暗く狭いのが

(登場人物) 面堂終太郎葛城ミサト伊藤誠



「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」
 真夜中の樹海にて、大きな声が響き渡る。


 面堂終太郎という男がいる。
196*年*月*日に誕生したその男は、強大な財力と政治力、軍事力を持つ面堂財閥の跡取り息子であった。
金持ちのボンボン息子と言えば小デブで甘やかされ切った愚男と我々は邪推しがちであるが、面堂は父からの英才教育から、秀才で運動神経。おまけに容姿端麗で女子からは常にモテモテ状態だ。
まさに究極で完璧人間と評せる人間で、世の男子が欲するものすべてを持つエリートなのだ。
しかし、どんなにきれいに磨いたけん玉のボールにも必ず穴があるのと一緒で、彼にも一つ重大な欠点が存在する。
というのも。

「うっわ~~~~~~~~~~ん!!!!!!!!暗いよ狭いよ怖いよおお~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!!!!!!!」

 面堂、彼は重度の暗所恐怖症であったのだ。
彼がワープされた先は、真っ暗な森の中の遊歩道。
精神がすっかり乱れ切った彼は、日本刀をぶん回し、大泣きしながら草木を踏み歩く。まさにきち*いと言うほかならないであろう。
 こないな男なんですよ皆さん、面堂と言う奴は。
パッと見はセクシースタイルにセクシーフェイス、オバン泣かせのギャル殺しなんて感じだが、内面はビビりかつ冷徹かつ傲慢かつ天狗かつおまけに腹黒もいいとこのどうしようもないやっちゃなのだ。
そうそう、ちっこい昆虫一匹さえ触れぬ臆病さもある奴だ。まあ、情けないったらありゃしないね。
あっ、奴にはもう一つ。面堂と言う男を象徴する欠点があるのだ。

「暗いよ狭いよ怖いよ~~~~~~~~~~!暗いよせま…むっ、今の声……。近くにか弱き女性が…?今すぐ行かねばっ!」


 とんでもないくらいの女好きであるのだ。
この樹海の中、どこからか響き渡るは女の声。それを嗅ぎ付けた面堂は、人が変わったかのように急に平静を取り戻した。
まるで5歳児が一瞬で成人男性になったかのような豹変ぶりである。逆再生コナンくんここにあり、とか言っちゃったりなんかして。
 ともかく面堂は本能がままに、声の源流へとバカバカバカッと走って行った。
顔は真剣な面持ちだが、心の底はスケベ全開で森の中を駆け巡る…。
そんな奴が、声の主・特務機関NERV<ネルフ>の三佐“葛城ミサト”に下心むき出しでアプローチするのはもう間もなくであった。



(不可解。すべてに置いて現状把握が困難だわ…。)

 葛城ミサトは、一人森の中で理解に苦しんでいた。
殺し合い<ファイナル・ウォーズ>という現況に、頭を処理できずにいたのだ。
ミサトはふと、自身の掌を見つめ呟く。

「生きて、る……………?」


 殺し合いに放り込まれるまでの彼女の軌跡はこうだ。

 あの時のミサトは、四人目のパイロットが乗る兵器<エヴァンゲリオン3号機>の実験に立ち会っていた。
アメリカの特務機関NERV<ネルフ>第2支部の爆発事故を経て引き取ることになった、曰く付きの人型決戦兵器──その適応実験が計画通りに進行していた、のだが。
絶対境界線を突破した直後、突如異常が発生。
3号機は狂牛病に感染したかのように暴れ動き、緊急アラートが鳴り響く中、直後に大爆発が引き起こされた。
爆風で身体を吹き飛ばされ壁に叩きつけられるミサト。そこで意識は長い暗闇で途絶えされる。
そして、次に目を覚ました時。それは、あの見知らぬ城の中でバトルロワイヤル宣言をされていた時であった。
 現実味のない現状。
爆発で気を失ってから、城に連れて来られるまでの過程が不明瞭過ぎて考察することを遮断させられる。
これは悪い夢なのではないか──。唯一彼女が推察できたこと仮定はそれのみであった。

(それとも、ここはあの世…………なのかしら)


 ミサトは答えを求める様に、ポケットから携帯機を取り出しNERV<ネルフ>本部へ通信を試みる。
だが、待てども待てども応答には通じない。
電波が遮断されているのか。呆れ果てるようにミサトは目を瞑り、無線を持つ右手を下した。


(……殺し合い…。乗るか否か。冗談じゃないわ)

「私は帰りたい。三佐として、あの機関に。そしてシンジ君の保護者として、あのマンションに。…絶対生きて帰るんだから」


 ミサトは今どこにいて、何のために殺し合いをさせられてるかも、そして、自分が生きてるのか死んでるのかさえ分からない。虚構の渦の中で漂ってる感覚である。
だが、ただ1つ『殺人ゲームなんて乗るべきではない』という事だけはハッキリと理解している。
それは、首輪の脅威では揺るぐことのできない決意と化していた。 
 早速ミサトは周囲を見回すように警戒しつつ、行動を映した。
使徒撲滅作戦の総司令であり、計画指揮のプロフェッショナルである彼女は対主催としてどう動くか。

