まちカドのラブソング

(登場人物) ラムちゃん千代田桃



星空。
“虎ビキニのスペースインベーダー”ラムちゃんは、満月が光る上空を、泳ぐように飛行していた。
この異常な殺人ゲーム下において、彼女の目的は会場のどこかにいる愛しのダーリンと合流すること。
 「ダーリン、どこにいるか見当も付かないっちゃ……」

ダーリン──とは、世紀の大凶男・諸星あたるのこと。
ラムは名簿の確認を済ませている為、あたる他クラスメイトのしのぶや面堂にメガネ、養護教諭のサクラ先生までもが巻き込まれていることを知っていた。
中でもあたるという男は常にうろうろきょろきょろと能天気に動き回る世話の焼ける人間で──そして、ラムの未来の夫である愛しな彼な為、上空から所在を探しているのだ。
ラムは思う。もしもダーリンが殺されたりなんてしたら自分は…、と。
続けざまに、しかも虫みたいに開始早々殺害なんてされてたら…、とも。
おまけに、女殺し屋にナンパしにいって殺されるというマヌケな死に方をしてたら…、とも思う。
そんなあたるの死にざまを目撃したら、色んな意味でラムは納得行かぬだろう。
思い浮かんだ嫌な想像を首を振ってかき消したラムは、エンジンが掛ったように大急ぎで捜索を始めた。

あれから──ファイナル・ウォーズ開戦から数刻ばかり過ぎたが、未だにダーリンの姿を見つけることはできなかった。
どれほど見下ろそうとも、どれほど島の大移動を試みるも、遭遇するのは見知らぬ参戦者のみ。ラムの心中はますます不安でいっぱいになっていく。
ライ麦畑でガサガサと何かが揺れ動く様を見かけた時、ラムは一瞬心が躍ったが、それもぬか喜び。
出てきたのはさえない中年サラリーマンとメットを被った子供で、腹いせに電撃攻撃を食らわそうか悩んだほどであった。
ラムは長い捜索活動で、身も心も徒労感がのしかかっている様子。支給された食品の食べカスをポロポロと落としながらため息をついた。
 「ダーリーーン……、心配で一杯おかわり八杯だっちゃ」
ちなみに今、彼女の手元に武器はない。代わりと言うように、バッグの中に入っていたのは充電器一つだけ。
ラムの電気がなくなったらこれで補充せよ、とでもほざいているのだろうか。
主催者の掌の上で悪趣味に遊び回されてる感覚が襲い、ラムは心底呆れ干していた。

それでも彼女はあたるとの出会いを求め、健気に四方八方飛行を続ける。
次に向かう先は、木が広大に立ち並ぶ大森林の上空。
理由はない。ただ何となく、である。──そこへ向かう理由を強いて上げるとしたら、森を電撃ショックで引火させて大火災を起こし逃げてきたとこを捕まえるため、だとか何とかだ。
辺りは真っ暗な夜空から、緩やかに青き黎明の空へと差し掛かっている。
木を隠すは森の中、とラムは草木に紛れし雑草のようなその男を探して、一生懸命に目を凝らした。




…ちょうど、目の前の大樹に手をつき束の間の休憩をしようとした時だった。
カコーーン、カコーーーーン。
まだ薄暗い森の中で、妙な音が聞こえてきた。
 (木と木をぶつける…音け?)
古き例えならば、火の用心の、拍子木。それの巨大版のような響きのある音が木霊してくる。
現状が現状のため、ラムは用心しながら音のする方へと潜っていった。
カコォーーーーン、カッコオオーーーーーーン、カッコオオオオオーーーーーーンッッ。
音の発生源に近づくにつれ、その正体不明の音の頻度が早まってくる。
 (……もしかして、戦闘の音…)
だとしたらこの打ち合う音は、木刀同士の決闘か。もしくは、既に殺めた相手の頭を打ち砕いている音か──…。
ラムは木々に隠れつつ移動しながら、そう思考した。

身体を、深い森の中へと完全に沈め、地面にちょこんと着地。
途切れ途切れな林道を、数刻ほど闊歩した時、ラムはとうとう音の発生源に辿り着いた。

 「────なっ!」
その娘──のあまりに異様な行動に、ラムの表情がゆがむ。
一本の長くそびえ立つ木を前にして、その存在感を表していたのはラムと歳はほぼ同じくらいの少女であった。
桃色の流れるようなショートカットの髪で、背丈はすこし小柄。整った制服の上に、黄色いパーカーを着用した、一見にして普通の女学生。

