795 名前: 運命夜行 ◆ujszivMec6 [sage 運命の輪の正位置] 投稿日: 2007/03/18(日) 20:51:35
「……っと、危ねえ危ねえ」
頭を軽く振って思考をクリアにする。
ヘンな考えを起こすな。うっかり殻が破れそうになっちまったじゃねえか。
「とにかく、コイツをどうするかだな」
見つけちまった以上、無視というワケにもいかねえだろうなあ。
聖杯戦争が起こってるのかもしれないのに、やっかいごとに首を突っ込みたくはないんだが。
「でも女だしなー、よく見ると結構美人だしなー、『女の子に優しく』ってのは衛宮家の家訓だしなー」
ふと、この女が弱々しく呼吸してるだけじゃなくて、なんか呻いてるのに気づいた。
「……死にたく……ない……」
……決まりだ。コイツがそう願うのなら、助けるとしよう。
とりあえず、この女を隠し部屋から引っ張り出す。
引っ張り出す時にに意外とでかい胸を触っちまったのは役得、もとい不可抗力である。
近くにあったソファーに寝かせる。
ソファーに運ぶ時にけっこー柔らかい胸を揉んじまったのは役得、もとい不可抗力である。
怪我の具合を見るために上着を脱がせようとする。
脱がせようとする時にそれでいて弾力のある胸を……ってそれはもういいっつーの。
とにかく、それでこの女が左腕を失ってる事に気が付いた。
あと、残った右手と両足が動かないように拘束されてる。
とりあえずその拘束を外して……ハテ、後はどうすればいいんだ?
何しろ、オレには医療知識も碌にないし、治療魔術なんて上等なもんも使えない。
殺すのはオレの得意分野なんだが、治すのはあまりにも専門外だ。
えーと、とりあえず人口呼吸と心臓マッサージ……って呼吸はしてるっつーの。
じゃあ、左腕の血止め……っと、既に血止めは行われているな。
つーか行われてなきゃ、今頃出血多量で既に死んでいたか。
しかし、血止めを行ったのは、この女の左腕を奪った張本人なんだろうか。
だとしたら、えげつない。これはこの女を救うためじゃなく、簡単にこの女がくたばらないようにするための処置だ。
―――まずは目だ―――
―――おい、左目は残しておけよ―――
―――やかましいな。喉を潰しておいた方が―――
―――そうだな。息ができればいいだろう―――
―――手足の腱を切れ、腱だけだぞ、そいつの体は村みんなの物だ、全員に残しておかないと―――
―――舌も切っておけ。死なれてたまるか―――
「……チ」
ヘンな連想しちまった。
まあ、この血止めのおかげでオレが来た時にはまだこの女は生きていたんだ。良しとしよう。
んじゃ、次は気付けだ。
「おーい、もしもーし、生きてっかー? 起きてっかー? 起きねえといろいろイタズラしちゃうぞー?」
ぺちぺちと頬っぺたを叩いてみる。
これで起きなかったら起きるまで本当にいろいろやっちゃうつもりだ。
「ぅ、ん……」
オレの呼びかけに応えて、少しずつ瞼が開いてくる。
「ぅ……、あ…………」
チッ、意外にあっさり目覚めやがったようだ。
796 名前: 運命夜行 ◆ujszivMec6 [sage 運命の輪の正位置] 投稿日: 2007/03/18(日) 20:52:40
「…………貴方……は?」
まあ、当然の疑問だ。目覚めた時に見知らぬ男が目の前にいたら誰だってそー尋ねる。オレだってそー尋ねる。
「衛宮杏里。偶然死にかけたアンタを見つけちまった、ただの通りすがりだよ」
「…………アンリ……?」
女はオレの名前を呟いて、ソファーから身を起こそうとした、が、体に力が入らないらしく、うまくいかない。
「あー、ムリすんな。さっきまで死にかけてたんだから。つーか、意識が戻っただけで、まだ死にかけてんだから」
「……私、生き……てる?」
「おう、生きてる生きてる。五体満足とはいえねえけど。なんか左腕ねえし」
「……左腕……?」
女はオレの言葉を聞いて、自身の左腕の状態を確認しようとし、それが存在しない事にようやく気づいた。
「……そうだ、私の左腕……! 言峰は……!? ランサーは……!?」
「あー、落ち着け。うろたえるのはわかるけど。とりあえず、オレが見つけた時にはアンタだけだった」
つーか、ランサーってことはやっぱこのおねーさんも聖杯戦争の関係者か。あと言峰って誰だ。
「それで、この後はどうしてほしい?