 彼女はふと、遠く向こうを見上げる。
そこには、途方もなく大きな山があった。山頂は雪が吹き荒れる様子が確認できる。
──どうやら何か考えが浮かんでいるようだ。ミサトはわずかに口角を上げると、山の入り口目指して遊歩道をゆっくりゆっくり足を動かし始めた。


 折しもそのタイミングで、後ろから音が聞こえた。
草木を二足で踏み歩く音に勘づいたミサトは、胸元に忍ばせている自動拳銃を握りつつ、慌てて振り返る。
一方、足音の主は、彼女に気づいてないかの様子で、草を踏む音を徐々に徐々にと近づかせていく。
ミサトの警戒心が高まる中、やがて、闇夜の奥から足音の発生源が姿を現してきた。

 外見の特徴としては、中肉中背で黒髪の、制服を着た男子学生。
ぱっと見普通の彼は、有線イヤホンから流れる音楽をぼんやり聴きながら歩いている様子で、まるでいつもと変わりない通学途中の日常を送る高校生であった。
朧気ながら浮かんできた男子学生の姿に、ミサトは思わず声を漏らす。

「あっ、………シンジ…くん?」

 碇 シンジ──彼女が呼名したシンジも同様、常にイヤホンを付け、どこか退屈気味というか気だるげな男子学生だ。
同じ軒の下で生活を共にするシンジと身体的特徴が一致していた為、ミサトは警戒心を解き声をかけてしまった。
 だが生憎、目の前の男は赤の他人であった。近づくにつれはっきりとされるその姿に、ミサトは安堵感の感情が失われていく。
まあ別人にしろ本人にしろ、NERV<ネルフ>所属隊員として一般人の保護は義務として試行せねばならない。
男子学生に対して、ミサトは言葉の続けざまにリレーション構築を始めた。

「って人違い、ね…。……あら、ごめんなさい。ちょっちぃあなたに雰囲気が似てる知り合いがいて、つい。ところであなた…──

 ちなみにこのぼーっと歩く学生の名は、“伊藤誠”、だ。
生死が掛かっているという現状を全く理解していない、といった軽薄な顔つきで歩く誠の本名が、ミサトの前で明かされることは今後無いのでここで紹介させて戴く。


「“ジョンソン”ッ! あの女に体当たりだっ!」

 突如として誠は声を荒げ、ミサトに向かって睨みとともに指を突き出した。
唐突で不可解な男子学生のその行動にミサトは面を食らわされる。
そのため、声が響いた瞬間草陰から急加速して接近してきた巨大な“そいつ”の対処を、大きく遅れてしまった。

「ギュチィィイーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!!」

「えっ!?! …んきゃあああっ!!!」

 そいつの接近──いや突進でミサトは大いに吹き飛び、草原を転がり回された。
痛い……なんてレベルじゃない、呼吸が出来ない。自動車事故にでもあったかのような衝撃に前進が悲鳴を上げ続ける。
何?!何があったというの…?
ミサトは悶絶しながらも、地面の土や千切れた草が付着した顔をそいつに向ける。

「な…?! 何よ、これ………」

 そいつを目視したミサトの感想は愕然──ならびに絶句であった。
まあそうなるのもおかしくはないだろう。

「ギュチチチィ………ギュチイイィ…………ッ」

 目の前を覆い隠すように立っていた巨体で二足歩行のそいつは、真っ白で脂ぎった甲殻のボディに、関節の多い四本の腕を生やし、背中にある透明な羽を嫌悪感の沸く音でアピールさせていた。
人類共通の敵、節足動物──ゴキブリである。
その超大型ゴキブリが、明らかに敵意むき出しの表情で見下ろしていたのだ。
常日頃からたくさんの使徒、すなわち異形の生命体と対峙していたミサトではあるが、目の前のゴキブリは想像の範疇を超えてしまっているのか。身動きも冷静な思考も取れずにいた。

「今だッ! ジョンソン! 押し潰せ!」

「ギュチィーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」

 そんなミサトに容赦なく繰り出されるは、誠の攻撃命令。
雄たけびを上げたゴキブリ──改めジョンソンは、上空へその姿が小さくなるほど飛び上がると、

「わっ?!!」

「ギュワアアアアアアァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!」

 攻撃対象目掛けて、落下してきた。
ミサトは間一髪で反射的に横へ転がり込み、回避する。直後、爆発音に似た大きな音と共に地面は揺れ動き、砂煙と土の破片が散乱した。
凄まじい衝撃である。ミサトがさっきまでいた場所は、ゴキブリの姿跡まんまのひび割れをしていた。
戦慄。ミサトは体の痛みが引いていくのと同時に立ち上がると、誠に向かって銃を突きつけ、怒りの質疑を投げつける。

「なによあなたッ?! この気色悪い奴はあなたが操ってるの?! どうしてそんな真似するのよッ!」

 今にも発砲されそうな銃口と、単純に大人の女性に怒鳴られたことによる恐怖で、誠は「ひいっ」と顔を青くする。
ジョンソンはそれを察知してか、体を仰け反らせ立ち上がると誠の前へ覆いかぶさった。
涎を垂らし、ギュチチチッと全身を震わせ威嚇をする大型ゴキブリ。
撃たれる心配がなくなったためか、誠はミサトの質疑に対し声を震わせながら答え始めた。

