229 名前: 言峰士郎 ◆kceYkk4Fu6 [sage] 投稿日: 2006/09/27(水) 19:46:28
「静かな夜に騒ぐヴァカタレはどいつだあっ!」
――Side:nameless corpse――
天を埋め尽くす星。
地を這う人々にとっては幸運なことに、今宵の大気は澄んでいる。
かつて古の時代、世界を旅し、力を振るった英雄達、魔物たち。
その似姿を人が星空に求めたのもむべなるかな。
まさしく、吸い込まれるような星空。
一方、地上でも星が瞬いていた。
そこは境界。異なる場所と場所とを結ぶ地。
冬木の町を二分する、その橋の下で、星が瞬いていた。
音も無く、けれども圧倒的な速度を持って空中を疾駆する其は、
飛来してきた無粋な短刀の群を、一息に叩き落す鎖であった。
振るうは眼帯の女。
夜目には不確かであるけれど、長い髪を振り乱し、地に手足をつけたその姿は、蜘蛛のよう。
文様の描かれた眼帯は、見ようによっては複眼にも思え、例えようもなくおぞましい。
しかしながら、それに見惚れてしまうことを、誰が咎めることができようか。
美しいのだ。
月の灯りに煌く紫糸も、隠されしその相貌も。見ている者を惹き付けずにはいられない。
まさに神代の美女。伝説の魔性。大いなる深遠の狭間にて糸を紡ぐ蜘蛛。
だが、尋常ならざるは、その敵対者。
月下。
髑髏が笑う。
否、それは果たして笑い声と言えるのだろうか。
確かに、鼓膜を震わせるその音は、喉から発せられたものなのだろう。
しかし……しかしだ。聞き手に一切の印象を持たせぬ音を、果たして声と呼ぶことはできるのか。
その音源へと、鎖が打ち込まれる。鎖の一端に結ばれるのは鋭い杭。
人を殺傷する事を目的に作られた、歪ではあれども其は確かに『剣』であった。
が、手ごたえは無し。地を穿つも、肉を貫く感触は皆無。
それもその筈、黒衣の髑髏は――其処にはおらず。
ゆらり、かすかに風に吹かれて鎖が揺れる。
髑髏が笑った。
「――――ッ!」
女は鎖を引こうとする。その速度は音よりも速く、矢よりも鋭い。
だが遅い。なんと欠伸の出る遅さなのだろう。
今聞こえた吐息は、失笑だったのか、さもなくば溜息か。
音を立てず、その気配すらも感じさせず、黒衣が動いた。
宙を駆ける。――否、女の引き寄せた鎖の上を、だ。
その手に握られているのは、鋭き刃。
魔力無し。仕掛無し。威力無し。
求めるのは闇にあっても煌かぬその夜色。
必要なのは確実に急所を貫くその正確性。
それ故に、この短刀《ダーク》と呼ばれている。
無論、知る者は少ない。だが、仮に知られていたとしても問題は無い。
手首の動きだけで打ち込まれるソレは、正確無比。容赦なし。まさに必殺――。
そう、武器の由来や性能を知っていることと、それに対応できるかどうかは別なのだから。
……だからこそ、この女が対応できたことも恐るるには足らず。
蜘蛛はまさしく蜘蛛であった。
鎖という名の糸を持ってして羽虫を引き寄せた女は、即座にその鎖を手放し、身を翻した。
暗殺者めがけて放たれた鎖の端は、悉く夜色の短剣を迎撃し、叩き落す。
上か、それとも左右か。第二射の準備を終えた暗殺者の視界に広がるは、紫色の髪。
――下か。
髑髏目掛けて空間を疾駆する拳。
神代の膂力を持ってしての一撃である。喰らえば、一環の終わり。少なくとも、今宵の戦闘は。
その刹那の瞬間、暗殺者が漏らしたのは諦めか、それとも溜息か。
やれやれ、あの主のことだ。負けて帰れば何を言われるか溜まったものではない。
それは笑みであったと、女は気付けたのか。