正直これ以上はオレにはどうしようもないんで、救急車を呼ぶってのがおススメだが」
「……すみません。私の鞄がこの部屋にあるはずなので、持ってきてもらえませんか……?」
部屋の隅に隠すようにして置いてあったカバンを発見。
それを持ってソファーまで戻ると、女が指に血をつけて、なにやら自分の体にヘンな記号を刻んでいた。
女が何かをぶつぶつと呟くと、その記号から淡い魔力が出て、女の体を包んでいくのを感じる。
「今の、治療魔術かなんかか? アンタ、やっぱ魔術師だったワケだ」
「……あ、み、見ていたのですか?」
「あー、大丈夫。オレも魔術に関わりはあるから。で、今の何やってたの?」
「……治癒のルーンです。気休めにすぎませんが、少しは楽になりました」
「ふーん、そりゃよかった。……ほれ、カバン」
「ありがとうございます」
女は、ソファーからなんとか立ち上がってカバンを受け取る。
そのまま、フラフラと部屋の外に……っておいおい。
「アンタどこ行くつもりだよ、その怪我で」
「とりあえずこの屋敷を離れ、どこか別の場所で治療に専念したいと思います」
「別の場所ってアテはあるのかよ。病院ってコトならまだわかるけど」
「……病院に行く訳にはいきません。
少々厄介な事に関わっているので、できれば目立つような事は避けたい」
「じゃあ、ドコに行くつもりなんだ。大体その格好じゃ、目立ってドコにも行けねえぞ」
血まみれのスーツを着た片腕の女が町を歩いて、目立つなという方にムリがある。
「そ、それは確かに……」
「……仕方ねえ、オレの家に来い。ここよりはマシなはずだ」
こんな廃墟みてえな洋館じゃ、碌な手当てもできない。
家に帰れば、包帯やら替えの服やら、多少のモノは用意できる。
「……よろしいのですか?」
「こうなりゃ乗りかかった船だ。一旦助けると決めた以上、とことんまでやってやるさ」
中途半端なところで見捨てるのは、最初から助けなかったのと大差ない。
まあ、人助けのためだ。事情を話せば士郎も理解してくれるだろう。
「……助ける? ……そうだ、私はどうかしている。
私は貴方に命を救われたのに、まだそのお礼の言葉すら言っていない」
「今更かよ。まあ、礼を期待して助けたわけじゃねえし。
そもそもオレ、アンタの名前すら知らないんですけど」
「……本当に私はどうかしていたようです。私はバゼット。バゼット・フラガ・マクレミッツと申します。
貴方は……確かアンリ、と言ってましたね」
「そ。衛宮杏里。まあアンタ死にかけてたワケだし、まだ本調子じゃねえんだろ」
「そのようですね。アンリ、今更ですが私を助けていただき、本当にありがとうございます」
「いえいえ、どういたしまして。で、どうすんの? オレん家来る?」
「……そうですね。では、お言葉に甘えさせていただきます」
797 名前: 運命夜行 ◆ujszivMec6 [sage 運命の輪の正位置] 投稿日: 2007/03/18(日) 20:53:40
洋館を出ると、既に夕方になっていた。
まだフラついてるバゼットに肩を貸しながら、衛宮邸に向かう。
幸い、住宅街は人通りも少なく、特に誰かに見つかるような事もなく家に辿り着いた。
バゼットを離れの空いてる部屋まで連れて行き、休ませる。
包帯、お湯、体を拭くためのタオル、着替えなどを用意して部屋まで持っていく。
「他になんか必要なものはあるか?」
「……あの、この着替えなのですが」
「ん? 何か問題でも?」
「Yシャツが一枚だけ、というのは少し……」
「仕方ねえだろ。うちには女物の服がないんで、それで我慢してくれ」
決して裸Yシャツを狙ったワケではない。断じて。……ホントだってば。
「ところで、アンリのフルネームは衛宮アンリでしたね」
「そーだよ。衛宮杏里。それがどうした?」
「貴方は、衛宮切嗣の関係者ですか?」
不意に、親父の名前が、バゼットから出てきた。
「……そうだ。オレは衛宮切嗣の養子だ」
「衛宮切嗣は前回の聖杯戦争の勝者と聞きます。
もしかして、貴方も今回の聖杯戦争の参加者、なのですか?」
……切嗣が前回の聖杯戦争の勝者、というのは語弊がないだろうか。
前回の聖杯戦争はそもそも聖杯そのものが壊されちまったんだ。勝者など存在しなかったはず。
まあ、ある意味聖杯を手に入れることができた、という意味では確かに切嗣が勝者なのかもしれないが。
「いや、オレは今回の聖杯戦争には関わりはない。
つーか、やっぱ聖杯戦争始まってんの? マジで?
たしか、前回は十年前だから、あと五十年は間が空くはずじゃねえの?」
「ええ、本来、聖杯戦争は六十年周期ですが、今回は十年で聖杯戦争の兆しが現れました。
……その様子ですと、確かに貴方は聖杯戦争の参加者ではないようですね」
「……逆に質問。それを聞くってことは、バゼットは聖杯戦争の参加者なのか?」
「ええ、その通りです。……いえ、参加者だった、という方が正しいですね。
今は、サーヴァントも令呪も奪われてしまい、このザマです」
バゼットは自嘲気味に呟いた。
「んー、まあ今はゆっくり休んどけ。
あんまり自棄になるなよ。せっかく助けてやったんだから」
「……そうですね。今は貴方の言うとおり、休ませていただきます」
「…………」
「…………」
「……あの、アンリ」
「ん、何だ? バゼット」
「そろそろ体を拭きたいので、できればしばらくこの部屋を離れていてほしいのですが……」
「ああ、片腕じゃ大変だろ、手伝ってやろうかと思って」
「結構です!」
バゼットに部屋から追い出されてしまった。
親切心で言ったのになぁ……半分くらいは。
※『バゼット救出(杏里)』杏里がバゼットを助けました
それにしても、人助けなんて慣れないことをしちまった。
こういうのは本来、士郎の管轄なのだが……
「……そうだ、士郎だよ」
士郎なら、オレよかこういうことが得意なはずだ。
つーか、どのみちバゼットを家に連れて来たことは士郎にも伝えておかないと。
たしか、弓道場の掃除を頼まれたとか言ってたな。
戦車の正位置:今すぐに弓道場に迎えに行こう
審判の逆位置:遅くなるようなら、迎えに行こう
吊るされた男の逆位置:士郎が帰ってくるまで待とう
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最終更新:2007年03月23日 03:11