「…だだだ、だってしょうがないじゃないかぁっ! 殺し合いしろって言われてるんだし…、それに願い事だってかなえられるんだぞっ!」

「──俺だってやりたくてやってるわけじゃないんだよ! 逆に俺は被害者だっ! 仕方なかった、ってヤツだよ!」

「──それに俺が直接殺すわけじゃない。やるのはそのジョンソンだ! 俺は関係ないっ!!」


 …誠の答えになっていない自己弁護が、唾と共に饒舌に飛ばされる。
怒りを通り越して呆れる──といった古来の表現は、救いようもないくらい醜悪な人間と対峙したときに用いられるものだ。
だがミサトは呆れるなんてことはなく、怒りという感情全面が満たされていた。
俺は関係ない。俺は被害者だ。仕方ない。──殺人で手を汚すことの責任を完全放棄した腹立たしいセリフの数々に、腹の底から煮詰まらされていく。
誠を最低十発は殴りたい衝動でいっぱいであった。その想いを込めるがようにミサトは銃を引き、目の前のゴキブリの腹部に弾丸を放った。
…が、

「ギュチチチチ……ッ! ギュチイィ…!」

 銃弾はジョンソンを貫くことなく破裂し、火花と共に消えて行く。
まるで金属に向かって撃ったような手ごたえである。ジョンソンの鎧のようなその体は、ダメージ1つ付くことなく依然その堅牢さを誇示していた。

 攻撃面に十分な力もあれば、屈強過ぎるほどの防御力も兼ね備える、『戦車』と形容していいそいつにミサトはただ立ち尽くすだけであった。
こみ上げてくる義憤は、目の前の強力過ぎる護衛が邪魔する故、持て余してしまう。

(私は……っ、こんな、奴に無様に惨殺されて終わるというの…………っ!)

 視界を埋め尽くすジョンソンの大きな体は、絶望の反り立つ壁に見え、ミサトの戦意は喪失されていく。

「…だだから俺に一切悪くないッ!! 行けジョンソン! あの女の生き血を搾り取れ」

 誠はとどめの命令を下した。
ジョンソンはその指示に従い、無抵抗のミサトの両肩をトゲ毛だらけの手で拘束。
そして、ミサトの顔の前で今にも食ってかからないように大口を開けた。突起だらけですり減った何十もの歯がお披露目をする。
 もう間もなく自分はこの気色悪すぎる化け物に捕食されるのだろう、とミサトは思った。大口から放たれる荒い呼吸に、ミサトは顔を顰める。

 今、彼女の脳裏には、かつてエヴァンゲリオン初号機が使徒を生きたまま貪り喰い、血肉を喉に流し込んでいたシーンが流れる。
その時の彼女の心情は恐怖と絶句。また、一方で「圧死、水死…それらに次いで補食死だけはしたくない」という考えも頭の隅でよぎっていたという。
──走馬灯とは妙なとこをピンポイントに思い出させるものだ。
ミサトは歯を食いしばり、己の運命を覚悟した。




ガキィンッ


歯と歯がこすり合わさる音が響いた。
まるでギロチンによる処刑の音のような。





 ────否、歯と『刃』と言うべきか。



「…えっ……?」



 ジョンソンの上あごは、その歯と同じくギザギザの鋸のようなもので力いっぱい抑えつけられていたのである。
ミサトは両腕を掴まれているので、そのような抵抗はできやしない。
となれば、ジョンソンの口を封じたのは、この場にいた伊藤誠か、それとも第三の介入者となるわけだ。
誠は当然そんなことをやる必要性はないし意味もない。現に誠はジョンソンの後ろで間抜けな驚き顔を見せただ立っているだけであった。


 ではその介入者とは誰なのか。
…そろそろ、奴の名前を呼んでもいい頃合いなのではないか。

 ミサトは自分の真横を見る。
そこには、全身を白い制服で纏ったオールバックの男子学生が、ゴキブリの口に刀を伸ばしていた。
そう、ヤツは冒頭でも登場した、財閥の御曹司で頭脳明晰容姿端麗、プレスリーばりのセクシーボイス、言うなればデスタニー、運命生まれつきだよ十五夜お月、

「やれやれだな。こんなうつくしい女性相手にこの仕打ち…、」

 面堂終太郎。その人であったのだ──ッ。

 面堂、ヤツは虫なんてハエ一匹さえも触ることができない男だ。
それゆえ、巨大ゴキブリと対峙した彼は、今や鳥肌のざわめきの大合唱で痺れに似た感覚が全身を襲っているだろう。
だが、しかし。ヤツはとんでもないくらい『女好き』である。
ヤツの脳内の天秤にかけたとき、「虫への恐怖」は「美しい女性の救済」に圧倒的に量り負けているわけだっ。