手応えが無いことに驚愕したのか、それとも慣れたのか。
眼帯に隠された顔は、何も語らない。ただ、口元に薄く笑みを浮かべたのみ。
やはり魔性である。死人といえど、見惚れるに違いない。
230 名前: 言峰士郎 ◆kceYkk4Fu6 [sage] 投稿日: 2006/09/27(水) 19:47:43
髑髏は、振り抜いた女の拳の上にいた。
彼に言わせれば、さして苦労したわけではない。
下から迫り来る『足場』に、ただ一歩踏み出しただけ。
簡単なことだ。そう言い切れる、この暗殺者。
これまで如何ほどの修練を積み、どれほどの修羅場を潜り抜けたのか。
――無論、死ぬまで。
「驚いたか? いやまあ、私も驚いたのだが。
こうも簡単にいくとは思わなかった」
「ええ、随分と良く跳ねるものだな、と。
動かないでもらえると、拳を当てるのが楽なのですが」
互いに笑い合い、髑髏は女の腕から飛び降りた。
「と、言われても……生憎、女性と踊れる程には洒落者ではないのだ、私は。
思わず脚やら腕やらを踏んでしまったが、許して頂けるかね?」
「それは勿論。此方も、あまり男性相手にダンスを申し込む機会が無かったので」
「おや、意外だな。引く手数多かと思っていたのだが」
益体の無い軽口。
だが悪くない。悪くは、無い。
戦うために研ぎ澄まされてきたのが、この暗殺者だ。
正しく戦場こそが自分の故郷。己の寝床。そして墓地でもある。
鉄の香り。血の臭い。火薬の爆ぜる音。剣戟。何もかもが懐かしい。
なればこそ、饒舌になるのもいたし方あるまい。
そして女にとっても、また同じ。
近頃は――そして昔も――あまりまともな男とは縁の無かったのが彼女だ。
いささか雰囲気には欠けるが、こうして出会えた男と、少々雑談にふけるのも……。
まあ、女の嗜みというものだ。
最も、彼らの主にとってしてみれば、文句の一つでも言いたいらしい。
「あらアサシン。ナチュラルボーンキラーだと思っていたのに、標的とお話しているの?
『暗殺者は心も優しい』なんて廃業してしまえば良いとは思わないのかしら」
「おいライダー! なにやってるんだよ……ッ! そんな奴、とっとと片付けちゃえよっ!」
静と動。対照的な二つの声。
少年と少女。対照的な二つの姿。
「そう言ってくれるな、修道女殿……という次第だ。もう少し歓談といきたかったが、そうもいかないらしい」
「お互い、主には苦労する身分のようですね」
――薄く笑いあい、二人は身構える。
再び、静寂。
その静寂を打ち破ったのは――――……。
「デニーロ! でれっでっでれっでっでーんっ。
あっれーは誰だ 誰だ 誰だ!
あっれーはデニロ デニロマーン デニーロマーン!」
橋の上から響く、場違いな歌声。
すかさず跳躍する蜘蛛と影。
橋の上へと駆け上がり、そして――――……。
「…………――え?」
231 名前: 言峰士郎 ◆kceYkk4Fu6 [sage] 投稿日: 2006/09/27(水) 19:49:37
――side:broken fantasm――
「…………――え?」
そして、俺の目の前に幻想が降りてきた。
――ジャッジメンタイムッ!
「髑髏の暗殺者は超格好良い?」:黒衣の外套が、目の前を覆った。
「暗殺×騎兵って超異端かな?」:……二人の姿に、眼を奪われた。
「彼女はSとMどっちだろう?」:おや、アイツは俺の卵を奪った少女じゃまいか?
「海草を味噌汁にいれようか?」:ワカメだったのか。ああワカメだからな。ワカメじゃあ仕方ないな。
デッドエンド有:チューイせよ
投票結果
最終更新:2006年09月29日 03:58