この暗い森に身を置かされて、桃色の彼女は何を思ったのだろうか。

カッコオオオオオーーーーーーンッッ

自分の何十倍もの長さのある丸太を、彼女は目の前の木に向かって、素振りをするが如く打ち付けていたのである。
何度も、何度も何度も。
つまらない作業をするように仏頂面で。
樹は既に打ち跡が痛々しく出来ていた。

カッコオオオオオーーーーーーンッッ、カッコオオオオオオオオオーーーーーーーーーーーーーーーーンッッッ、ドゴオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーーーーーーーンンンンッ

ちなみに丸太は電柱の如し全長、ラガーマンの屈強な胸部の如し太さを持つ。

 「な、なななな、なな………~っ!」
ラムは身震いと困惑を抑えきれずにいた。
前頭葉内部はナゼ?で必死に答えを探っている。
ナゼ、あの娘は丸太でわざわざ音を鳴らしているの?
というより、ナゼ、あの娘はあんな丸太を持てるの? ナゼ、あの娘はこれだけ規格外の運動をして汗一つかいていないの? ナゼ、あの娘はあんなに“怪力”………?
ナゼナゼナゼナゼ?ナゼナゼナゼナゼ?
──ラムは、“自分の身近な知人”を引き合いに、ピンク髪の娘に向かって思わずツッコミを入れる他なかった。

 「お前はしのぶ、かぁ~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!」

ラムの盛大な突っ込みが、木の打音に負けず森全体へ響き渡った。
対して桃色娘は、その急な大声に特にたじろぎもせずゆっくりと顔を傾ける。
じっくり、冷静に。ラムのビキニ一つの露出の多い肌を、上半身から下半身まで眺め続ける。まあラムもおかしな恰好ではある為、少女は眉を少しばかり顰めた様子だ。
二人はしばらくただ見つめ合う静寂の空間を作り上げていたが、しばらくして少女はツッコミに応える形で口を開いた。
──少女もまた、“自分の身近な知人”、友人を引き合いに、第一声をラムに向かって突っ込む。

 「いや、キミのその格好はシャミ子、かっ! 魔族かっ……──!」


初見であるものの妙な既視感を、互いに共有した瞬間であったという。





 「ふーん……。精神統一、っちゃね………………?」


木の陰で立ち並ぶ少女2人。
ラムは少女・千代田桃の顔を困惑した表情で凝視していた。
妙な顔をしながらプカプカと浮かぶラム。彼女の言葉に、桃は応える。

 「そう、精神統一。よくお寺にいるお坊さんの見習いは、心の邪を払うため山奥で薪割り100x10セットを行うらしいんだけども、私がやってた事も似た感じかな」

桃曰く、先ほどまでの丸太で馬鹿力フルスイングは心を落ち着かせる為のルーティーンのような行いらしい。
成程、精神統一の為、と。これはラムが呆れを通り越した顔をするのも無理はないだろう。
他にも丸太を軽々持てた理由は魔法の力99%&日ごろの筋トレの成果1%のお陰だとか、体鍛えているからこの程度の運動疲れやしない、だとかラムの頭に浮かんだ疑問を色々無表情で説明してくれた。

 「…心の邪を払う、と言ってももちろん私はバトロワなんてする気なんてないよ。一応、魔法少女やってるし、殺人ゲームに乗るなんて似つかわしくないしね」

 「へ、へぇーーーー…そうっちゃ…」
 (この桃とかいう娘。華奢な見た目の割に、脳みその思考回路はボディビルダーのそれだっちゃっ…! というか魔法って何っ?!)

割と荒唐無稽な存在であるラムがツッコミをあげるとは、それは桃がもうとんでもなく信じられない超人的であることを意味する。
取りあえずは、魔法少女だのとよく分からない言葉はスルーしつつラムは話を聞き続けた。

 「…要するに心の乱れを払いたかったんだよね。殺し合いなんて異常なゲームで乱雑と化した精神の整理を、さ。現に私の心は結構はればれしてるから打ち木をして正解だったと思うよ」

 「いや特大不正解じゃないけ! 音聞きつけて危険人物来る可能性あるし、正解か不正解で言ったら間違って………」

と、ラムはここまで言いかけたところで言葉を止めた。
普通ならいつ殺人鬼に襲われるか分からない疑心暗鬼な現状で、大きな音を響き鳴らすのは自殺するのと一緒である。
だが、千代田桃にそんなこと関係あるだろうか。
なにせ倒木を軽く振り回す筋肉モリモリ威圧感バリバリの怪物なのだから、襲撃され闇討ちに遭うビジョンなど到底想像できない