「到底許すことのできない所業っ! ゴキブリめがっ、今この僕が断罪してやる!!」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 面堂は刀を上へと薙ぎ払い、一旦はジョンソンの口内から刀を脱出させる。
幼いころから剣術の稽古を切磋琢磨していた面堂にとって“刀”という支給品はまさにマッチしていた武器。
それ故に、刃がゴキブリのドロドロとした生臭い唾液で汚されたことはこれ以上ないくらいの侮辱と怒りを充たしていくのである。
刀が月明かりに煌めく中、面堂は両の手で握りなおすと、燃えたぎる闘志のままにゴキブリのアーマーへと飛び込んでいった。

「ギュチイイイィィイーーッ!!!!」

 雄叫びが、開戦の合図として響き渡る。
既にジョンソンの標的は、ミサトではなく目の前の刀を振って振って振り回す面堂へ向けられていた。
 面堂の日ごろの努力と生まれ持っての秀才さから培われた剣術は、剣道の達人をもひれ伏し、フェンシングでは全国大会制覇をもできるだろう域となっているだろう。
現に、彼は刀を振るうたび、風がその周りを巻き起こし、刃は光を放ってジョンソンの弾すら通さぬ鎧に傷を刻んでいく。
目にも止まらぬ速さで繰り出されるは、振り斬る動作と突きの交互。
ジョンソンの鋼のような体は次第に亀裂が見え始め、緑色の体液がひしゃげ飛び出していった。天才的な面堂様、一見にして彼の優勢と言える状況であろう。

 が、しかし、攻勢はここまでであった。

「ギュウゥ…ッギュワァアーーーーーーッ!!!!」

 突如、繰り出されたのはジョンソンが二足歩行であるが故できる『蹴り』。

「なっ! しまった!」

 斬るのに半場夢中になっていた面堂はその唐突な攻撃に身動き取れず、容赦なく腹に一撃を食らう。
コイツ、ムエタイかっ…………──攻撃を食らった面堂の感想はそれであった。凄まじい速さで繰り出された重い打撃に、勢いのまま身体を吹っ飛ばされ、樹木に激突させられる。
あまりの大きいダメージに面堂の口からは不意にさらさらとした唾液が蛇口をひねったかのように零れ落ちる。
意識は混乱しかけ、視界が揺らぐはまるで二日酔いが如しだ。
たった一撃の蹴り。
それだけなのに体中は悲鳴を上げ続け、戦意は喪失の方面へと揺らぎを見せている。


(くうっ……この僕が、こんな不埒な奴相手に敗れる、というのか……………)


 面堂、彼の眼からは自然に涙が零れ落ちる。
勢いのまま、溢れ出ていく目汁。──これは決して、痛みによるものや、しゃしゃり出ておいて返り討ちにされる屈辱感によるものではない。

それは、代々財閥の家として繁栄の刻を紡いでいった面堂家。
今は亡きその面堂の何十代にも渡る先祖たちが、面堂終太郎の心に巣食った『戦意喪失』という弱さを涙という名の清水で洗い流すことで現れた作用なのである。

言わば──、『漢泣き』をしていたのだろう。

 彼が倒れてから数秒経つ。
巨大ゴキブリの怪物は、主人の繰り出された指示通り、残された華憐なミサト目掛けて一歩二歩と足を進めていた。
ミサトにとっては絶体絶命の境地。




彼女は誰が助けねばならぬというのか────。



あの白き大きな壁は誰が破壊せねばならぬのか────。



…応えは決まっている。漢・面堂終太郎、お前がやらねば誰がやる────?




「誓ったんだ…。宣言したんだこの僕は…っ。…許すことのできない、とっ!断罪してやる、とッ!!」


────ぶち破れ、オレがやる。


 面堂家の不思議なパワーが、彼を起き上がらせることを後押ししたように感じた。

 すり減ったノコギリ状の刀を再度握りなおすと、勢いのままに面堂は突撃していく。
スタミナは剣を振るうことで消費してしまったし、肉体的ダメージも限界寸前で妙な眠気が襲い掛かっている状態だ。
だが、それでも面堂終太郎という男は巨大ゴキブリという壁に向かって休むことなく距離を縮めていく。
息は切れ切れだが、草木を踏み走る音が耳によく響き走るのをやめたくならない。風を全身に浴びる感触がどこか心地いい。



 面堂は何故戦うか。何故彼は女性を愛し、守り続けるのか。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!」
「ギュワアーーッ??!!!」


それは、面堂終太郎という男の使命だから。なのかもしれない。


(────────ラムさん、僕に、力をっ───────────。)



ザシュンッ
刹那────────。



 ジョンソンとの距離は気が付いたら零距離であった。

その時にはもうすでに、大きな壁『巨大ゴキブリ』、そして悪しき男子高校生・伊藤誠は断頭され支えを無くし崩れ落ちていたのであった。




「あら………っ、な、なんで私を助けてくれたの……。あなた、名前はなんていうの……?!」


「ふっ、あらもエラも小骨もありませんよ。僕の名は面堂終太郎。野薔薇のように可憐な女性を助けるのは紳士の当然の義務、ですからね。」



【G7/樹海/1日目/深夜】
【面堂終太郎@うる星やつら】
[状態]:健康、多少の疲労、されども達成感で満たされる成。
[装備]:日本刀

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




「…流石は僕の剣術、と言ったところですかね。まあ相手が品性の欠ける存在であったのでしまりが悪いのは不満ですが。ところでお姉さん、あなたのお名前は──

「ジョンソン! 何やってんだ! そんな下らない物食べてないでいいから早く殺せよぉおっ!!」
「ギュチチチ…グチャグチャグチャグチャ…ゴックン…ムシャムシャバリバリ……ギュチチィ……」

