なにかよくないモノが見えたみたいですけど───どうせお兄さんとは関係ない人たちなんですから気にしない方がいいですよ?」
その言葉に考える事無くうなずく。
確かに俺には関係のない話だ。
外国からの移民が多いこの街では特に珍しくもない外人の女の子が二人。
言峰士郎にあの二人と関わる理由は存在しない。
「何を見てるんですか?」
「……いや。別に何も見ちゃいないんだが」
「あれ? あの二人わたしと同じクラスの生徒さんたちですよ?」
だと言うのにそれが世の腐れ縁とでもいうのか、呼んでもいないのに口を出してきた妹分はよく分からない説明を続ける。
「たしか銀色の妹さんが衛宮イリヤさんで、金色のお姉さんが衛宮クマ子さんでしたよね?」
「俺に訊くな。指を差すな。変な物を押し付けるな」
なんとも失礼な妹分の頭を叩いて立ち去る姿を見送る。
桜と同じクラスだという女の子が二人。
だがそれだけは関わる理由にはならない。
実際これまで桜の友人だという他人と関わることはなかった。
だからこの時も彼女たちと関わることはないと思っていたのだが。
「すみませんお兄さん、すみません遠坂のお姉さん」
俺たちと一緒に立ち去る姿を見送ったアーチャーが他人事のように続ける。
「急用を思い出しました。マスターには今日中に帰ると伝えてください」
ただの一度も振り返らずにそう言ったアーチャーが、それじゃ、と駆け足で立ち去る。
それは特に気にかける事でもないのに何故か気にかかる。
「……二人とも綺麗でしたよね?」
「二人ってさっきの二人か?」
そんな悩みは露知らず、俺の背中に抱きついた遠坂桜は不機嫌そうに続ける。
「間桐先輩───言峰先輩が鼻の下を伸ばしていた女の人も綺麗でした」
「で……なにが言いたいんだおまえは?」
「……不潔です」
「なんでさ!?」
なぜか剥れる意味不明な妹分を背中から引き剥がして振り向き脱力する。
見れば「むー」と肩を怒らせる桜と意地悪く笑う可憐の中間には、ダンボールに隠れていじける慎二の姿があった。
「やっぱりこうなったか……」
まさに多事多難。
どうしてコイツらは俺を困らせるのかと呆れる一方で、言峰士郎が他人と関わる理由であるトラブルの発生を歓迎する気持ちもある。
とりあえず何を措いても片付けなければならないのは────
●言峰士郎のステータス(現在凛ルート寄り??ルート)
*遠坂桜の言峰士郎に対する好感度初期値(+8)より+1
*間桐凛の言峰士郎に対する好感度初期値(+10)より+6
*間桐慎二の言峰士郎に対する好感度初期値(+10)より+4
*美綴綾子の言峰士郎に対する好感度初期値(+6)より+1
*柳洞一成の言峰士郎に対する好感度初期値(+8)
*言峰可憐の言峰士郎に対する好感度初期値(±0)
*タイガースタンプ四個獲得
●遠坂桜ステータス
*言峰士郎の遠坂桜に対する好感度初期値(??)より+1
*間桐凛の遠坂桜に対する好感度初期値(??)より+2
*間桐慎二の遠坂桜に対する好感度(+12)より+4
●間桐凛のステータス
*言峰士郎の間桐凛に対する好感度初期値(+6)より+2
*遠坂桜の間桐凛に対する好感度初期値(±18)より-6
*間桐慎二の間桐凛に対する好感度初期値(+12)
*三枝由紀香の間桐凛に対する好感度(+6)より+2
●間桐慎二のステータス
*言峰士郎の間桐慎二に対する友情度初期値(+6)より+4
*遠坂桜の間桐慎二に対する軽蔑度初期値(±0)より+1
*間桐凛の間桐慎二に対する哀れみ度初期値(+6)
*言峰可憐の間桐慎二に対する嗜虐度初期値(-256)より+512
最終更新:2009年07月24日 20:55