 (つまり、うちが今目の前で話してるこいつはある意味殺しのスペシャリストってこと、っちゃな……)

 「…ん? 何かな? ラム」

 「何でもないっちゃ、どうぞ気にせず…」

 「あぁ、そう」

桃はドライに会話を終わらせた。
言いたいことを言い終えて満足したのか、桃は電池が切れたおもちゃのように寡黙になりボーっとはるか上空を見上げる。
脳筋な上に割とマイペースな性格のご様子。ラムは彼女への接し方の難しさに頭を悩ませるのであった。
まあ参戦者遭遇ガチャで殺人者や優勝狙いの人間を引き当てるよりは大分マシであるのだが、それでもこのポーカーフェイスの少女と今後行動を共にすると考える時が重くなってしまう。
興味本位で接近したことに後悔するのみであった。
ハア…、とため息を無意識に漏らし、

 (………って、なんでうちはコイツと行動しようと考えてるんっちゃ…! そうだ、早くダーリンを探さなきゃいけないっちゃ!)

そうになった所で、ラムは本来の目的を思い出す。
マッスル桃色少女の丸太ぶん回しインパクトでつい忘却していたが、自分は愛しのダーリンにすぐにでも再会せねばならぬのだ。
風が吹けば吹き飛んでしまいそうなか弱きダーリン諸星あたる。彼を守れるのは、暫定婚約者である自分しか現状いない。
早速ラムは、桃に別れの挨拶がわりの一瞥を終えると、跳ね飛ぶ姿勢を作った。

 「じゃ、ウチはそういうことで。桃もせいぜい達者で暮らしてくっちゃよ~。じゃ、バイっちゃ」

 「あっ、どこに行くの?」

桃は黄色のパーカーのポケットに手を突っ込みながら質問を返す。

 「どこって、ダーリンのとこに決まってるっちゃ。探すんちゃ」

 「ダーリン………。あぁ、さっきのしのぶさん、って人のことか」

 「違うっちゃーーーーっ! マイダーリンは諸・星・あ・た・る、その人! しのぶなんて死のうが生きようがどうでもいいけー!!!」

発せられた頓珍漢な答えにラムはツッコミを荒げた。
振り向き様、ラムは適当に会話して去る予定だったのだが、フィアンセの名前=しのぶという冗談じゃない解釈をされた為、訂正せざるを得ない。
ラムにとって本当に「冗談じゃないないわっ」といった思いであった。
そんなラムの心中を汲み取ることは無いといった様子で、一方桃は気ままに話を続ける。

 「探す、ね…。奇遇にも、私もこの島の中で会わなきゃいけない人がいるみたいだ」

桃は支給された紙──参戦者名簿の名前を目に通しながら、そう話した。
無表情は変わらずとも、桃のその言葉にはどこか怒気というか悲しみに近い感情が込められてるように聞こえる。心なしかよく見れば顔は一層曇ったように見えた。
ラムは思う。様子から察するに、桃の知り合いもこのデスゲームに放り込まれてしまったのだろう。
人探しをする自分と照らし合わせ感情移入したのか、ラムは若干の同情を桃にする。
ラムは体を桃の方に振り返ると、会話のキャッチボールを続けた。

 「…それってもしかしてさっき呼んだ『シャミ子』って子のことけ?」

 「あっ、うん当たり。シャドウミセス優子。あの子、魔族の割に弱っちいから、私が探さないとあっという間に死んじゃうだろうし………」

シャドウミセス優子…。一見只者ではなさそうな名前だが、どうやらその探され人も軟弱で自分がいなきゃダメな人間のご様子。
ダーリンとシャミ子。そして、ラムと桃。話を聞くにつれ明らかになっていく両名の接点。
そのことで、ラムはこれまで適当に受け流し奇特な目で見ていた桃に、初めて親身になるようになっていた。

 「シャミ子……シャミ子が悪いんだよ……。どこにいるんだろ、不安で闇落ちしそうになる気分だよ…」

 「…桃!ならば、モタモタしてる暇はないっちゃよ!」

 「えっ、何…?」

 「何ももナニもないっちゃ! 探すっきゃないっしょ土井たか子っちゃ! 一緒に来るっちゃよ」

ラムは早く行くよ、と言うように手招きをすると、ふわっと空中に浮かび上がった。
浮かんだのはなにもラムの身体だけではない。
一緒に来い、という言葉で桃もこれまでの仏頂面から初めて笑みを浮かべたのだ。