「へ?」

 伊藤誠…の飼い犬を躾けるような罵声で面堂は意識を『現実』に引き戻した。
面堂の目の前では、ジョンソンがピンピンと何かを貪り喰いつくし、誠は必死で蹴りつけ、そして隣のミサトは呆れ言葉を失っていた。


 アレレ…?さっきあのゴキブリ殺生したハズなのに…?なぁんで生きてんだ……?何かヘンなのだ…。
というか……、ゴキブリ野郎が今食べてる物、アレって一体なんなんだ……?何かヘンなのだ……。
あのギザギザの突起に、細長い形状にあの薄さ…。
もしかして、アレってぼ、ぼ、僕の……かたな………?


 目をちっちゃな点にした面堂は救いを求めるようにミサトに声をかける。

「お、お姉さん…。失礼ですが、僕の刀は一体全体どういう訳で食われているのか教えてくれないですかね?」

「刀ぁ? は? あれのことを言ってるの? どう見てもただの冷凍したノコギリザメじゃないの」

「あ、あぁ。ま、ノコギリザメですよ。厳密に言えば刀ではあるんですがね。まあそれはさておき。ア、アイツさっき斬り倒したのになんで生きて…」

「斬り倒したぁ? あなた速攻でノコギリザメかじられて戦意喪失の発狂三昧だったじゃない!」


 …んま~~~、つまりはーーー……、というと。
『 面堂は刀を上へと薙ぎ払い、』以下戦闘はすべて、面堂の高すぎる自尊心が生み出した現実逃避に過ぎないってわけだったのさ。
現実はミサトの言う通り、支給武器のノコギリザメを捕食されて面堂は即しおしおのぱー、男の決闘秒で終了という。
…ま、そりゃこんな序盤早々でこんな男にかっこいい場面なんて与えられないよね。
というわけで、ここからは面堂のちっぽけな空想おとぎ話ではなく『現実』の正しい話を描写していこう。


「…次から次へとまあシャークに触る展開だことね。驚き呆れるわ…」
「ははっ、さすがはお姉さん。おジョーズなこと言うじゃないですか。はっはっはは」

「お、お前らはそんなくだらない洒落を言うためにわざわざ来たのかよぉっ?!! ジョンソン、早く始末してくれぇええーー!!」



 二人まとめてその寒いギャグを、よりにもよって一番危険思想の伊藤誠に突っ込みを入れられる。
──なにも突っ込まれたのはそれだけではない。生魚(兼武器)を食い荒らし終えた強力な護衛・ジョンソンも、二人を亡き者にするため、カサカサカサカサっと這いずり近寄ってきた。
能天気に駄洒落をほざいたミサトらであったが目の前のエイリアン相手に戦慄を再び余儀なくされる。

「ギュッワァアーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!!!!!」

 その珍妙な鳴き声と共に、一瞬にして目と鼻の先というくらい距離を詰めてきた巨大ゴキブリ。
さっきまでの妄想での勇姿はどこへやら。面堂は目の前の大節足動物にぎょえ~~っと情けない悲鳴を上げたかと思うと、わなわなと小鹿のように足を震わせ、役に立ちそうな風貌は0であった。
そんな奴の傍ら、ミサトは再び目の前の脅威に向かって銃を突き出し交戦態勢を見せる。
無論、銃弾など相手に全く効かないことは彼女は理解している。形だけの虚勢に近い行動であるが、それでも銃を向けることは辞せなかった。

 ミサトは必死で脳を働かせ、命の選択──最適解を模索した。
銃弾一つ通さない強硬な化け物相手に、武器一つ欠けた状態で対処しなきゃならないという現状。
状況下は絶望的と他過言ではない。
圧倒的不利な今、面堂ら二人に待つのは死の瞬間のみ。
葛城ミサトは少しずつ後ずさりしながら、頬を伝う汗をぬぐった後、できるだけ冷静に思考の結論をまとめ上げた。

(このまま行けば二人揃ってゴキブリの胃袋の中という最悪の未来が待っているわ…。…そうなるくらいなら、少しでも被害を最小限にした方がいいわよね。)

 ほんとは不本意だけども、という言葉で思考を締め、ミサトは覚悟を決めた。

(私を囮にしてでもこの子を逃がす──、これが一番の最適解………っ。やるしかないわ…)

 彼女が属するNERV<ネルフ>と言う名の組織は人類の敵・使徒の調査・研究、そして殲滅を主要任務として活動している。
つまりは、一般人、非戦闘市民の命の保証、保護を最優先としており、ミサトはポリシーの下、この決断を下すのだ。
ミサトは隣のビビりまくっている面堂に声を掛ける。

「…あなた、ちょっといいかしら」

「………ひっひひいっ! ひーひっひひひっひっひひぃーーーーー!! ひーひゃひゃっはひゃっひゃー! ゴ、ゴゴゴ、ゴキブリ野郎がぼ、僕の目の前に~! ひーひゃひゃあっはぁっぁ……!」

 面堂の様子を見たミサトは若干の呆れを感じた。
目は凝り固まり、顔は物凄く引きつりつつもケタケタ笑いあげる面堂はまさに半狂乱。現実なんて半場直視していないような恐れぶりを見せていた。
ミサトは面堂の右肩をゆすり、気を確かに、と言うように言葉を続ける。

「ちょっと、少し冷静になりなさい! …いい?落ち着いて聞いてくれるかし…」

「ひひゃ~~っはっはっはっはーーーーーーーーーーー!あーひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっはっはっはーーーーーーーーーーーーー!」

 彼女の言葉は面堂に届く様子ではなかった。
恐れ多いくらい狂った高笑いをあげる面堂。死の恐怖は彼を完全にぶっ壊したようでミサトはこの男の精神のもろさと軟弱ぶりに頭を抱えるほかなかった。
 ゴキブリの荒い鼻息が顔いっぱいに浴びせられる。ギュチルルル…っと滴り落ちるはゴキブリの敵意が現れた唾液の数々。
もはや時間はあとわずかもなかった。
あと数秒後にはどういうなぶられ方をされるかは見当もつかないが、惨殺されること間違いなしだろう。
一刻も猶予もない。
ミサトは、精神崩壊中の面堂を突き飛ばしてでも逃がそう、と行動に移した。
横へ向けて力を込めた、その時だった。面堂は唐突にミサトへ口を開き始める。

「ひひひっひ……すみません、名乗り遅れていましたね…。ひひっ、僕は面堂終太郎と言うんです、お姉さん」

「わっ、いきなりビックリしたわ…。あぁ、そう面堂くんね。じゃ、自己紹介も聞いたことだし…あっちに行きなさアっ


「僕を突き飛ばして逃がそうなんて考えないでくださいよ。ひっひ…自己犠牲は女性には荷が重すぎますから。おやめになってください…ひひっ」



 まさに唐突だった。
まるでジキルとハイド──人格が入れ替わったかのように冷静さを取り戻した面堂は、見透かしたかのようにミサトの決断をとがめる。
呆気にとられるミサト。心中を掴み取られた感触に襲われ、面堂向けてのタックルを中断させられた。
面堂はまだ言葉を続ける。

「このゴキブリ某、先ほどから僕は奇妙なことにデジャブ既視感を感じていたんですよ…。」

 なおも、言葉は続く。

「素早く無駄に動き回り、どんな物でも意地汚く喰らおうとする。その下劣っぷりに見覚え、がね…」

 なおも、なおも、言葉は紡ぎ続く。
面堂はふと記憶の中の“あいつ”に思いを浮かべたのか、一旦夜空を見上げたのち話した。

「僕のクラスメイト…というか友人にゴキブリ某の似たやつがいるんですよ。奴もまた意地の汚い貧相な奴でした」

 そう、言い終えると面堂は手持ちのデイバッグに勢いよく手を突っ込み、中の物を素早く漁りだした。
しばしきょとんとした顔で見つめるしかなかったミサトではあるが、やっとのことで「面堂くん、あなたそれ絶対友人と思ってないわよね」と一言ツッコミを入れる。

 この殺し合い、参戦者には武器の他にはケチなことにぺらっぺらの参加者名簿という紙切れと少量の食料しか支給された鞄の中には入っていない。
面堂は武器も紛失したし、今は参加者名簿など必要としていない。──ということなら、奴が今取り出そうとしている物は何か。一目瞭然であろう。
 面堂の頭の中にはゴキブリに対する一つの打開策というものが閃いていた。
その打開策は悲しきかな確実性のある策ではない。全くの無意味で、徒労感を抱えたままゴキブリに抹殺されることだってあるだろう。
しかし、今はその唯一、二人一緒に助かる可能性のある策にすがる他ないのである。
『ゴキブリに一切攻撃を与えず助かる』策に。


 面堂、奴がゴキブリ野郎から連想した人物というのはクラスメイトの、諸星あいつ──。
あいつは常日頃から食には意地汚く、道路に落ちている泥まみれのパンでさえ拾い食いするほどの品性のない人間であった。

「貴重な“食料”ではあるがやむを得ない──ッ!持ってけ──、」


 そんなあいつなら。
面堂は思う。俺の移す行動で想定通りの動きをするだろう、と。

「衛生観念のかけらもないゴキブリめがアアッ────────────────────!!!!!!」


 デイバッグから与えられた食料である“レーション”を取り出すと、面堂はゴキブリに見せつけるように、思いっきり遠くへとぶん投げた。
レーションは放物線を描いて飛んでいき、木々の遥か彼方遠くへと姿を消す。

「ギュワアッ?!!!」

 ゴキブリは、投げつけられた食料に反応すると、

「ギュチチィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」

 レーション目掛けて木々の間へと吸い込まれていった。
鳴き声と猛スピードで地面を這う音は、徐々に徐々にと奥地へ消えれゆく。
まるで投じられたフリスビーを咥えに走る犬のごとし。単純っぷりを見事に魅せてくれた。