 「…ははは。そうだね。さしずめ私たちは“探し人同盟”ってとこかな」

桃はラムに微笑を見せ、そう答えた。

ガール・ミーツ・ガール-Girl meets Girl-。
意気投合した女子二人は、互いの思いを胸に、並んで進んでいく。
彼女らが、この殺し合い下にて愛しのあの人へと、まるで磁石のように引き会うことができるのか──。
愛は運命に勝てるか否かは、今はまだ誰にも分からない。






大森林を抜けると、そこには切り開かれた広大なグラウンドと、学校らしき建物がそびえたっていた。
学校は古びた木造りの旧校舎で、『昭和』を生きるラムにとっては馴染み深い学校、『令和』を生きる桃からしたらオンボロの古臭い学校に見える。
広い校庭の中心にて、ラムは大きな声で叫んだ。

 「おーーーーーーーーーーーーーーーーーーいっ!!! ダーリンいるだっちゃかーーーーーーーーーーーーーーーー?!!!」

…。
答えはただ沈黙のみ。
この暗い学校にどうやら宛は無いようであった。

 「…もうっ!!! ダーリンはどこいるっちゃ!!! これだけ心配してるのに努力は実を結ばないっちゃあ!!!」

ラムがイラ立ちとしょぼくれを見せた様子で、後を去ろうとする。
と、その時、桃は唐突に口を開いた。

 「あっ、カブトムシ」

 「…へ? もんも~、どうしたっちゃ? カブトムシが何って………」

桃の方を振り向いたラムは、再び声を失うことなった。
桃は自分の近くにたまたま飛行していた『カブトムシ』を、目にも止まらぬ速さで正確に掴み取る。
ジタバタと抵抗の示しで動かす六本の脚を、ブチブチブチッと右手でもいでいくと、
そのまま、口の中に放り込んで、食し始めた。

 「……………………ぐげっ…! もんも…………っ、おま………」

もぐもぐと開始される咀嚼。口からはみ出るは繊維まみれの薄い羽根。
桃の口から黄色の薄い体液と内蔵が、何とも言えぬ音と共に零れ落ちていく。


殺し合い。
それは言うなれば、極限環境からスタートし、様々な知識やテクニックを駆使して昼夜を生き抜く“サバイバル”である。
サバイバルにおいて食事、特にタンパク質の摂取は生きることに繋がる。
そのため、たとえ生物だろうが虫だろうが、たとえ唐突だろうが捕食することは正当性があるのだ。
…などと、桃は勝手に思ってるのであろう。
何食わぬ顔で口内のカブトムシを飲み込むと、ラムに向かって語りだした。

 「大丈夫、味のことを考えなければ貴重なエネルギーだからね、昆虫は。脂肪があまり少ないからプロテイン代わりになって筋肉がエキサイトするし」
 「ラムは分かるかな? 生き抜くために必要なのは力でも勇気でも運でもない。『貴重なタンパク質を効率よく摂取する』、それが全てなんだよ」
 「昆虫食…にしても良いよね。そう思わないかな。確かに可食部は少ないし旨さも甘さもないけど、逆に言い換えればそれは糖を究極で完璧に控えれる完全食ってことだし。筋肉も喜んでいるよ。ほら、筋肉筋肉筋肉」


口からダラダラと虫汁を滴らせながら、桃の饒舌は止まることを知らない。
ラムの顔は当然引きつっており、顔色は青ざめきっている。
露出された肩からは分かりやすいくらいに鳥肌が総毛を立たせていた。

 (やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい…!!! やっぱコイツはおかしいっちゃ!! ウチは絶対合わないっちゃあーーーーっ!!!)

千代田桃。
彼女の何を考えているか一切予見できぬ筋肉ブレインに、さすがのラムもげろげろげぇであったという。



【B3/高校/1日目/黎明】
【シン・探し人同盟】
【ラムちゃん@うる星やつら】
[状態]:健康
[装備]:Androidの充電器@現実
[道具]:なし
[思考]基本:ダーリンに会う、のち生還
1:桃は超危険人物だっちゃ!
2:ダーリンに会いたいっちゃ!

【千代田桃@まちカドまぞく】
[状態]:健康
[装備]:未確認
[道具]:食料一式(未確認)
[思考]基本:シャミ子に会う、のち生還
1:口の中が体液でイガイガする。
2:シャミ子を早く見つけなきゃ。
3:殺し合いには乗らない。


←前回 登場人物 次回→
010:暗く狭いのが 012:シンジ「なにがBRだよ!」
ラム
千代田桃

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2024年01月13日 16:35