「…は? は、は?」

 こうもあっさり消えた最強の戦闘マシンに暫し茫然とさせられる伊藤誠、そして葛城ミサトの二人。
特に誠は想定以上の間抜けぶりを見せたパートナー相手に、焦りに似た憤慨を隠し切れない様子で、

「はぁあーーーーーーーーーっ???!!? ジョ、ジョンソンな、なにしてんだああぁーーーっ??!!」

 と、声を荒げながら制止の効かないジョンソン向かって大急ぎで足を走らせた。
ちなみに、今後解説の場はないのでここで紹介しておくが、あの大ゴキブリはいわゆる誠の『支給武器』である。
最初こそは戸惑った誠ではあるものの、本人のずさんで適当な性格から特に気にすることなくその支給武器に馴染んでいった。
のだが、銃は持ち手を選ぶ。とはよく言ったもので、その強力すぎる武器は誠なんかでは扱いきれなかった様子である。

 ジョンソンを連れ戻すべく大急ぎで草木を駆ける誠であったが、その行動はカチャッ、という音で制止させられる。

「動いたら撃つわよ。利口にした方が身の為ね」


 目を見開いて、冷や汗いっぱいに首をそっと後ろへ向ける誠。
わざわざ振り向かずとも察せそうなものではあるが、そこには銃をいつでも発砲できる準備でこちらに向ける大尉──葛城ミサトがいた。
誠には今武器がなく手持ち無沙汰の状態。
抵抗も何も、成す術なくただ立ち尽くすほかならなかった。
束の間訪れた、形勢逆転である。

「オモチャで大人をからかって楽しかったかしら? ゴキ坊や。あなたには説教なんかで済ませれない教育をたっぷり施す必要があるから、その覚悟でいてちょうだい、ね?」

 焦燥が吹き飛んだミサトは、多少笑みを浮かべながらゆっくりと誠へと近づいて行った。
誠は今まさに訪れる未来への恐怖から、喘ぎに似たうめき声を情けなく漏らす。

「よ、よよ、よしてくれよ………! け、警察がこ、これを知ったらぁ…ただじゃ済まないんだぞっ………!」


 一方、面堂は二人に目もくれず、ただ投球完了のフォームを維持し続けていた。
ゴキブリとの遭遇以来、心中に緊張の糸が芽生えていたのだろう。それが解けたとのタイミングで腕を下すと、自身のオールバックの額についた汗を拭いほっとひと息ついた。
 星が輝く夜空を見上げる面堂。
この星空は、殺し合いエリアの果てのどこかにいる、諸星あいつにも繋がっている。
窮地を脱する発想を思いつかせた、ゴキブリ同然のあいつに思いを紡ぐように、面堂は独り言を白い息と共に吐く。

「諸星よ。お前のことだから楽観的に考えてるだろうがな。この殺し合い、どうにもただ事ではないように俺は感じる。笑い事で済まない生死の臨界点に身を置いてることを忘れるな」


 友とも敵対とも言えぬあいつに向けての忠告、を。
同じくデスゲームに巻き込まれたラムちゃんやしのぶら女生徒への思いのついでで面堂は呟いた。





 森の中でパンッ、パンッ、と響く。
夜中の銃は重く鳴った。

一発目。
ミサトの自動拳銃から発射された金色の鉛玉は、目標目掛けて一直線に飛び続け、そして。

「ぎいいっ??!!!!」

 誠の右手──厳密に言えば手の甲を吸い込まれ空洞を開けた。
撃たれた反動で右手は大きく掲げられ、血飛沫が地面の草木を紅色に染めあげる。

二発目。
これも同様、正確に狙われた位置目掛け光の速さで突き進み、誠の膝関節にて、骨を粉々に砕き、突き抜けて行った。

「…んぎゃああぁあああああああっ!!!!!!」

 誠は悲痛な叫びと共に、床に倒れ伏し苦悶の表情で転げまわる。
地面は赤く濡れ果て、誠自身も涙と涎で顔中をめちゃくちゃに湿らせていた。
ミサト、そして面堂は誠を憐れむでも怒るでもなくただ無の表情で見下ろし続けた。
 銃口から上る白い消炎が、空気中で徐々に無色となっていく。
煙の匂いが充満しきる頃合いで、誠は涙ながらに必死で命乞いを始めた。

「や、やめてぐれぇ! 許しでぐれよお!! 俺を殺ざないでくれよぉおおおおお!」

 激痛で歪む膝を負傷していない片方の手で抑えつつ、誠はミサトへ顔を見上げた。
ミサトは無表情を崩さずとも、どこか呆れた表情を含ませ、口を開く。

「殺す? 冗談じゃないわ、しないわよそんなこと。制裁はこれで済んだのだからこれ以上は何もする気はないわね」

「ふざけないでくれよぉおおお!!!!! いだ…っ痛いいいいっ! ………俺を…歩けなくしてざあ……そのまま俺が誰かに殺されたらどう責任どるんだよおぉおお!!!」

「ハッ、それは運によるわね。もしかしたら大丈夫かもしれないし、殺されるかもしれない。あなたが許されるか否かは神次第ってとこね」


 追い詰められ、痛みからジタバタと声を大に荒げる誠に、ミサトは素っ気ない態度で応対していく。
許されるか否かは神次第──と言ったが、この殺し合い下にて置き去りにされる実質芋虫の誠など、到底狩られぬはずがないだろう。
いくら軽薄な誠とはいえ、そのことは理解しているようで、後がなくなった絶望感に顔色を非常に悪くしていた。

 面堂は、ふと、世間話感覚に誠に問いかける。

「しかし解せんな。お前は何故殺し合いなんて乗ったんだ? 強要されてるとはいえ、殺人なんて普通簡単に乗り気になるものではないだろうに」

 面堂は話しながら膝を折り畳み、誠に顔を合わせてそう聞いた。
その問いかけ、誠は何か癪に障ることがあったのだろうか。目を見開き声のボリュームを大にして叫び応える。

「ああああ?! お前ら気づいでないのがよおおっ? 俺たちはもう『死んでる』んだよ!! だがら殺じ合いなんて今更じゃないかあぁあ!!!」

 突拍子でもない応答であった。
厳密には答えになっていない馬鹿な答えに、面堂はやれやれといった様子で首に手を当てる。

「バカを言うな。こうして生きてるじゃないか? …とち狂ったバカと会話すると知能指数を擦切らされそうで……う~む頭が痛い…。もう行きましょう、ミサトさん」

 面堂はミサトに声を掛ける。
だが、ミサトは応じることなくただずっと、

(死んでる、………)

 と頭の中でリフレインし続けた。
誠の言葉で驚きの表情を作ったまま、固まりきっていたのだ。
 確かに自分はあの研究の爆発事故に巻き込まれた。浴びる熱風に、ぶち破れる鼓膜の感触。
そのため、自分はもう死んでいて、今ここが現世ではないというのも納得はできる。
面堂の言う一概にバカな発言とは、ミサトは思えないのであった。

「…って、ちょっとミサトさん! ミサトさん! …困ったな、僕としてはボーっとしないでもらいたいものですよ」

 が、面堂にしつこく体を揺さぶられ、その思考の深堀をやめることにした。

「…あっ、ううん。ごめんね終太郎くん。じゃ、NERV所属として一般人のあなたを保護させていただきます。一緒に、来てくれるわよね?」
「えぇ、勿論。行きましょうか」

 自分がはたして本当に命がないのかはわからない。
ただ、今は『生死を賭けた殺し合い』に参加させられていることは明白。すなわち、今の状態は生か死で言うと『生きている』ことになるだろう。
ミサトは心の底のショックを抱えつつも、今は面堂とこの殺し合いに抗うことを決めた。
二人はもうこの場には用はなしと来た道を戻る形で歩を進んでいく。
──伊藤誠のデイバッグも片手に。

「なああっああ!!! ちょ、ちょっど待でよお?! 置いてかないでくれよぉお!! 絶対に、絶対に許さないからなあ~~~!!!」

 誠の最大の叫びが発せられたが、空しくも二人は徐々に闇の奥へと消えていった。
葛城ミサトと面堂終太郎、例えるなら美空ひばりと東千代之介のような関係の二人組は、対主催の道路をまっすぐ進んでいくのであった。





「ううぅうう~……………っ」

「誰か助けてくれええ~~~~っ! 西園寺ぃい~~!! 桂ぁ~~…、清浦ぁああああ~~~~~!!!!」


 後には伊藤誠の情けない声が響くばかりである。
──自分をあれだけ滅多刺しにした『彼女』の名を、誠はうずくまりながら呼び続けた。
嗚呼、南無阿弥陀仏。


【A3/樹海/1日目/深夜】
【面堂終太郎@うる星やつら】
[状態]:健康
[装備]:ノコギリザメ
[道具]:食料一式(食料紛失、飲料未確認)
[思考]基本:対主催
1:ミサトと行動
2:友引高校の同級生(特に女生徒)が心配
3:暗く狭いのが好きくないよ~~っ!♪

【葛城ミサト@新世紀エヴァンゲリオン】
[状態]:健康
[装備]:自動拳銃@エヴァ
[道具]:食料一式(未確認)
[思考]基本:対主催
1:面堂を保護、ともに同行
2:碇シンジらを見つける
参戦時期は3号機が爆発して意識を取り戻した直後です。(18話:命の選択を)

【伊藤誠@School Days】
[状態]:右足左手被弾
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]基本:ゲームの優勝
1:西園寺ぃ~~!言葉ぁあああ!!
2:面堂とミサトを許さない
3:参戦者は率先して襲う
※参戦時期は死亡後です。

※『ジョンソン@ドロヘドロ』
背丈3mほどの白いゴキブリ。
二足歩行で歩き、リモコンの操縦者に基本忠実に従う。
そのボディは戦車の装甲のように頑丈で、巨体を生かした打撃攻撃が中心パターン。また、どんな物でも捕食する強靭な顎も持つ。
鳴き声は「ギュチィーーーーーーー!!!!」「ギュワーーーーーーーッ!!!」等。
[状態]:健康
[思考]基本:ギュチィー
1:缶詰を追っかける

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009:シャディク・ゼネリの夜遊び-アイドル編 011:まちカドのラブソング
面堂終太郎
葛城ミサト
伊藤誠

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最終更新:2023年10月17日 02:44